秋の始まりは大変遅く感じた今年でしたが、各所で充実の展覧会が開催されました。
熱狂したのは、サントリー美術館での「鈴木其一展」で、3回通いました。
また、写真美術館が改装後リニューアルオープンに杉本博司展にも2回行きました。
アート鑑賞シーズン到来、という時がきた実感がぎゅんと迫ってきました。
9月の展覧会鑑を回想してみます。
9月
*はじめての古美術鑑賞 根津美術館
古美術という作品を鑑賞するに当たって、様々な技術方法の名称を知っていると
鑑賞眼が一段と深まるというものです。
なんとはなしに目にしてきた作品が、そういう技術方法があったのかと
改めて作品に敬意を持つ事ができます。
そんな切り口の展覧会を企画してくれました。
「たらしこみ」「うらはく」「はつぼく」「きりかね」
「はくびょう」「つけたて」「きんうん」「そとぐま」等々
毎度ながら、根津美術館蔵の充実にため息を漏らしてきました。
*シャガール、ヴラマンク、キスリング、、、館蔵7作家による
ヨーロッパ近代絵画
松岡コレクション 中国の陶磁 宋から元まで 松岡美術館
庭園美術館に行くときは松岡にも行くべきでしょう、と通っていましたが、
大変のご無沙汰、失礼しました。
目黒方面に出ることがなかなか遠くて、叶わない数年でしたが、
行った事がないという友人を伴って行ってきました。
美術館の建築姿も美しく、セレブなお宅訪問のような気持ちとなります。
この美術館は随分前からカメラOKなので、今回もさまざま撮影してきました。
見る楽しみと、撮る楽しみがいっそう鑑賞の気持ちを盛り上げてくれます。
中国の陶磁器の中で、宋〜元の期間の生まれた陶磁器は本当に美しいものが
勢揃いです。定窯、磁州窯、龍泉窯、景徳鎮窯、名だたる窯から生まれた
名品がケースぐるり並ぶ様は壮観でした。
隣の展示室には キスリング、ユトリロ、シャガール、ヴラマンク、
その中に藤田嗣治などが入り、
品の良いリビングにお邪魔したような気分となりました。
個人の邸宅で収集したコレクションを拝見できる、
ゆったりとした雰囲気を味わいながら、西洋、東洋の芸術作品を
鑑賞できる、唯一の場所です。
*茶の湯ことはじめ 畠山記念館
高輪の閑静な住宅地に静かな佇まいの畠山記念館。
そこのすぐ隣に白亜の御殿が建って、毎度、ギョッとするのですが、
お金に不足のない方が日本にこのような建物を建てようとすることが
不明なことです。
という感想もいちいち喧しくて申し訳ないのですが、
余りにも畠山記念館の緑深い環境と異次元なので、ついつい。
今回は茶の湯に触れたことのない方も楽しめるよう、工夫された企画展です。
とはいえ、所蔵品の品格に定評があるところですから、
きっちり、魅せてくれました。
珍しかったのは、仁清作 「錠花入」 大きな木製の錠前の形をした
やきもので掛花用の筒型で、造花朝顔が一輪が入れてあり
畳の上に上がっての鑑賞場所で、一幅の絵となっていました。
他、大のお気に入り、唐物籐組茶籠、
黒楽茶碗 銘 馬たらい 楽一入作
雨漏堅手茶碗、堅手片口茶碗、などなどがあり、
茶の湯で使用される名器が一同に並んで、
重厚感があるようで、大変わかりやすい夏使用の茶器が並びました。
レクチャーや、ミニトークなども企画されていて、
チャンスのある方は気軽に楽しめたのではないでしょうか。
*ガレとドーム展 日本橋高島屋
ガレとドーム作品は一体どのくらい世の中にあるのでしょう。
何度も見てきている作家、工房であるのに
今回もまた美しくも可憐な作品を見ることができました。
ガレはガラスばかりではなく、ファイアンスと呼ばれる
軟質陶器も精力的に作陶したきたようで、今回多数展示されました。
丁度知り合いのアンティークショップのお手伝いをしたところ、
ガレのファイアンス作品が店頭に並んだこともあり良い機会でした。
ドームにしても、ガレ同様、ジャポニズムに強い影響を受け
日本の動植物があちこちに現れます。
サントリー美術館での「ガレ」展、
三井記念美術館で開催された「アール・ヌーヴォーの装飾磁器」展に
繋がる、好機でした。
*12Rooms 東京ステーションギャラリー
