あべまつ行脚

ひたすら美しいものに導かれ、心写りを仕舞う玉手箱

五百羅漢図展 狩野一信 ・東京江戸博物館

2011-06-22 19:00:15 | 美術展
今から5年前、何気なく東京国立博物館に出かけた時に
2階の特別企画室に
とんでもなくオドロオドロしい羅漢図50幅がずらり並んでいて、
本当にびっくりした。
なんじゃこりゃ、というインパクトあり過ぎ。
それを描いた狩野一信という絵師がずっと気になって
そのときの図録を求め、
狩野派の本「狩野派決定版」別冊太陽
の最後に一信が取り上げられて歓喜していた。

しばらくして、
NHKBSハイビジョンで狩野一信の特番があって、
わくわく録画した。
あごの長い、耳の大きな役者さんだった。
(じつはあれはつけ耳だったとか?)
奥さん役は余貴美子さん。
番組はきっと文献に裏打ちされた丁寧な作りだったのだと思った。
内助の功の強さも一信が亡くなってからいっそう輝いていた。

そのときはまさか一信の大々的展覧があるなど
思いもかけていなかったので、
去年、山下裕二先生による監修で
大々的狩野一信展が決まったと知って、
本当に驚いたのだった。
所蔵している増上寺も太っ腹だと感心した。

着々と事が進んでいる情報に胸躍らせ、
予告チラシもしっかり手元にしまい、
いよいよ、始まるぞ!というときの

3,11

残念ながら、内覧会もなくなり、
開催も延期となり、
いったいいつになるのやらと気をもんでいた訳だが、

ようやく無事、開催日が決まったのです。

決まったと同時にテレビ放映や、アート本などがラッシュで
動き出し、追いかけるのが大変。

芸術新潮5月号は80ページ以上の力作。
山下裕二先生書き下ろし。
五百羅漢祭り状態。
喜んで購入。
山下先生は奇縁を感じることから、
一信からの指令を受けていると了解し
展覧会に臨んだそうだ。

ここまで追っかけて実物本物を見ない訳にはいかず、
初回はトークショーのイベントがあるという
有り難い情報を頂き、いそいそと出かけた。
始まる前に一度展覧を鑑賞した。
気にしつつ1時間はあっという間に過ぎた。

トークショーは
赤瀬川原平氏、南伸坊氏を交えての
仲良し3人おじさん組の羅漢様応援団の楽しいトークに笑った。
おじさんたちは姿はおじさんでも
中身はしょうがない少年そのもので
なんとも微笑ましいほどだった。

場内でいつもお世話になっているブロガーさん達と遭遇し
お茶する楽しい時間も嬉しかった。

日を改めて展示品が替わったのでもう一回出かける事にした。

2回目だから心得ているのだから
あっさり平常心で鑑賞できるかと思いきや、
初回より時間がかかってしまった。

何がそんなに凄いのか。

1幅に入る情報量と過激かつ緻密な画面。
絵の具の色の華々しさ、激しさ。
羅漢様ご一行の超絶な仕事ぶり、人相、
様々な場面の面白さ。
悲惨な場面であるほど画面がエネルギッシュ。
登場する人々、霊獣、霊鳥類、建物、自然、植物、
小道具、衣装・・・・

どれをとっても手抜きがない。
その飽くなきパワーに引きつけられるしかないのだ。

会場のほうは 
入り口からして既に怪しい気配。
怪しいビーム光線が漏れてくる。
薄暗がりにボウと浮かぶような大きな
2幅ずつのケースがこちらを見て林立している。

思わず息を飲み、生唾をゴクリとする。

羅漢様スペクタクル、エンターテイメント。
いよいよ始まります。
ここ、江戸博ですよね?

