岩木山を考える会 事務局日誌 

事務局長三浦章男の事務局日誌やイベントの案内、意見・記録の投稿

遅ればせながら…自然観察会の報告(最終回)

2007-05-21 11:07:31 | Weblog
 (19日のブログを承けて)遅ればせながら…自然観察会の報告(最終回)

 さらに加えて、雨天の時は視界があまりよくない。その理由は、霧とか曇りとか暗いとかいう自然現象だけではない。傘をさしたり、雨具のフードで視界が遮られたり、左右、上下の視野が狭窄されることにもよる。
 だが、あまり見えない時ほど「聴く」という感覚での「観察」があるわけだ。
今回のそれは一つに、野鳥の鳴き声に耳を澄ますということであり、会員の「野鳥のプロ」が2人も参加していたので、その対応は十分であった。
 二つには、広い後長根沢の川原の林道は一応「沢」に沿って敷設されてはいるが、地形を改変しないで造られているので、ある場所では沢を離れ、別な場所では沢に接近していた。その距離が雪解けをたたえて流れる瀬音を、ある時は激しく、ある時は微かに響かせていた。それに耳を傾けることであった。
 広い川原に出る少し前に、杉の植林地がある。まったく手入れのされていない「放置林」である。間伐がまったくされていないので薄暗く、樹下には杉の葉が敷き詰められ、堆積しているだけである。緑なす草本の影はない。
 昭和40年代から、林野庁は山の雑多な樹木を伐採して、そこに「杉」を植えてきたし、林にもミズナラなどを伐って杉を植えるように指導してきた。
 樹木の寿命は人間よりも何倍も長い。ブナなどは400年から500年の寿命であると言われている。だから、林野行政は時間的に長いスパン、つまり数百年を見越した思想がその基本になければならい。しかし、日本政府や林野庁は「目先の価値」を行政の基幹にすえて突っ走ってきた。それが日本の天然林をことごとく消滅させることになったのである。「放置された杉植林地」は、それを証明する現実的な証拠の一面である。
 *間伐:(森林手入れ法の一。立木密度を疎にし、残った木の肥大成長を促し、森林全体を健康にするため、林木の一部を伐採すること。すかしぎり、疎伐ともいう)。

 杉の植林地を抜けたら、そこは明るく、ヤチハンノキなどが茂り、樹下には緑が一面に繁茂していた。地獄の出口を抜けて天国の門から広場に出たような気分になった。参加者は一様に、杉林と雑木林の「林床と林相」の違いを十分に学んだのである。
 
 明るい森、下草と竹藪に覆われている林床、ここは野鳥の楽園である。黄色と黒、オレンジ色の色彩で飛び交わし、枝上で鳴き交わすキビタキ。忙しそうに移り飛び交うヒガラやヤマガラたち。
 遠く瀬音に混じってひときわ高音でさえずる鳥がいる。野鳥の達人・飛鳥和弘さんが説明をしてくれる。「あれはミソサザイです。非常に小さい鳥で、地味な焦げ茶色をしている鳥です。目立ちませんが、鳴き声は澄んでいて、しかも高いトーンなのでよく聞こえます。あの小さい体で一体どこからあのような声を出すのか不思議なくらいです。」
 飛鳥(あすか)さんは野鳥の達人だが、「姓」との因果関係はないので断っておこう。実は密かに、私は『飛鳥さんは「野鳥の達人」となるべく「飛鳥家」に生まれた人ではないか。』と考えているのだ。
 
 時折、激しく雨を降らし、風を巻き上げるが、幸い落雷や雷鳴の一片にも遭遇しなかった。しかも、低空を覆っている雨雲が晴れ渡ることもあった。
 その時に、眺められる景色は…「墨絵の世界に淡いカラーが点在している一幅の屏風絵」であった。
 それは…眼前には、沢に落ち込んでいる急峻な谷頭が見える。雨天の霧に煙る谷の前景として、その左右に広がっているブナ林の尾根は淡い緑に白いタムシバの花、谷に接する低い部分はオオヤマザクラのピンクという美しい色彩なのであった。

 しかも、足許には白花のキクザキイチリンソウの群落があった。
ここでは会長の阿部東の出番である。参加者全員でキクザキイチリンソウを一輪ずつ採取した。そして「花びらの数」を数えたのである。正しくは「萼片の枚数数え」である。花びらと見えるものは萼片である。キンポウゲ科の植物にはこの手合いが多い。
 花びらの数は9~13枚であった。それを受けて阿部会長は「花びらの数は受け継ぐ遺伝子(染色体)によって決定される。あるものは、3の倍数という遺伝子で決定されて、それは3枚とか6枚の花びらになる。キクザキイチリンソウはここでは9~13枚である。だからすべてが3の倍数にはならない。ということはこの遺伝子は3の倍数ではなく、何枚でもいいという遺伝子なのである。」と説明した。
 全員、納得である。全員何だかとても「物知り」になったような、満足感と得意げな面持ちを見せていたのである。「よかった。」と心ひそかに思った。

 最後に参加者の感想として、Tさんのものを紹介しよう。
『雨の中であったが、それを生かしながらの観察会はすばらしいものだ。特に驚き感動したことは「スミレ」の香りである。スミレにあれほどの芳香性があることを初めて知った。植物や花を「香り」で探求し、愛でる経験は初めてである。これからもこの方法での観察を大切にしたい。また、別な意味での感動は「放置されたままの杉林」である。若い頃、勤務先でも杉の植林事業に協力して「学校林」に杉を植えた。今日見た放置林のようになっているのかと思うと、心が痛む。そして、国や自治体、民間で推し進めてきた事業の無策ぶりに寂しさと憤りを感じている。』
 
 今回の自然観察会は、このTさんの感想で締めくくりたい。雨天の自然観察会は十分に成功したと主催者の1人としては、考えている。