韓国で高校教科書めぐり「歴史戦争」2013.10.1 11:10
【国際情勢分析】
高校で使う韓国史の教科書をめぐり、韓国ではいま保守派と左派の理念対立が激化し、さながら“歴史戦争”(韓国メディア)の様相まで呈している。日本で「日教組」による自虐史観の歴史教育が糾弾されたように、韓国でも近年、教員労組「全教祖」による左翼偏向の歴史教育が問題となっている。
こうした中、既存の「親北朝鮮・親ソ・反米・反韓国」(韓国メディア)の左偏向教科書に対抗し、保守派が新たに作成した教科書(出版社「教学社」)が8月末、検定を通過した。ところが、野党陣営や左翼系学者らがこぞって「歴史歪曲(わいきょく))」「親日・親独裁の欠陥右翼教科書」(韓国メディア)と非難し、検定取り消しを政府に要求。全教祖も9月中旬にデモを繰り広げた。
「親日・親独裁」
教学社教科書は、日本統治時代をそれまでの「抑圧と搾取」というマイナス面のみを強調した史観ではなく、日本支配下でも韓国人の自己啓発で韓国社会が発展したという「植民地近代化論」を取り入れている。
こうした記述について、全南大学のチェ・ヨンテ教授(59)は左派系の京郷新聞(電子版)に寄稿し、「慰安婦問題に対する記述など至る所で日本の侵略行為を過小にみた跡が発見される。また偏向した理念の定規で独立運動を歪曲した代わりに、親日の人々には免罪符を与えようという陰謀も伺える」とした。
教学社教科書では、朴正煕(パク・チョンヒ)大統領(1917~79年)について「民主化を弾圧した」という否定的な従来の評価よりも、「韓国の近代化と経済発展に大きく貢献した」というプラス面を強調している点もやり玉に挙げられている。
チェ教授は「民主化の部分に対する記述では、歴史歪曲をより一層露骨に試みた」「(1961年5月16日に起きた)軍事クーデターと朴正煕(大統領)の行跡を美化した」と指摘し、「歴史はノンフィクションであり、公正性と客観性を生命とする。教学社の教材はすでに歴史教科書としての資格を喪失したとみる」と主張した
韓国の出版社、教学社の高校歴史教科書をめぐり、左派や野党陣営が学問の自由を弾圧・妨害し、歴史を歪曲したとして抗議の声を上げる保守系の研究者たち=6月24日、韓国・首都ソウル(加藤達也撮影)【拡大】
新聞紙上でも応酬
左派系紙、ハンギョレ(電子版)は社説で、「一貫した植民支配・独裁の美化論調に対しては、日本メディアでさえ異例的であるというほどだ」と冷笑。さらに教学社の執筆者らに対し、「左派の社会掌握を防ごうと教科書を執筆し、教科書の内容に対する批判は左派の攻撃のみであると強弁する。歴史教科書の内容を左右対立の産物と見ること自体が時代錯誤的詭弁だ」と断じている。
京郷新聞の「時論」欄では、祥明大学のチュ・ジノ教授(56)が、教学社教科書について「誤謬だらけの欠陥教科書、反民族的であり、反民主的な危険な教科書は韓国の教育現場で決して使われてはいけない」と訴えている。
保守系紙、朝鮮日報(電子版)は、オピニオン面で「歴史教育の左派偏向を正そうとする教科書が登場するなり、左派寄りの学者やメディアが『親日・独裁を美化した』とまくし立て『ミス・歪曲・盗作だらけ』と主張した」と左派側の攻撃を批判した。
版元代表に殺害予告
一方、版元の教学社には抗議が殺到。社代表が殺害予告の脅迫電話まで受ける事態となり、出版を断念することも検討されているという。
こうした動きに保守系紙、東亜日報(電子版)は「一部勢力の攻撃は、憲法が保障している学問、出版、表現の自由に対する重大な侵害だ」と非難した。
保守系紙、中央日報(電子版)も社説で「左派の人々がこの教科書に対し右偏向教科書、日本の極右思考の扶桑社教科書よりさらに親日教科書だとのレッテルを貼り攻撃しても、検定基準に沿って検定手続きを通過した教科書は発行できる。それが民主社会の法律だ」と出版を促している。
同じく中央日報の「時論」で、カナダ・マックマスター大のソン・ジェユン教授が「異なる立場の教科書をただ病原菌を掃討するように集団的キャンペーンで撲滅しようとするのではなく、自由に教科書市場で競争すればよい。独善の危うさこそが歴史が呼び覚ます峻厳(しゅんげん)な教訓であるためだ」と論じている。(国際アナリスト EX/SANKEI EXPRESS)