悩ましい年一度のベストテンの年末恒例イベントを越年してしまいましたが、
印象の強かった展覧を思い、振り返りたいと思います。
10 内藤礼 信の感情 東京都庭園美術館
リニューアルで休館中だった庭園美が戻ってきたそのうれしさを
建築のもつ歴史と暮らした人の歴史と内藤礼さんの目を通して
空間の内と外の光をみつめる静謐な共鳴が表現されました。
新館のスマートさは杉本博司氏のこだわりが随所に。
二年前亡くなった友にリニューアルされた庭園美を見せてあげたかったと
強く思いました。
鑑賞した後からも小さな人の視線の波動が心地よく残るのでした。
9 東山御物の美 三井記念美術館
唐物の頂点、足利義満の目で収集された将軍コレクション展。
それらが一堂に会することがあるのかと、驚かされた展覧会でした。
紅白芙蓉図、馬蝗絆青磁茶碗は今年色々な場所に現れ、
南宋時代の至宝、ここに極まれり、という名品が目の前に。
2回通いましたが、展示替えラストに行けず、
風邪引きになったことが悔やまれます。
8 光琳を慕う中村芳中 千葉市立美術館
光琳から継承されてきたはんなりした琳派継承を
芳中はよりまるっと愛嬌良く芳中化させてきたことを
圧倒的物量で楽しませてくれました。
大きな屏風絵から、小品まで、今でも全く古さを感じない、
ゆるゆる芳中デザインを堪能しました。
7 名画を切り名器を継ぐ 根津美術館
三井記念美術館と会期がかぶっての展覧で、
これまた贅沢な展覧会でした。
瀟湘八景の牧谿から石山切の名筆、藤原公任、定信や、岩佐又兵衛、
春の展覧が待たれる、鳥獣戯画の断簡も。
佐竹本三十六歌仙や茶器などなど、伝来の物語もまた興味深く、
どうしてそのようなことをしてきたのか、所蔵する人の伝来が加わり
作品に不思議なオーラを与えているようでした。
本歌の姿が実用に悩ましければ、それをエイと変えてしまい、
その変化に脚色が生まれ、新物語となってまた伝承されていく、
執着というものの恐ろしさと美しさが渾然となって迫ってきました。
6 仁清・乾山 京の工芸 出光美術館
仁清の仕事は端正、その形に絵が生まれた経緯、公家と武家の趣味の違い、
そして狩野派の協力と華美な絵付けが可能となって華やかな京焼がやかれてきました。
乾山は様々な陶器を研究し、楽しみ、自由を手に入れたように思います。
そのことが京都なのだということ、典雅な展示空間と
色鮮やかな図録と研究論文から教わりました。
この幅の広い視野から見た企画展の品の良さをつくづく感じ、
場内にはほんのりお香が漂っているような京が充満していました。
5 現代美術のハードコアはじつは
世界の宝である展 国立近代美術館
チラシの目くらまし作戦に危惧しましたが、
そのじつは、凄いコレクションで、爆風で吹き飛ばされた気がします。
アメリカの富豪がときどき凄すぎるコレクションをお持ちだが、
台湾の富裕層も注目すべきだと云うこと。
現代美術界の大御所がずらり並ぶ展示には度肝を抜かれました。
異界の地から異形のものたちが近美に乱入してきたのでした。
4 ボストン美術館 華麗なるジャポニスム展
世田谷美術館
日本の美術工芸が西洋でどの程度の影響を与えてきたのか、
浮世絵をコレクションして油絵の具で着物や小道具を描いて見た、
そんな緩い認識でいたけれど、
直接影響された画家の描く作品が相対するように展示された
とてもわかりやすい企画展でした。
これほどまで日本美術に衝撃を感じ、影響されてきたのかと
改めて西洋の日本への憧れを目の当たりにしました。
今更ながら、浮世絵師たちを誇りに思い、
それに影響された西洋画家たちのまなざしがまぶしく光るようでした。
3 フェルナンド・ホドラー展 国立西洋美術館
この画家をまったく知らなかったのですが、
今まで見てきた西洋画のなかでも何か特別な不思議な雰囲気を感じました。
ムンクの重い哀しみではなく、生死とともに生きてきた諦観というのか、
