あべまつ行脚

ひたすら美しいものに導かれ、心写りを仕舞う玉手箱

浅川兄弟(伯教・巧)の心と眼ー朝鮮時代の美 ・千葉市立美術館

2011-09-23 22:48:51 | 美術展
私が尊敬する眼の持ち主、柳宗悦。
その柳が西洋に向いていた目を東洋に向け、
朝鮮の陶磁器はじめ後に民藝と言われる物のめくるめく世界に没入したきっかけは
実はこの浅川兄弟がいたからということは、あまり知られていないのではないだろうか。
「白樺」の熱烈読者だった兄、伯教は
柳のもとに、ロダンの彫刻が見たくて
ご挨拶に朝鮮陶磁器を渡した。
それが柳宗悦の眼を変えた、一撃となった。
「染付秋草文面取壷」
今回は会場にその実物はなかったが、
(現在銀座松屋で開催中の柳宗悦展にその実物が展示されていた。26日まで)
たった一つのものが人生を大きく変えた証拠品なのだ。
その瞬間柳の全身に稲妻が走ったことだろう。
それからというもの、西洋には振り向きもせず、
朝鮮、日本、アジアの民衆に生み出された美への探求が始まるのである。

そして、一挙に浅川兄弟との関係が濃くなる。
どんどん虜になり、ついには朝鮮民族美術館を夢見るようになる。
実現の為に奔走する。
ついに、朝鮮民族美術館は1924年に開館する。
夢に見た開館ではあったが、悲劇が待ち受けていた。
激動の戦乱の後
その民族美術館は45年に今の韓国国立中央美術館に移す事となった。
朝鮮、日本、世界の歴史が激動した時代だった。
弟の浅川巧が40歳という若さで他界する悲劇もあった。
それでも柳との親交は変わらず、
民藝の仲間たち
河井寛次郎、浜田庄司、富本憲吉、石黒宗麿、を初め
川喜田半泥子、北大路魯山人、
大茶人益田鈍翁や青山二郎らとの交流も生まれる。

同時期にやきものを集める骨董商とコレクターの熱い
時代が巡ってくるのである。

戦後の日本陶芸に多大な影響を与えた存在だった、という事だ。

そんな浅川兄弟の業績と生涯を当時の資料などが並ぶ中、
朝鮮のやきものと一緒に通史的に見る事ができる展覧だ。

浅川兄弟は兄伯教が1884、弟巧が1891年に
山梨県中巨摩で生まれ育った。
伯教は美術学校に通わなかったが、教員になる為に独学で美術を
学んだらしい。
後に彫刻家を目指して新海竹太郎に入門し、
1920年の帝展には彫刻で入選を果たしている。
兄は教職、弟は農林業に従事していたが、
多くの日本人が朝鮮に渡った韓国併合時代に
兄弟で居を今のソウル市に移す。渡る前に二人はキリスト教に入信している。
朝鮮人街に転居してから伯教は美を求めて、初めて白磁の壷を買う。
人生が大きく動き出すきっかけの買い物だった。
いよいよ朝鮮陶磁器への研究が始まるわけだ。

居並ぶ朝鮮陶磁器の姿は
大阪東洋陶磁で、民藝館で見てきた物があるが、
兄、伯教の制作者としての作品とは初めて遭遇した。
作陶は実直な性格そのものが現れてゆがみの少ない、
きちんとしたなりに、どっしりした色の釉薬に唐津のような
素朴な絵付け。どれもが使い勝手の良さそうな
素直な作りだった。
李朝陶器の研究をしながら、自然と作陶へも興味を持ったのだろう。
もっと驚いたのは絵。
水墨画で朝鮮美術展覧会に何度か入賞するほどの腕前。
「ダリヤ」「めんたい」などはとてもいい雰囲気が滲んでいた。

浅川兄弟のコレクションはその多くが韓国国立中央美術館に今も
大切に守られている事だろう。

同時期の李朝陶磁磁器の逸品が
大阪東洋陶磁美術館、日本民藝館からぞろりぞろりの出品。
また、影響された作家作品も続々。

「青花辰砂蓮花文壷」


この壷は87年に大阪東洋陶磁で実物を見ている。
本当にあきれるほど愛らしく、なよやかで
温かく、滋味溢れる姿に心奪われた。
この壷がのちに浅川兄弟の深い縁のある壷だという事を知り、
また思いが深まった。
柳宗悦も大絶賛だったとか。

「青花窓絵草花文面取壷」

「粉青粉引瓶」
これも因縁の瓶。
伯教愛蔵の品で、広田不孤斎が熱望したという。
後に松永安左工門が箱書きをし、青山二郎、小林秀雄が所有してきた。

「白磁壷」

これらの垂涎物と再会できた事の喜びは大きかった。

 10月2日まで。千葉市立美術館で。

なお、浜田庄司展25日まで(汐留パナソニックミュージアム)
 柳宗悦展26日まで(銀座松屋)

共に会期末迫っていますが、ぜひ民藝関連展として
立ち寄る事もお勧めです。

また、日本民藝館での佇まいを感じつつ、あの温かな人肌を感じるような
やきものの世界を感じる事もぜひお勧めしたいところです。

来月は松濤美術館で芹沢銈介が始まるようです。

普段の生活を見直す良い機会を得たと思っています。

参考:浅川兄弟の心と眼ー朝鮮時代の美 図録。
   芸術新潮 1997 5月号 「李朝の美を教えた兄弟 浅川伯教と巧」

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