たんぽぽの心の旅のアルバム

旅日記・観劇日記・美術館めぐり・日々の想いなどを綴るブログでしたが、最近の投稿は長引くコロナ騒動からの気づきが中心です。

『赤毛のアンに隠されたシェイクスピア』より-イギリス文学-「太古からの平和がただよえる故郷」-テニスン『芸術の宮殿』より(2)

2022年05月09日 20時01分15秒 | 『赤毛のアン』

『赤毛のアンに隠されたシェイクスピア』より-「太古からの平和がただよえる故郷」-テニスン『芸術の宮殿』より
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「しかし幸いなことに、『テニスン研究』(西前美巴著、中教出版)に、詩のあらすじが紹介されていた。この本の記述を参考にしつつ、拙訳をまじえてご紹介しよう。

 そして次の一枚は
 イギリスの家の絵、
 灰色の黄昏が舞いおりる
 夕靄に濡れた草むらと森に
 眠りにつくよりもそっと優しく、
 すべてはあるべきところにあり
 太古からの平和がただよえる

         (テニスン『芸術の宮殿』82-88行、筆者訳)

 草むらと森に囲まれた田園の家、そこに安らかな日没が静かに訪れる。田舎の、平和な夕景を描いた一枚の絵の描写である。その一節が、『アン』に引用されている。アンが、マシューの墓参りから帰る道すがらに丘の上から眺めた、アヴォンリーの夕景もまた、太古からの静けさと平和のただよう美景であった、という引用意図だ。

 しかし、このときのアンは、心の底から満ち足りているのではない。むしろ、一抹の寂寥感とともに、暗くなるまで墓地に佇み、ひとりぼっちで、沈んでいく太陽とあかね色の村を眺めている。

 なぜなら、彼女は、大学進学を諦めたばかりなのだ。家なき子だったアンは、やっと手にした自分の家グリーン・ゲイブルズを手放すくらいならアヴォンリーに残ろうと、進学を諦める。アンを子守やお手伝いとしてではなく、本当の家族として引きとり、育ててくれたマリラに恩返しするためにも、大学を断念して、島に残って教員になろうと決めたのだ。アンにとって、この決断に、悔いはなかっただろう。島に残れば、大切なグリーン・ゲイブルズを守り、夢のように美しい島で、マリラとともに穏やかに生きていける。それはそで幸せだろう。

 けれど、文学学士になるという夢は、まだ消え去らず、アンのなかにほろ苦い余韻を残して、たゆたっている。自分から夢を手放した寂しさを、アンは、マシューのお墓に一人でたたずみ、村の日暮れをじっと眺めながら味わっていたのである。この虚しさを、マリラに話すことはできない。そんなことをすれば、マリラに負い目を感じさせるだけだ。アンは、何も言わなくても、いつも気持ちをわかってくれたマシューの墓前に行き、じっと嚙みしめるしかなかった。この場面は、そうした寂しさの滲む平安、という複雑な心境を示しているのだ。

 実は、テニスンの詩もまた、ただ単に牧歌的で平和なのではない。『芸術の宮殿』は、人生の苦悩と低俗な世間、庶民を侮蔑し、そこから逃避して、高邁(こうまい)な芸術のために、高い丘の上に壮麗な芸術の宮殿をたてる物語だ。冒頭から見てみよう。

第一連

 私は壮麗な歓楽宮を築いた
 魂がそこで永遠に安らかに住めるように、

 私は言った、「ああ魂よ、存分に楽しめ、安逸に
 いとしい魂よ、すべては申し分ないのだから」

 険しい岩場からなる巨大な高台の上に、つややかに輝く真鍮のような宮殿
 はりめぐらした城壁は輝く
 ふもとの草深い牧草地から
 突如として光におおわれて」

 輝く宮殿には塔が立ち、回廊がめぐらされ、美しい庭には噴水がある。屋内には、豪華な絵画が飾られている。さまざまな風景画(イギリスの田園風景のほかに、火山、海、森など)、そして偉大なる人々の肖像画(聖母マリア、アーサー王、シェイクスピア、ダンテ、ミルトン)だ。

 そこに魂は、王としてうつり住み、芸術のための芸術にひたるが、やがて、その孤独、虚しさ、傲慢さに病んでいき、さいごには宮殿を出て、高台を守り、谷間の質素な小屋に移っていく。『テニスン研究』の西前美巴氏によると、この詩は、芸術は人と離れて孤高にあるべきものではなく、人界にこそあるべきだという、テニスンの芸術観が現れているという。

 テニスンの詩の魂の選択は、アンの進路選択と驚くほど一致している。

 アンは、文学という芸術を、大学で孤高に、マリラという家族を捨てて学ぶのではなく、農村の暮らしという日常のなかで文学を愛し続けていこうと誓い、丘の墓地を下りていく。興味深いことに、魂が丘の宮殿を下りるのと同じように、アンもまた、この場面で、丘の墓地(異界)から人界へと下りていくのだ。

 こうした寂寥をたたえた感慨は、しかし物語の最後に、また光を得て急転回し、明るく輝き出す。」

 (松本侑子著『赤毛のアンに隠されたシェイクスピア』、169-172頁より)









「初代テニスン男爵アルフレッド・テニスン(Alfred Tennyson, 1st Baron Tennyson, 1809年8月6日 - 1892年10月6日)は、ヴィクトリア朝時代のイギリスの詩人。美しい措辞と韻律を持ち、日本でも愛読された。」(ウィキペディアより)

 19世紀末のヴィクトリア朝は、シャーロック・ホームズ、ジキル&ハイドの時代。
 
『赤毛のアン』が出版されたのは1908年、モンゴメリさんは1911年7月、36歳でマクドナルド牧師と結婚すると、新婚旅行で祖国スコットランドを訪れました(モンゴメリさんもマクドナルド牧師もスコットランド系)。


雪組『夢介千両みやげ』『Sensational!』-東京宝塚劇場公演5月11日初日

2022年05月09日 16時15分56秒 | 宝塚
雪組『夢介千両みやげ』『Sensational!』-東京宝塚劇場公演5月10日まで中止
https://blog.goo.ne.jp/ahanben1339/e/f78d28fcb07bdf0851b3b6ccb1d2aef8

 5月11日(水)13時30分より、雪組東京宝塚劇場公演実施とのお知らせ。指揮の上垣先生が、陽性も拡がらず舞台稽古は順調に進んでいるとツィートされていました。ジェンヌさんたちもオケのみなさまも、いつでも初日が迎えられるように準備されているのだとあらためて知りました。

 綾鳳華くんの退団公演、咲ちゃん、希和ちゃん、みなさま、一か月間無事に公演できるよう祈っています。わたしは2週間ほど先に友の会でチケットを予約しています。当日発券になかなか慣れることができずドキドキしてしまいます。熱が出ることなく、なんとか足が動いて、無事に観劇できますように・・・。

 新しいキャトルレーヴ、動画をみると広くて買い物しやすそうなので楽しみです。