鑑賞者は誰もが画面の一番前に張り付いて
じーっと凝視。
おしゃべりする余裕も生まれない。
おばちゃんたちも寡黙の魔法をかけられていた。

ズンズン迫り、これでもかと
場面が変動して行く。

効果音とか、白檀の香りでも会場に流れていたら、
よりいっそう怪しげな臨場感が溢れていただろうと
勝手に想像した。

ここで、あの東京国立博物館の五百羅漢図が
平坦なものに思えた。
一信本人じゃないな。
一信のぎっちり執拗な目線と筆致は体力気力旺盛な
証だとしても、
手を抜く事はプライドが許さなかっただろう。

きっとお弟子さんたちの仕事だろう。
レプリカとしての仕事も重要な事だし。
師の残した仕事を丁寧に記録した、そんなところではないだろうか。
模本として、増上寺にある本作を担保に
宮内庁が保管していたのではないだろうか、とも想像する。

半ばでは
成田山新勝寺から大きな大きな金色に光り輝く
釈迦文殊普賢四天王十大弟子図 
が現れる。

この場所をしっかりと俯瞰し見守っている状態。
ライティングにも工夫があり、
ゆっくりと光が満ち、そしてまた暗がりになって行く
移ろいが楽しめる。

その後に、東博にある五百羅漢図も紹介されていた。
下絵図とか、日記の紹介も。
一信は安政の大地震を経験していたのだった。

山下先生肝いりのカーブケースのコーナーは
神通特設コーナー。
羅漢様ご一行の最も特別なる力をこれでもかと
ぐるり見渡せる場所となっている。
羅漢様パワーのクライマックスか。

個人的には
禽獣シリーズが楽しかった。
怪しい霊獣たちのあられもない姿や霊獣だからこその
容姿たちふるまい。
手なずけられてちっとも怖くなくなった様など。

また、それぞれの絵図の中に羅漢様たちを引き立てている
植物の存在感も特記したい。

いよいよ五百羅漢百幅の大大企画は
その主、一信の体力の衰えとともに
なんともあわれな画面となっていく。

それも自分の後を必ず継いでこの一大事を貫徹させんが為、
一信の弟子、奥方に
懇願し、それを引き受けた弟子、奥方の必死の
百幅成就への願いが切なくなってもくる。
絵が巧い下手だ、など言っておられぬ、切羽詰まった
仕事ではなかったか。

この江戸博で一信の世界をぐるり見渡せる
展覧を鑑賞できた機会に巡り会えた事に
ともかく感謝したい。

画面から溢れる熱情にしばらくかぶりついて
図録をまたひっくり返し、
一々の突っ込みなど入れながら
まだまだ一信の羅漢様の妖しい魅力の虜となっている。

絵図の鑑賞を改めて記事にしたいと思ってはいるが、
この暑さの中、どのくらいの事になるか、
ここでの明言は避けて、
鋭意努力する気持ちだけは残しておく。

3,11の大災害も羅漢様ならばなんとかしてくれようものを
という願いも込めて。

7月3日(日曜日)まで。
どうか、今年だからこそ、ぜひとも見に行って頂きたい
展覧です。

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4 コメント

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五百羅漢 (ritsu)
2011-06-22 20:04:20
はじめまして!暑いですね~
少し前からツイッターをフォローさせていただいていました。五百羅漢を紹介していただきありがとうございます。ホームページに掲載されている数枚を見ました。とても気になります。近ければ是非とも見に行きたいのですが、北陸の住人故ちょっと無理。残念です。カタログだけでも購入しようかな…と只今思案中です^^
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Unknown (すぴか)
2011-06-25 14:42:55
こんにちは。
凄いですね。5年前のあの展覧会から見ていらしたなんて、あれだってはじめてみたらびっくりでしょう。私は芸術新潮辺りからようやくで、観てからいろいろ調べ、東博で特別展があってそのときの図録も図書館から借りて見ました。あれはどう見ても、模本ですね。
今度の展覧会ももうあとわずか、もう一度行きたいと思っています。
返信する
ritu さま (あべまつ)
2011-06-25 22:06:43
はじめまして、ようこそ~
ツイッターフォローありがとうございます☆
本当ならば、あの絵の迫力ある大きさを実感しされた方が、と思いますが、
ご遠方ならば、厳しいかしら~
ぜひ、図録は充実してますから、それだけでも手に入れてご覧になる事お勧めします。
ハンパじゃないです。本当に。
またコメント入れて下さいね!
返信する
すぴか さま (あべまつ)
2011-06-25 22:09:43
こんばんは。

一信はたまたま東博で遭遇してしまった、そんな縁があるんだと思いました。
会期末になってますます盛況のようですが、
私ももう一回滑り込みたいものです。
大滝羅漢おじさんのイヤフォンガイドも聴いてみたいなぁと
思ったりもしてます。
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