あべまつ行脚

ひたすら美しいものに導かれ、心写りを仕舞う玉手箱

great ukiyo-e masters  ・松濤美術館 後期

2007-11-21 22:55:52 | 日本美術
今年は本当に浮世絵付いている。

ことに外国からの展覧がとてつもなくすばらしい。

今回のミネアポリスからの浮世絵は一体誰が先導して
コレクションとなったのか、そんな話を聞いてみたくなった。

ともかく前期の作品とごっそり入れ替わり
全とっかえでの後期展。

つくづくいいものをお持ちなのだ。

浮世絵の始まった頃の鳥居清信、
奥村政信、西村重長、などをきっちり抑えてから、
春信がやわらかな表現と色使いで目を楽しませてくれる。
絵こよみだったことが
画面の橋の木材の切り口に小さな文字が見えて嬉しい。
春信はこの絵こよみの絵師として名が知れてきたのだそうだ。
絵こよみから、見立て図、なんとなく買う人たちの
教養が知れる。
意外に「蚊帳の美人」は、絵がずっと慣れてきて、
大人っぽい雰囲気。
明和3~6年ごろにいい作品が生まれていたようだ。

ちょっと幼げではあるが品のよさが香り、
柔らかな線使いが春信の持ち味なのだと思った。

勝川春章から、役者絵がどっと並ぶ。
文句なくかっこいい。
前期に初めて見た、歌舞伎堂艶鏡。
彼の絵はとても現代的で、あの時代の空気がちっともにおわない、
不思議な雰囲気があるのだ。
マットで、綺麗で、役者の体臭を感じない。

私は北斎、広重、歌麿と並べば、
北斎を一番贔屓にしている。
歌麿のように美人を描かせたら、右に出るものはいないと思う。
恐ろしいほど女の真に迫ってくるものがある。
同姓として、この手の美人を目の前にして、
快く美人ね、とは言いにくい不都合な感じが溢れてくる。
男がおぼれる女は、こういう性質なのよ、
と言い捨てたくなるような。(笑)

広重は、ともかく真面目な感じが先行してしまう。
工夫を考えて、きっちり仕事をこなしていくような、
職人気質のような。
いい加減を好まないような。
野卑なところが一つもないような。
というところが、物足りなさを生んだりもする。

そこへいくと、わが北斎爺は、とんでもない。
何を描いても心がざわつくのだ。
ざわつかない絵師は、記憶から逃げていく。
「富嶽三十六景 甲州三坂水面」
だったか、逆さ富士山が湖に写っている。
こういう試みに心を射抜かれる。
富嶽もいいが、滝巡りも大好きだ。
あんな滝で禊をしたら、悪霊が覆いかぶさってきそうだ。
花鳥図もすばらしい。
花びら一つ一つを色分けしたり、彫の調子を変えてみたり、
ちっちゃな小動物を登場させて、
一瞬を切り取る。
そこで、緊張感も生まれる。
大概真面目を嫌ってふざけたところをどこかに表現するのが
北斎流。
百物語なんて、バカバカしい恐ろし絵を
とてつもなく丁寧に描ききるのだから。

その流れを継いだ、国芳。
つい先日NHKハイビジョンで、天才の肖像シリーズが放映されたが、
その中の国芳が面白かった。
外国から来た本の挿絵をしっかり頂いた絵があるとか、
彼は自分を登場させながらも顔を出さなかったとか、
そこで出てきた顔を舞い落ちる紙で隠された絵が
目の前に現れて驚いた。
「流行逢都絵希代稀物」
周りを囲む大津絵がゆるい表現なのに、
真ん中の好い男が顔を隠して縞の粋な着物を着ている。
ナルシストなのか、どうなのかわからない。
北斎を尊敬していたようだ。

しつこいようだが、
このコレクションの質の高さには驚かされた。
年末
江戸博で北斎が開かれるが、今年のトリが北斎であることが
妙に嬉しい。
鉄斎、仙崖、北斎、なんだか私お爺が好みなのかと
ちょっと面食らったりしてもいる。




