岸田政権は中国を「脅威」と言えるか 「米中二股外交」に米国が不信感 「国家防衛戦略」欠如が問題…自ら国を守る姿勢を示せ
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岸田政権は、中国を「日本の脅威」と認識しているのだろうか。沖縄県・尖閣諸島周辺に連日押し寄せる海警局の武装公船1つとっても、普通の国民には当たり前なのだが、実は、政府はそうではない。
1月7日に開かれた日米の外務・防衛担当閣僚による安全保障協議委員会(2プラス2)は、共同発表で両国が今後、それぞれの安全保障戦略に関する文書で「同盟のビジョンや優先事項の整合性を確保する」とうたった。
米国は、とっくに中国を脅威とみなしている。
例えば、ドナルド・トランプ前政権時代の2018年に発表された国家防衛戦略は、中国とロシアについて「彼らが米国の安全と繁栄に与える脅威の規模ゆえに、両国との長期的、戦略的な競争が国防総省の主要な優先事項」と明記した。
となれば、日本も米国に合わせて、中国を脅威と認識しなければならない。それが、中国に対抗する日米同盟の大前提になるからだ。
だが、現状はどうかと言えば、公式には中国を「安全保障上の強い懸念」(21年版防衛白書)と言っているだけだ。国家安全保障戦略に至っては「地域やグローバルな課題に、より積極的かつ協調的な役割を果たすことが期待されている」と、まるで「仲間扱い」である。
岸田政権は日米合意を受けて、年内に戦略を見直す方針だが、焦点の1つが「中国の位置付け」になる。果たして、米国のように中国を「脅威」と言い切れるだろうか。私は、危うさを感じている。
これまで何度も指摘してきたように、岸田政権は「米中二股外交」を目指しているように見えるからだ。米国も日本に不信感を抱いているからこそ、わざわざ「同盟のビジョンと優先順位の整合性確保」を念押ししたのだろう。
今後の日米協議は、「対中強硬姿勢を迫るバイデン政権と、抵抗する岸田政権」という構図になる。岸田首相が北京冬季五輪の「外交的ボイコット」問題のように、「日本には日本の立場がある」などと言い出すと、日米同盟が危機に陥りかねない。
懸案の「対面による日米首脳会談」が開催できるかどうかも、対中認識で一致できるかどうかが、最大のカギになる。
そもそも、日本には「国家防衛戦略」に相当する文書がないことも問題だ。あるのは、大甘な戦略と防衛計画の大綱、それに中期防衛力整備計画の3つだけだ。後者の2つは「どんな兵器をどれだけそろえるか」という話である。
本来は「国家の敵」をしっかり見定めたうえで、「対抗するにはどうするか」を考えるべきなのに、肝心の前提が欠けているのだ。ここは、脅威認識を明確にした防衛戦略をまず、策定すべきだ。
中国が尖閣を奪いに来てから、あたふたしているようでは遅い。
同じことは北朝鮮についても言える。「ミサイル発射は遺憾だ」ばかりでは、なめられるだけだ。米国に言われる前に、日本が自ら国を守る姿勢を示す必要がある。
■長谷川幸洋(はせがわ・ゆきひろ) ジャーナリスト。1953年、千葉県生まれ。慶大経済卒、ジョンズホプキンス大学大学院(SAIS)修了。政治や経済、外交・安全保障の問題について、独自情報に基づく解説に定評がある。政府の規制改革会議委員などの公職も務めた。著書『日本国の正体 政治家・官僚・メディア―本当の権力者は誰か』(講談社)で山本七平賞受賞。ユーチューブで「長谷川幸洋と高橋洋一のNEWSチャンネル」配信中。