あべまつ行脚

ひたすら美しいものに導かれ、心写りを仕舞う玉手箱

皇室の名宝展 2期 ・東京国立博物館 その2

2009-11-23 23:16:45 | 日本美術
第1章 のつづき
正倉院宝物

螺鈿細工の至宝、3点。
阮咸(げんかん楽器)箱(玉帯を入れるための)鏡
この3点からも、螺鈿がいかに重宝されていたかがわかる。
今もなお燦然と輝き、見る人の目も輝く。
緑と黄色の七宝の鏡も重厚に輝いていた。

象牙に色を染めて線彫りする、撥鏤尺。
紅牙と、緑牙。
花を咥える鳥は含綬鳥。鴛鴦や鳳凰なども線刻。
尺の厚みの横にもポチポチと可愛い丸模様。

鳥毛立屏風の天平美人をご存知の方は多いだろう。
今回はその鳥毛で文字の屏風。

フェルト状の敷物、寄木の香木の箱、
夾纈(きょうけち)といわれる染物の絁几褥
(あしぎぬのきじょく)
などなど、工芸の技術はすでにここに集結しているような気がした。
しかし、正倉院のお宝の名前も漢字も大変難しい。

第2章
古筆と絵巻の競演

能筆といわれる驚くべき人たちの名筆が
惜しげもなく並ぶ。
冷泉家展でも定家はじめ、恐れ多い方々の古筆を
わからないまでも見てきたが、
ここでも、おぉ~という方々の筆の跡。
小野道風、空海、橘逸勢、藤原佐理、行成、定信、
紀貫之、西行・・・

道風の筆跡は確かに優雅で軽やかで風雅を感じる。
佐理の筆はどこかで見ていて、大胆な運筆が珍しく印象に残っていた。
謝罪の文という空気が見えず、堂々と謝るってのは?
と友と笑った。
貫之の文字は線がきれいすぎてはかなげだ。
行成の文字はきっちり書道の先生的な真面目な線だった。
文字にも様々、荒くれたのびのびした文字が好みなのだった。

もう一つ目を引いたのは、
「伊都内親王願文」で、紙の下絵に赤の手形が押してあったことだ。
願文であるから、お願いする人の手形が押してあるのだろうか。
願うというより、怨念に近い執拗な願いが感じられた。

そして今回の目玉、絵巻。
「絵師草紙」
領地が得られるという話に糠喜びする貧乏な絵師のとほほな物語り。
全体に悲壮感がなく、大きな顔で表情たっぷりに描かれている。
大騒ぎの人々も、哀れボロボロの家に鼠が走っても
なんだかのんきな楽しさがあって、面白かった。

「春日権現験記絵」
この絵巻は20巻あり、
そのうちの修理が終わった1、5、19巻が
展示されることになった。
その美しさは目の前にしないと、画像とか、本となどからでは
やはりつかみきれない。
目の前に見ることができたその喜びは、大きい。
ちょうど奈良の春日大社で模本と披見台が
展示されているのではないだろうか?
春日大社に入る、一の鳥居から、ずっと、人々が動き、
鹿が遊び、草を食みついでに排せつもしている
細かなシーンに感心したし、喜んだ。
竹取物語のように竹林の空中に飛ぶ姫の美しい姿、
たなびく雲に乗って、冥界に旅立つシーン、
一生懸命大工にいそしむ姿、
静かな雪をまとった冬山の風景、
荒々しい血みどろの合戦の場面。
どれもこれもがとても丁寧で、色鮮やか。
絵を描くという技術は
すでに完成してしまったのではないかと思った。
20巻、どのような話で、どんな絵が描かれているのか、
ぜひとも通しで見てみたいものだ。

「蒙古襲来絵詞」
てつはうが裂けて、火花が散り、矢が飛び交い、
馬も血だらけで、どう見ても日本勢のほうが勇ましい。
蒙古の人々はほうほうの体で逃げいているようだ。
具足に身を包んだ兵士たち、あっぱれな馬たちも立派に行進。

「天子摂関御影」
鳥羽院を筆頭にずらずらと天子さまが居並ぶ。
鳥羽院だけが左を向き、後はみな鳥羽院に向かう右向き。
なんだかみんなピンとこないご面相。
後醍醐院が一番のいい男であった。
細川の殿系のお顔もあり。
女御達もご苦労があったことよ~

「小野道風像」
まったくえらい諧謔味で描いてくれたものよ。
道風の素敵な文字が揺れて見えてしまう。
せめてお若い時の雄姿を見たかった。

第3章
中世から近世の宮廷美
宸翰と京都御所のしつらえ

定家の文字とまた遭遇。
冷泉家にも素晴らしい文字が並んでいた。
定家の文字は癖があって、覚えやすい。
温かみもあるし、軽身もある。

伏見天皇が素晴らしい文字を書くのには驚いた。
宮廷で使われた料紙の美しさも目を引いた。
調度品の雅な半端じゃない工芸品の数々。
貝合わせの桶、宇治川の蛍が乱舞する硯箱、
お香のお道具セットなどなど。