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12 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
オジン⇔若者 (とら)
2007-11-21 23:28:17
こんばんは。記事が弾んでますね。

あべまつさんは、若者の心を失わないオジンがお好みなのでしょう。北斎が年末に待っているのですね。
返信する
Unknown (はな)
2007-11-22 11:18:56
こんにちは!
いいなあ。これ後期いかれたのですね!
前期とてもよかったので、機会があれば後期も…と思っていたのですが。

若輩者ながら、私も、男はおじんになってからこそ磨きがかかるものと思っております!←なんじゃそりゃ
返信する
Unknown (一村雨)
2007-11-22 22:18:05
江戸博の北斎もまた楽しみですね。
この巨人、本当に興味が尽きません。
しかし、今年は、浮世絵の当たり年でしたね。
いい展覧会尽くしで、浮世絵の楽しさを満喫
した一年でした。
返信する
とら さま (あべまつ)
2007-11-22 22:43:03
こんばんは。
あんまり素敵な浮世絵だったので、つい浮かれた文章となりました。
歳を重ねていても遊び心がある人が素敵ですね。
アホクサイの北斎はダントツです。
江戸博ですから、平日狙いたいところです。
返信する
はな さま (あべまつ)
2007-11-22 22:50:36
こんばんは。
松涛の浮世絵相当いいですよ!ぜひ!

私も若輩ながら(え?)女だって、おばんからが力のみせどころでっせ!と思っています。←おいおい
やりたいことやって、おちゃめ心を失わないってこと大事よね★
殿はいくつになっても少年心が大切のようです。
付き合う方も大変です。
返信する
一村雨 さま (あべまつ)
2007-11-22 22:56:58
こんばんは。
本当に今年は浮世絵のいいものを沢山拝見できました。日本人の美に対するこだわりにただただ敬服しつつ、日本人でよかったと実感しています。
北斎の創意工夫と、技量と情熱、反骨精神と、引越し貧乏に降参しています。
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Unknown (はろるど)
2007-11-23 01:12:18
あべまつさんこんばんは。いつもながらの素敵な文章をありがとうございます。展示の感動が甦りました。

北斎というと東博の大回顧展を思い出します。
空前絶後とでもいうのか、あれが私の北斎体験の始まりでした。
江戸博の展示も楽しみですね。浮世絵の名品で良い年末を迎えられそうです。
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はろるど さま (あべまつ)
2007-11-23 22:41:36
こんばんは。
コメントとTBありがとうございます。
 >いつもながらの素敵な文章をありがとうございま  す。
本当ですか??なんだかとっても嬉しいです!
励みになります!
東博の北斎展、長蛇の列と大勢の人出で、肉筆画だけ見てあとはスルーしてしまった、悔しい展覧です。・・・←根性なし
私の北斎体験はいつのことやら???
以来ずっと北斎にやられています。
返信する
国芳、北斎、広重 (meme)
2007-11-23 22:42:53
こんばんは。
広重の作品に真面目さを感じられるとのこと、
確かに私も同様の感覚を持ちました。
遊びきれていないというか。

NHKの国芳特番は面白かったですね~。
あの番組でますます国芳が好きになりました。

あべまつ様のお好きな北斎には「天才」の称号が
ぴったり。NHK特番での北斎と国芳の1度の逢瀬が
印象的でした。
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meme さま (あべまつ)
2007-11-23 23:13:20
こんばんは。
今日あたりまたどちらかへ遠征されましたか?
広重ファンの方には申し訳ないのですが、
色使いや構図、クローズアップの妙意などなど沢山見所はあるのですが、北斎爺が横にいると、どこか堅く泥臭さがないのが気になります。
お人柄が偲ばれる広重の肖像画を思い出します。

>NHKの国芳特番は面白かったですね~。
ほんと、楽しかったです。
これだけの番組作るNHKには受信料払ってもOKだなと思うのです。タラコの声はなんだか?でしたが。(笑)
浮世絵の裏にこういった物語があること知ってみれば、より楽しさ嬉しさ倍増ですね。
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