あべまつ行脚

ひたすら美しいものに導かれ、心写りを仕舞う玉手箱

KAZARI-日本の美の情熱ー展 記念公演会を聴く 

2008-06-28 23:34:52 | 美術展
サントリー美術館の6階に、講義を聴く会場がある。
初めての事だから、どんな感じか掴めない。

できの悪い無駄に年長の学生が無理矢理高尚な講義に挑む、
そんな感じで、落ち着かない。
脳みそはちゃんと付いて行かれるだろうか?
会場には案外早く着いたので、
前から二番目の良い席に陣取る。

エスコートが行き届いているのが、サントリーらしい。
始まるまで、心と呼吸を整える。

壇上に3名の講師の名前が連なる。

新日曜美術館にも出た、
・ニコル・ルーマニエール女史
 02~03に、ジャパン・ソサエティ・ギャラリー(NY)と
 大英博物館(ロンドン)で開かれた「Kazari」展の
 ゲストキュレーターを勤める。
奇想の図譜でお馴染みの
・辻 惟雄氏
 「奇想の図譜」のⅢに「かざりの奇想」を発表する。
 現在、MIHO MUSEUM館長、若冲をはじめ、奇想絵師達を紹介し、
 日本美術を語る第一人者。
板橋区立美術館館長
・安村敏信氏
 東北大学で辻先生の講義を受ける。狩野派研究専門。
 板橋区立美術館のユニークな活動に目が離せない。

この3人が並ぶことが今回の目玉。
司会はサントリーの学芸員石田氏。
資料としての画像がスクリーンに映り、
今はパソコンでカチャ、で画像が映される時代。
拍手で講師達が迎えられて、
いよいよ始まりだ。

まず最初にニコルさんが、
今回のかざり展の前にNYとロンドンで開催された
展覧会の事を語ってくれた。
辻先生をすっかり敬愛して止まないという感じ。
彼女は02~03のNYとロンドンの「Kazari」展に携わり、
色々と感じたことがあって、
ともかくガイジンが日本の美術に驚いたということを
自身の専門や、自身の感動驚きと共に
紹介してくれた。

まずは海外でこの「かざり」という言葉に困ったらしい。
該当の言葉がなく
デコレーション、ディスプレイでは
表現しきれなくて、結局「Kazari」で通したのだそうだ。
どんな展示方法だったかというと、
日本では当然と思われることが通じないので、
例えば、抱一の着物を着た美人図(暁斎コレクション)の隣に、
歌舞伎の揚巻の小袖を並べる。

根津美術館が休館する前に、シアトル美術館から来た
からすの屏風のその横に
仁清の鴉の絵が描かれた茶壷を置く。
等のように関連を持たせた展示を心がけた。

若冲の絵や、
乾山や、高取のやきもの、
四季の屏風、
祭りの絵巻物、
吉原の遊郭、
また、縄文土器も展示した。
際だって外国ではあり得ない!と思えるものを展示した。

去年、大英で「土偶」展を開催したが、
ヨーロッパでは今、縄文がブームとなっている。
ギリシャでは日本ブースが欲しいとか。
ぜひ「Kazari」展をやりたいという希望がある。

終始にこやかに、辻先生をすっかり尊敬し、
隣の辻先生は
「先生といわれることはしていないんだが・・」
といったら、
その後から、
「辻氏・・・」
と訂正してお話しするかわいらしさ。
どうも、「Kazari」で興奮したのは、
海外、NYや、ロンドンの人々だったようで、
NYタイムスの記事も紹介された。

一文の紹介 (NYタイムス、Nov,8,2002)
 「日本美術がミニマリスト的美意識のものだという
  西洋の通年は一体どこから来たのだろう?・・・
  華麗な視覚効果をあちこちに盛り込んで
  おとなしくて清潔な文化という、異国がかった
  日本文化の見方を覆そうとしたのだ。・・・」

桂離宮を紹介したブルーノ・タウトの影響に代表されるように、
侘び・寂びのシンプルで几帳面、清潔なイメージこそが
日本の美と理解された。
装飾過多のかざりという表現があること自体が理解されなかった。
そういう点で、とても意義ある展覧を
ニコル女史が関わってきてくれたということだ。

つまり、この「Kazari]展は、そういった海外の目線を抜きには
語れないプロセスがあったという事が重要なのだと知った。
アール・ヌーボーや、デコに影響され、
ジャポニズムが生まれた
フランス、パリではやらないのだろうか?

