たんぽぽの心の旅のアルバム

旅日記・観劇日記・美術館めぐり・日々の想いなどを綴るブログでしたが、最近の投稿は長引くコロナ騒動からの気づきが中心です。

『いわさきちひろ作品集7』より-「今だからこそ失わないでほしい」

2022年05月07日 17時49分22秒 | いわさきちひろさん
『いわさきちひろ作品集7』より-「今だからこそ失わないでほしい」
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今だからこそ失わないでほしい(「人生手帳」1972年12月号文理書院)

「-目的のない抵抗はダメ-

(近ごろ、若者は何を考えているのかわからないという大人が多いと思うんですけれども、先生からごらんになってどうでしょう。)
 私にもよくわからないんです。いまのはやりの男だか女だかわからない恰好、騒々しい音楽、鉄砲のように早いしゃべり方。流行のわからないのは年のせいだといわれるかもしれないけれど、こういうタイプの人に会うと、私はどう挨拶していいかわからなくなります。

(この世の中への抵抗である、と言っていますね。彼らは。)
 それはそうだと思います。でも、抵抗のし方はいろいろあるわけで、私が感じるのは、次に何も生みだせない抵抗のような気がします。自分は自分、親や親、政治家は政治家で、何も関係ないっていうんでしょうけれど、こどもができたら、いったいどうするつもりなんでしょう。

(今の社会が生み出したものなんでしょうね。)
 そうですね。そういう人の意見は一様にたいへん虚無的ですね。この世の中では人生に希望がもてないというのは、しぜんなことなのかもしれません。そこへもってきて、あらゆるマスコミがレジャーだレジャーだとさわぐので、一番うれしいことがもっともカッコよく遊ぶことだったりするんでしょう。

(結局、生きがいが見出せないということなんでしょうね。)
 私の若いころも生きがいを見出せなかったという意味では、いまの若い人と同じですけれど、その中身がだいぶちがうんです。私のころは、ガンジガラメな統制ととぼしさで、どうにもならなくて生きがいをなくされていたのですけれど、今の時代は、ものはありあまっているような世の中だし、情報公害と言われるほどのニュースが伝わり、ちょっと関心をもてば、社会のしくみがわかるようななかでの生きがいのなさなんですね。
 だから、若者のなかでも、社会的関心を強く持つ人と、ぜんぜんもたない人の両極端にわかれちゃったと思うんです。

-心の豊かさを失わないでほしい-

(近頃、若い夫婦が自分の子どもを殺してしまう事件が相次いでますけれど、先生の立場から一言。)
 そういうことは、今にはじまったことでなく、戦前からありましたけれど、昔はほとんど生活苦からやむをえずやったというケースです。いまのはめんどくさいとか、うるさいとかで殺すわけですから、母親の本能からいっても異常なことで、この異常な社会環境のなかで、気が狂ったのではないかと思ってしまいます。
 ドライな言い方をすれば、子どもを施設にあずけることもできるし、その気になれば、どこに相談したってなんとか考えてくれたり、力をかしてくれるでしょうに。それすらもしないということは、人間はだれも信用できないということなんでしょうか。
 こうした精神異常者をたくさん生み出しているような、この異常な社会を、私たちは見せかけだけの繁栄にごまかされずに、よく観察し、そして、人間は人間を信じあって一緒にやっていくんでなくては世の中をすみよくしていくなんてことは、なんにもできないんだと思います。人間どうしがバラバラでいる時に、人間がやったとは思えない、いろいろな恐ろしい事件がおきてくるんだと思います。

(そういうことは、彼らの問題でなくて、同じ社会に住んでいる私たち若者の問題でもあるということですね。)
 ほんとにそうですね。どんどん経済が成長してきたその代償に、人間は心の豊かさをだんだん失ってしまうんじゃないかと思います。
 それに気がついていない若者は多いのでしょうけれど、私はそのことを早く気づいて、豊かさについて深く考えてほしいと思います。私は私の絵本のなかで、いまの日本から失われたいろいろなやさしさや、美しさを描こうと思っています。それを子どもたちに送るのが私の生きがいです。青年たちは若いだけに、もっと大きい生きがいをもてるはずだと思います。世の中がいくらみにくくても、それにうちかつ生きがいは、若もののなかにこそあると思います。」