あべまつ行脚

ひたすら美しいものに導かれ、心写りを仕舞う玉手箱

名画を切り、名器を継ぐ ・根津美術館

2014-10-12 17:16:54 | 美術展
 根津美術館、新創開館5周年記念特別展として、
 「名画を切り、名器を継ぐ」と題して
 美術にみる愛蔵のかたち の展覧会が開催されています。

 この極上の名品たちに心躍らせて行ってきました。

 なぜか若い頃から古美術が大好物で、そのものが歴史を生き抜いてきた、
 それだけでぽうっとなってしまいます。

 この展覧会は根津美術館でなければできない企画展です。
 この後、巡回もないのです。

 出品数は約百点あまり、会期中の展示替えもありますが、
 出品協力の所蔵者名がまた凄いところばかり。
 東博、京博、MOA、MIHO、徳川、五島、三井、大和文華館、
 泉屋、正木、三の丸、遠山、北村、永青、などなど、、、、

 古美術の極上の名品を所蔵している美術館からの出品に
 すでに大変な事が起こっていることを知らされます。

 会場では、墨画巻物、和歌集、絵巻物、三十六歌仙、
 また、茶道具の名器、陶磁器、などが並びます。

 つまり、古くは奈良平安、中国の南宋時代から時の人の眼によって
 選び抜かれた名品が
 受け継がれていく間に様々な事情が生まれ、
 切り、継ぐことによってその形を変えながらも大切に伝来してきた、
 変容の姿を展覧する企画となっているわけです。

 *国宝 瀟湘八景図 漁村夕照 牧谿筆 
 
  この瀟湘八景図の由来がなやましく、東山御物としての印、
  足利義満所有の「道有」の印章が確認できます。
  これは八つの景色に分かれ、牧谿への憧れが輝いていた時代に
  巻物で管理するよりは分断した方が合理的で茶掛けにも
  使い勝手がいいとされたことでしょう。
  不肖未熟ながら、過去に追跡記事を書いていたので、
  勉強が足りなく、お恥ずかしいのですが、
  自分の復習のためにのせておきます。
  こちら

  いずれかの時に 根津、京博、出光、畠山、の残された
  瀟湘八景図牧谿筆を並べてぜひ拝見したいものです。

 *青磁茶碗 銘 馬蝗絆 
  13日まで開かれていた、東京国立博物館東洋館での画像をご紹介します。(あべまつ写)
  



  
  この茶碗は東京国立博物館所蔵で、東博東洋館で
  5月27日~10月13日まで 
  「特集日本人が愛した官窯青磁」の中でも
  名品の一つとして展示されていました。(展示期間5/27~8/31)
  同時に川端康成が所蔵していたという汝窯の青磁の盤、なども出品され、
  南宋の青磁器の悩ましい翡翠色に見惚れました。
  また、竹橋の工芸館での「青磁のいま」という展示には
  この、馬蝗絆とそっくりな「銘 鎹」という青磁輪花碗と出会いました。
  鎹を打たれた青磁茶碗はひとつではなく、まだあるのかと仰天したのでした。
  その驚きはまだ続きがあることを
  ここ、根津美術館でも知らされます。
  「銘 雨龍」との対面でした。
  こちらは輪花のような切れ目がなく、すっきりとした朝顔のような形で
  とても可憐です。鎹も三カ所程度で痛々しさがない姿でした。
  
  奇遇なことでしたが、時同じくして青磁茶碗、3碗との出会いも嬉しい経験でした。
  
  もう二度と作れない、といわれ、鎹を打たれて治された青磁のやきもの。
  日本では鎹を打つ手法が見当たらないのですが、
  金継ぎなどの補修があらたな景色として楽しむ風土文化が
  それをさけたのかもしれないと思ったのでした。

  同じく、「銘 鎹」とされた、砧青磁の下蕪形のふっくらとした形の花入れが
  青磁のひび割れに鎹を打った作例として並んでいました。

 他、石山切、佐竹本三十六歌仙(殿方、姫方を前後して展示)
 駿牛図、京都国立博物館でずらり展示中の鳥獣戯画の断簡、
 平治物語、などなど。
 また、やきものでは、長次郎の赤楽茶碗破片を再生した「木守」
 桃山時代の志野茶碗の欠片を見事に一碗にした「銘もも」
 どこが割れていたのかまったくわからなかった朝鮮李朝の白磁壺。

 どれもが奇跡の継承を経て今に残されてきました。
 一つ一つの名品に伝来の物語があって、
 何故今ここにあるのかというエピソードを教わりながら
 なるほど、それほどまでに大切な物だったのかと感嘆せざるを得ない、
 物を大切に守って継承しなければならない、そう思うほどの
 名品の姿を期間限定で拝見できる喜びに浸ることができます。
 根津美術館、記念の展覧としてきっと輝かしい足跡となる
 素晴らしい展覧会だと確信しています。

 2階の展示室には伊勢絵、源氏絵がずらり並び、
 茶器のコーナーでは「和光を楽しむ茶」として、
 切り継ぐ、その精神を感じるもの、月明かりを感じる物が並びました。
 
 会期は11月3日(祝)までですが、
 10月15日から随分入れ替わります。
 
 瀟湘八景図の洞庭秋月、伝牧谿筆 徳川美術館所蔵は
 10月21日に展示されます。

 日本で愛されてきた名品の継承の仕方の
 慈愛と尊敬と畏怖とそれを守る技術と工夫に
 深く感じ入ることができる素晴らしい空間でした。

 図録はものがたりの語り部として、ぜひ手元に置いておきたいものでした。

 11月3日までの開催です。

 根津美術館のサイトはこちら。

 この日は、三時過ぎに入り、根津カフェにお邪魔し、モンブランケーキと紅茶をおやつに頂きました。
 緑の庭園を眺めながら、今見てきた名品を思い出し、
 ゆったりとした気分で、もう一度会場に入ってみてきました。
 閉館ぎりぎりまで楽しんだ、優雅な愉悦にひたることができた至福のひとときでした。


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2 コメント

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Unknown (ken)
2014-10-14 23:23:20
名画を切り、名器を継ぐ・根津美術館の記事拝見しました。あべまつさまの美についての深い知識、探究心に改めて感心している次第です。(私ごときが言うのも変ですが) 割れたり、欠けてしまった陶磁器に鎹を打って、それはそれでまた名器としての生命を甦らせる、すごい発想ですね。そして絵巻物や高名な禅僧、貴人の消息なども大胆に鋏を入れて分割してしまう、茶の湯が生んだ美意識にもびっくりです。君台観左右帳記のことはドナルド・キーン氏の「足利義政と銀閣寺」で覚えていました。あべまつさまのブログで思いだし、整理もせず積み重ねた本の中から先ほど引っ張りだして、また少し読み始めました。今回もまた勉強になりました。有難うございました。それから東博でいよいよ「日本国宝展」がはじまりますね。ブログ楽しみにしております。
返信する
ken さま (あべまつ)
2014-10-18 09:13:05
おはようございます。
いつも丁寧なコメントありがとうございます。
古美術ファンにとって、この秋は大変な展覧会ラッシュで予定をどうするか、悩ましい限りで嬉しい悲鳴でもあります。なかなか記事が追いつきませんけれど、頑張りたいと思います。三井記念美術館も貴重な展覧会開催中です~
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