次に、安村氏がマイクを取る。
「辻先生は東北大学のときの本当の先生だから、
 先生といわざるを得ないのですが。笑」
つかみ、OK!
次いで、氏のかざり論に入る。
かざりは、菌のように、外と内に増殖する。
と聞いただけで、若冲の梅の花がぶつぶつ湧いてきた。
まず、
・外への増殖
安土城、二条城、日光東照宮、輪王寺、目黒雅叙園など。
けばけばしく凄まじく、飾り立てる。
美しいのか、悪趣味とグロテスクの際どいぎりぎりの限界。

ここで私はつい先日行った雅叙園が紹介されて
ついニンマリ。
やっぱり、あそこは「Kazari」の移動展示室だ。
魚樵の間は、もう、凄すぎて、つまり、
イッテしまっている。
芸新に特集があった号を引っ張り出したくなる。
日光も、富士屋ホテルも、雅叙園も繋がっているのだ。
その号のタイトルは「わびさびなんてぶっ飛ばせ」
で、かざりの意味をバロックと表現していた。
異質、異端、そんなニュアンスのようだった。

・内への増殖
鈴木其一や、守一の描き表装や、騙し絵。
今回の展示にあった、「秋草屏風」
これは私は美しすぎて悶絶した!
屏風の中に窓を作りそこに金糸の布を張る。
柴田是真の漆絵、超リアルで漆でできたように見せかけた絵。
べっ甲細工の伊勢海老、
「北海道」の名付け親、松浦武四郎の
全国の古材を90ピース集めて作った茶室。
こだわりがものすごい。

また、単純化というデザインを考える。
オモダカ陣羽織の意匠はインパクトがあり、
シンプルで単純ではあるがストイックなわびさびではない。
宗達の描いた白象は、やはりシンプルだが、
思いっきり丸い線が表されている。
抱一の富士山の絵も、とてもシンプル。
花札のデザインもまったく余計なものがない。
これらに見える、シンプルなラインは
どれも、わびさびの粗末で飾らないという意味から離れている。

などなど、かざり菌は繁殖する外と内に増殖を続け、
単純化はわびさびではない、という実に面白い講義だった。
最後に
壇上の真ん中の辻先生が今までの話を捕まえて、
あちこちと話を飛ばす。

欧米ではミニマリズムが日本美とされている。
陣羽織の単純なデザインと、
ソルビットの線のデザインは似ているのか?
単純ではあるけれど、陣羽織はかざりと言う表現で、
ソルビットのラインはシンプルで洗練されている。

また、動物の世界でもメスを呼び込むための
かざりの求愛がある。
映像紹介で、それはそれは美しい巣を作って
メスを呼び込む鳥がいるそうだ。
人間は、どうだったっけ?

それを安村氏が受け取り、
兜はオスがオスを呼ぶ求愛なのかも?
との一言。
会場、どっと揺れる。

顕示欲としてのかざり。
兜は命がけの、遊びのかざりだ。

ソニア女史がまた面白いと思ったことを追加する。
日本はマニュアル文化だということ。
祭りのほんの一時のために、
終わったら壊すという祭りに、
飾るためのマニュアルがある。
これはとても興味深いです、だそうです。
辻先生が続く。
奉納にかけるパワー、一族繁栄、祈るための
かざりもあった。
荘厳するための祭器、仏具、彼岸のために捧げる。

サントリー学芸員の石田氏は、
これらの先生方の意見を聞きながら、
今回の展示を企画し、あれやこれやと協議しながら
展示してみました。
とのこと。

などなど、とても楽しい講義であった。
全てを書き切れないでいるが、
ともかく海外の「Kazari」に対する目と、
日本人の当然の普通のかざり、に対する目の違いが
輸出用に作られた陶磁器のように、
何とはなしに理解されたのだった。

現代の日本で生活していると、
古典のかざり工芸の凄さに驚くけれど、
今もなおその歴史の線上にあって、
脈々とそのDNAが引き継がれていることに
かざりの母国である日本人が
もっと尊敬し、継承していかなければならないと思った。
それにしても
ハレとケ、の境のなくなってきた現代。
キンキラデコの携帯とかまで紹介されるのは?
と思ったが。***

もっとも、日本の美は海外での評価によって、
命が吹き込まれてきた、
そういう側面もあるには違いないけれど。

凄いぞ、ニッポン!
思いっきり歌舞いて、
呆れるほどはみ出して、
ギンギラでぶっ飛ばしてもらいたい。

以上、私の講義メモからのご紹介でした。

実に面白い講義を聴くチャンスを頂けたのも、
サントリー美術館会員になったお陰でもあった。
また、チャンスが到来すれば、参加してみたいと思った。

全体の企画としては、食傷気味という感も否めないけれど、
展示してあるものが何よりも、
力溢れているものばかりだから、そんなことは気にならない。
呆れるほど、凄いものたち、良く集まってくれました!!!

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10 コメント

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Unknown (すぴか)
2008-06-30 09:21:43
おはようございます。昨夜から読んで感心していたところです。ありがとうございました。
臨場感あふれるレポートに、抽選に外れた私としてはとっても嬉しいです。

あの展覧会のためにはいろんな方のご協力、特にニコル女史、すばらしいですね。外国から見た日本など想像できなくて、教えられます。

今回の展覧会、一度は見ましたが盛りだくさんで、結局今まで好きだったもの中心に見てしまいましたが、明日内覧会があるので、もう一度見方を変えて見てみたいと、思っています。
返信する
すぴか さま (あべまつ)
2008-06-30 21:37:24
こんばんは。
喜んで頂けて、嬉しいです!