現代美術コレクションとして世界最大規模を誇る、UBSアート・コレクションが
東京ステーションギャラリーに集結します。というのはフライヤーの一文ですが、
世界で優秀な企業がアート作品のおおいなるスポンサーであることの正義というか、
うらやましさというか、芸術への門戸が堂々と開かれていることに清々しささえ感じてしまいます。
投資、と言う意味合いもあるのでしょうか。
それでも感性に響き合うものをコレクションすることで
その企業のステータスは必然、美化されるのだと想像します。
その長大なコレクションからセレクトされた12名のアーティスト作品が並びました。
スーザン・ローゼンバーグ、エド・ルーシェイ、荒木経惟、陳界仁、
アイザック・ジュリアン、ルシアン・フロイド、アンソニー・カロ、
小沢剛、ミンモ・パラディーノ、リヴァー二・ノイエンシュヴァンダー、
デイヴィッド・ホックニー、サロンド・キア
見知った作家名と知らない作家が混在しますが、
エッチング、シルクスクリーン、写真作品が多い中、
カロのオダリスクが充実観あるブロンズ像でした。
ステーションギャラリーの企画展は毎回、工夫に充ちていて、
ワクワクさせてもらえます。
*千家十職の軌跡展 日本橋三越
お茶の千家に関わる、十職の仕事ぶりを一望にできる
滅多にない展覧でした。
土風炉・焼物師 永楽家
楽焼・茶碗師 楽家
釜師 大西家
一閑張細工師 飛来家
袋師 土田家
塗師 中村家
竹細工・柄杓師 黒田家
表具師 奧村家
指物師 駒澤家
金物師 中川家
この十職がどんなものを千家、茶道に捧げているのか、
圧巻の展示作品でした。
1回目に鑑賞した際、大変な混雑でしたので、
日を改めてゆっくり鑑賞しなおしました。
お茶の頂上が集まったのでした。
*たまふり弐 ギャルリさわらび
御贔屓の佐々木誠さんの木彫展が銀座の奥野ビルにあるギャルリ「さわらび」で
開催されました。
何回か伺うごとに、安心の場所、のようなギャラリーとなりました。
毎回、作家の佐々木さんともお目にかかり、オーナーの田中さんとご一緒にお話を伺えることも
楽しみの一つとなりました。
「たまふり弐」
現代に命を繋ぎながらも、佐々木さんの視点は遙か、
古代大和国を見つめながらほとばしる魂の住処である木に
鑿目を刻んで見る人に迫ってきます。
その鬼気迫る緊張感と、命の塊にぞわっとするのでした。
オーナーの田中さんのお手を煩わせ、影が美しかったので作品を持って頂きました。
*メッケネムとドイツ初期銅版画 国立西洋美術館
今年の西洋美術館は目玉揃いで、本当に歓喜の声を上げました。
その中では、地味な展覧と思われがちですが、
版画好きにとって、とても興味が引かれる作品群でした。
キリスト教が主題の物が多い中、なんとはなしに俗の香りがして
ユーモアも感じられます。
同時期のデューラーなどの作品を大量にコピーする傍ら、
その後、クラ—ナハにつながるようなダブルポートレートを
制作します。
この頃既にオリジナルとコピーの問題が生まれてきたことも
興味深いものでした。
この日は、コルビュジエ建築を観察することも楽しんできました。
心地よい建築物の中でゴージャスな西洋美術史を網羅する
西洋美美術館、常設の作品、スポットの企画展、
毎回おおいに堪能できる唯一の場所です。
ユネスコ世界遺産に登録され、入館者がぐっと増え
人気も急上昇のようです。
*杉本博司 ロスト・ヒューマン展 東京都写真美術館
東京都写真美術館のリニューアル完成のこけら落としが
「杉本博司 ロスト・ヒューマン」
杉本博司氏の紡ぎ出す世界観に惹かれ、展覧、お芝居など
チャンスがあれば駆け付けようと思うようになりました。
鑑賞するそのものに溺愛を捧げては本来の実際を見落とすのではと、
一定の距離を置きたいと牽制するのですが、
杉本博司界には、いちいち妙な反応の針が動いてしまいます。
東京都写真美術館、「TOP MUSEUM」と名称も新になりました。
その3回展示室では、〈今日 世界は死んだ もしかすると昨日かもしれない〉
と言うタイトルで、杉本氏の数寄者ぶりに文明が終わるという想定の下、
33の物語に各界の著名人直筆の解説文が色を添えます。
この話にあの方が直筆で!!