お部屋には宗達の「扇面散屏風」
一つ一つ扇に描かれる絵が物語りしているし、
扇の散らし方、扇の骨の色分け、リズムがあって、
見ていて飽きがこない。

探幽の「源氏物語図屏風」
端正で丁寧で、双六のように並ぶ54帖。
「唐子図屏風」も探幽。
獅子頭をかぶって何やら楽しげなお祭り状態。
蝶も鶏も犬も馬の玩具もみんなで遊ぶ。

「糸桜図屏風」
狩野常信の屏風に簾をはめ込んだ美しいしだれ桜の屏風。
若冲を見たときに展示したことがあった気がする。

最後に
第4章 皇室に伝わる名刀
10口の展示。
今まであまり関心を示さなかった刀であったが、
今回初めて真面目に対面した。
刀といってもよく見ると様々な作為があって、
楽しいことを発見。
何よりこれが武器であること。
きゃ~恐ろしい~と背中にぞぞが走るけれど、
怖いものは美しいのだということも気がついたのだった。
短刀に龍が彫られた「銘 行光」
これを胸に刺していたら、怖いものはないだろうな、
などと妄想した。
これらの名刀は明治天皇の収集品がほとんどとか。
この際、刀についてちょっと探検してみるのも面白そう。

ということで、1期2期と大変充実した名宝を
堪能させていただけた、珍しいありがたい展覧会だった。
若冲は1回、絵巻名刀は2回見たことも
我ながら珍しい変貌ぶりだった。

長々しい感想にお付き合いいただき、感謝申し上げます。
2期は後もう少しで閉幕。
ぜひにもお見逃しのなきよう、ご覧いただきたいものです。

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7 コメント

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はぁ… (ken)
2009-11-24 23:36:34
思わず、ため息が…
海を眺めに行っている場合じゃなかったです。
情緒のない職場でフラフラになって帰ってきて、あべまつさまのお話しに心身ともに癒されております。
筋肉に触れなくても、身体まで楽になったような…笑
返信する
TBありがとうございます (三日月湖)
2009-11-25 20:19:03
1期にも増して、見所満点の2期でした。

願主の朱の手形がついた「伊都内親王願文」、寺院への追善の願文にしては、文字の持つ雰囲気が違う! という感じでしたね。

同じ日に、都美の「冷泉家」とダブルヘッダーだったので、宸翰と書が思う存分見られました。
三の丸尚蔵館所蔵品も多かったので、「見たことある」と思い出すのも何点か。

やっぱり、皇室も冷泉家も凄いな、と思いました。


トラックバック、いつも拝読しては送っているのですが、同時に送ったなかでgooブログだけ、はじかれているようで、「返し」がなくて申し訳ありません。
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ken  さま (あべまつ)
2009-11-25 22:14:47
こんばんは。

この皇室の名宝はそこらのお宝じゃないので、
実に高度なハイレベルなものばかりですし、
歴史を背負って生きながらえているものですから、とんでもなく半端なく素晴らしいものばかりでした。グレート!!です。
海は海で癒される大自然でそれも羨ましい限りです!
日々の大変さはどこかで癒してもらえないと続きませんよねぇ。応援します!!
返信する
三日月湖 さま (あべまつ)
2009-11-25 22:19:29
こんばんは。

いい展覧会が続いて、うれしい秋ですね。
1期、2期どちらも素晴らしい展示品ばかりでしたね。国の中枢にいる人たちを飾ってきたものばかりなのですものねぇ。ため息でした。

冷泉家とダブルヘッダーでお疲れじゃなかったですか?

TBのことはお気になさらずに、こちらもなまけものですっかりTBすることを失念したりして、
失礼していますが、いつも記事を楽しませていただいてます。
返信する
Unknown (はろるど)
2009-11-25 22:27:12
その2ではどうしても絵巻に集中してしまいました。
また狩野派+宗達の豪華絢爛金屏風コーナーも圧巻でしたね。
まさにメモリアルならではのラインナップでした。

>怖いものは美しいのだということも気がついたのだった。

全く同感です。
しばらく見ているとすっと背筋が寒くなります。
だから苦手なのかもしれません…。
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はろるど さま (あべまつ)
2009-11-26 20:52:48
こちらにも、こんばんは。

絵巻楽しかったですし、画力も半端じゃなかったでした。さすがの皇室コレクション。

刀は本当に危ない魅力、美学でビリビリします。刃先が首にちらっと当たったらと妄想してドキドキしました。懐刀ってのにもあこがれます。
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Unknown (すぴか)
2009-11-27 15:03:18
こんにちは。
昨日やっと名宝展2期見てきました。
やっぱり遅いほど混んでいるようでさんざん
でしたが、好きなところだけねばってきました。
春日権現すばらしかったし、名刀もじっくり、
不思議と刀を見るの大好きで、同好の方がいらしたと喜んでます。常設でもよく見る福岡一文字作などすごかったですね。
パソコン今日修理(HDの交換)に出すので、
記事は書けそうにありません。
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