明日の内覧会楽しんできて下さいね。
私も、と思っていましたが、
上野に友が来るので、
コローに行ってきます。
会期末までにもう一度行きたいと思います。
辻先生は、ものの裏に隠れたかざりを見ることも大事なポイントと仰っていました。
箱裏、お皿の裏、羽裏、等々目の付け所です。
返信する
Unknown (oki)
2008-06-30 23:16:32
僕はまだこの展覧会行っていないのですが、この記事読むと行きたくなりましたね。
外国が日本のKazariに注目ですか!
近代美術館で「琳派」をRIMPAとした展覧会を開いたのとは事情が異なるわけですね。
内覧会とかサントリー友の会はなかなか魅力的ですね!
返信する
oki さま (あべまつ)
2008-07-01 00:00:43
こんばんは。
この講義を聴いてから、外人の眼になって見てみるというのも、一興かと思いました。
近美の琳派のときは、クリムトとか、ウォーホールまでいて??と思ったのですが、
琳派も、かざりも日本だけで喜んでないで、
世界中で仰天して欲しいと思い直しました。
7000円の会費ですが、展示替えの度の
チケットの苦労はないし、内覧会の招待、講義や、グッズの割引とか、友達一人連れて行けますし、充分元は取れますよ~
返信する
何度も通う美術館 (panda)
2008-07-01 09:44:05
 会員更新がてら月末に行き「しまった!」と思いました。
 激しい展示入替で見れなかった作品も多し。講演会はあべまつ様で堪能し、会場では音声ガイドで見所発見しました。
返信する
panda さま (あべまつ)
2008-07-02 13:03:58
こんにちは。
講演会の記事がお役に立てましたら、
嬉しい限りです。

六本木のサントリー企画は、勢い付きましたね。喜んでいます。

pandaさまの記事もとても読み応えありました。
返信する
待ってました! (悲歌・哀歌)
2008-07-08 16:04:28
あべまつ様
KAZARI展の講演会レポを楽しみに待っていました。
興味深い内容でしたね。
一日だけの祭りのために飾りをマニュアル化している、という日本文化。儚い飾りに心血を注ぐ、その精神はやはり日本文化ならではか?
海外からの眼差しによって、自らの文化に目覚める、これもまた日本独特の有り様かなぁー。
デコラティブなものだけがKAZARIではないと、思うのです。要は、効果的かどうか。
白地に黒だけで文字を書いても、それで効果が出れば、十分に飾りの役目を果たしているのでしょう。
意とする所が十分に表現され、尚且つ相手にそれが伝われば、飾りとしては本望でしょう。(擬人化してどうする)
日本のバロックとも・ロココとも言えるような東照宮や雅叙園と、桂離宮や利休を始めとする茶人が作った極小の茶室も、自己と他者の関係において意が伝われば、飾りとしては等価なのでは・・・?
展覧会では、バサラと立花に関する展示が弱いというか、殆ど無かったのが残念でした。
あと、刺青の展示も無いのが不思議でした。参考までに、ちくま文庫に須藤昌人「藍像」があるので、ご覧いただければ幸いかなぁー。これをパネル展示しても良かったのではないか知らん。
それにしても、我々には縄文以来ずーっと、カザリのDNAが息づいているのですね。
ハレとケの境界が失われつつある現代は、本当に良い時代なのでしょうか?
いろいろと考えさせられます。もう一度見にいこうかな。
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悲歌・哀歌 さま (あべまつ)
2008-07-08 21:36:30
こんばんは。

興味深いコメントありがとうございます。
かざりって、作者自身の技術を思う存分、他者に向けて、最大級アピールすることなのではと思い至ったところです。
神様や、為政者や、恋人や、隣の住人等々の他人様に対して過剰なサービス精神というのか、受け狙いというのか、誰かの目に対し、驚く姿見たさに、美を使った威嚇をしてみる、それがかざりの精神じゃないかと考えました。ちょっと、斜め独眼流ですが。

刺青、立花、バサラ、そういえば、欲しいところですね。
ご紹介下さった本、探してみます。
楽しい企画は、見た後の過ごし方に現れますね。DNAに感謝です。
返信する
Unknown (遊行七恵)
2008-09-23 11:09:46
こんにちは
講演会はニガテなので行かず、こうした読むベースになるのが好きなわたしです。
遅ればせながらやっとでかけました。
悲歌・哀歌さんの仰るとおり、刺青の美も入れて欲しかったです。
わたしは松田修の著書『刺青・性・死』にときめいていたクチなんです。
なかなか楽しめる展覧会で、京都でも大繁盛でした。
返信する
遊行 さま (あべまつ)
2008-09-24 18:37:58
こんばんは。

もう、ずっと以前の講義録を思い出して下さり、感激しています。
講演会は土日が多く、なかなか行かれないし、実はあまり得意じゃありませんけれど、
講演者に興味があって、実際楽しいお話が伺えました。
「刺青・性・死」おぉ~なタイトル!
彫り師の生き様を何かで見た気がします。入っては行けない領域、とビビビときました。
両生類のひんやりした美です。
晴れやかな美に隠れた美も沢山あると、
気がつきました。松田修氏、マークします!
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