そういった楽しみも多いに心沸き立つ仕掛けでした。
展示は荒れ果てたソーホーのような古ぼけた壁に腐食したトタンが張り巡らされ、
この世の末期状態をそれぞれのストーリーの部屋ごとに
古美術とコンテンポラリーを取り混ぜた怪しい気配。
片隅には劇薬の入ったいると思しき小さなガラスの薬瓶が
確信犯的にソッと置かれています。
物語一つを取り上げれば長々しくなるので省略しますが、
ともかく、もう一度見に行かねば、気がつかないことが隠れていそうでした。
33の物語の衝撃と余韻に浸るまもなく、
次の展示室には漆黒の大画面写真が並びます。
劇場シリーズの〈廃墟劇場〉
三十三間堂の〈仏の海〉光学五輪塔。
大画面の写真にかけた時間が途方もないことを知らされますが、
周到に準備し、その作品に集約する光源の顛末に
写真ということの意味が無意味に感じさせられ、途方に暮れます。
そんな理解しようとすると混乱するループにはまり、
結局は杉本氏の思うつぼにはまりに行ったようなもので、
小気味よく罠にかかりに行く、そういうこともあっていいのだろうと
ひねくれた実は純粋な美の妄想伝道者に跪くのでした。
その後、またまんまと罠にかかりに行き、やはり杉本世界に
とらわれるのでした。
*鈴木其一展 サントリー美術館
「鈴木其一」江戸琳派酒井抱一の後継者である、その人の
一大展覧会が開催されました。
鈴木其一の名前を胸に刻んだのは2006年の東博、その名も
プライスコレクション「若冲と江戸絵画」
そこでは江戸琳派の抱一の後に紹介されて、
淡々とした写生の上手い、クールな筆が気になりました。
この年にはバークコレクション展も開催され、
遅まきながら、江戸絵画を知る上で貴重な展覧会続出の一年だったように思います。
その次に2008年、これも東博で開催された「大琳派展」継承と変奏 でした。
大琳派展では、其一作品は24点もの数が出品されて、おおいに其一作品を
堪能する事ができたのでした。
宗達、光悦、光琳、乾山、そして酒井抱一までが琳派主流の作家たちですが
その最後に現れるのが其一でした。「きいつ」と読むあたり、
抱一「ほういつ」の継承者だと感じ取ることができます。
以来、いつか、「鈴木其一展」と期待を寄せていましたが、
いよいよよ念願の大展覧会が開催されたのです。
サントリー美術館の会員になっているので、ぜひにもと内覧日に行き
レクチャーを拝聴し、その後、2回通いました。
「大琳派展」との再会の作品もありましたが、
なんと様々な仕事のできる人なのだろうと、感嘆しました。
抱一の存命中は抱一の片腕に徹し、品の良い江戸の粋と琳派の風が吹いています。
その師、抱一が亡くなった後、ようやく其一の本来の性分が表れてきます。
「朝顔図屏風」
その妖しさは朝顔を題材にし其一が独立しどうしてもやりたかったことを
屏風全面に表現した、そんな情熱と執念を感じました。
「夏秋渓流図屏風」
このミステリアスな画面は静寂を極め、群青と黄金色に緑青の三色が
林立する桧林をうねる妖しさ満点の屏風絵です。
写実的動植物は添え物のようでもありながら、
ちゃんと詳細な図も描けるのだと見る人に訴えてきます。
琳派や抱一ばかりではなく、円山応挙を学んだり、
写実への好奇心、描表装などの工夫、見る人へのサービス旺盛な技術、
下戸の抱一と違って、相当飲めて、ちょっと酒癖も悪い面があったとの
図録寄稿文を読んで興味深く思いました。
今年を振り返ってもこの展覧会は燦然と煌めいています。
メトロポリタン、ファインバーグ、近くは足立区郷土博物館、
細見、出光、根津、太田、畠山、千葉市美、東博、等々から作品が結集し、
個人蔵の作品も多く加わり、大々的な其一展が開催されたこと、
大変有り難い企画展でした。
今年も、サントリー美術館開催の展覧会は極上揃い、
また来年も楽しみに期待しています!
やれやれ、9月まで、こぎ着けることができました。
今年中に終えることができるのやら〜
暮れのお忙しい中、ご訪問に感謝致します。