リズムを描いていても動いているようには思えないのです。
瞬間を切り取ってそのままオブジェにしてしまっているようで
描かれた人は生々しくなく、むしろ死んだ人の方が実体が残ってみえました。
スイスの山を描いてもどこか虚実あいまってこの世のものではない
ファンタジックな夢のような、フレームも興味深く、空想の実際。
色使いも独特。女性たちにまとわりつく青い陰、表情は堅く、
後ろ姿だったり、伏し目がちだったり、
感情の起伏はフリーズされているかのようでした。
チューリッヒ美術館展でもホドラー作品を見ましたが
すでに知人と出会ったような嬉しさがありました。
得体の知れない魅力のある画家を紹介されたようで
強く印象に残った作家で今後も記憶にとどめたいと思いました。
2 THE RINGS 指輪 国立西洋美術館
工芸美の極み、ジュエリー展というイメージで会場入りしましたが、
時代の流れに従い、指輪を巡る旅のようでした。
指輪をはめる人の衣裳や絵画なども展示され、とても興味深く張り付くように見てきました。
時代が進むとジュエリーとしての威力と洗練されるデザインと
金工技術や研磨機の発達なども見て取れ、要求も極まってくることを
実感し、引き込まれました。
映画スターが身につけていたような現代の作品も
古代の人々もスカラベ形のリングも指にはめて
身を守り、身を鼓舞し、憧れを纏い、時代を切り抜けてきたのです。
光る石の魅力に引き込まれそれを身につけようと思うのは、
有史からなにも変わりはないのだということも。
小さな展示作品なのに、ダイナミックな展示会場で
2回見に行く機会にも恵まれ、おおいに楽しんできました。
蛇足ながら、私はジュエリーより、勾玉が欲しい派です。
1 台北國立故宮博物院展 東京国立博物館
180分待ちの白菜行列。それだけでもイベント性の強い展覧会でしたが、
同時に20年前に台湾にいった人々との邂逅もあって
合わせて印象深い展覧会となりました。
当地に行けば、美味しいものにありつけるけれど
それはさておき、「國立」表記にすったもんだも懐かしく、
至宝との対面はいちいちため息が漏れるものでした。
東洋館の展示も故宮を意識した気合いの入った展示。
こういう相乗効果も嬉しいものです。
私は月曜日開館の夕方、小一時間で鑑賞することができました。
刺繍の凄さは目がちらちらしたし、汝窯の名品はやはり
玉を目指していたのだろうと納得。
ジュエリー的な輝きではない、マットな質感が東洋アジアなのだな、
と飴をなめる思いで見つめてきました。
至宝は国の力なのだと云う到底届かないはるかなものであることも
実感し、美術工芸の頂上をみたように思いました。
トップ10には入らなかったけれど、
それでも興味深かった展覧会
* 泥象 鈴木治の世界 東京ステーションギャラリー
* 能面と能装束 三井記念美術館
* 高野山 サントリー美術館
* 青磁のいま 東京国立近代美術館工芸館
* 輝ける金と銀 山種美術館
* 日本国宝展 東京国立博物館
* 人思い、人想う ホキ美術館
* 天神万華鏡 松濤美術館
* エルメス レザー・フォーエバー 東京国立博物館表慶館
* ミヒャエル・ボレマンス:アドバンテージ展 原美術館
去年は青磁を彼方此方で見る機会があったことも特筆すべき一年だったように思います。
また、南宋時代の至極の至宝とも随分対面できました。
川端康成所蔵の汝窯の青磁盤がこともなげに東博の東洋館に現れたのも
サプライズでした。
現代作家では、木彫作家、佐々木誠さんのギャルリさわらびでの個展は
ざわざわさせられました。
どの展覧も会場構成の工夫が丁寧なことが感動を引き出してくれます。
サントリー美は毎回会場の洗練された展示に喜びます。
出光はあの会場のサイズが心地よく、それぞれのケースを活かしきる構成が
プロフェッショナルです。
今年は庭園美に向かう回数が増えそうです。
根津美は庭園散策がセットで楽しめる所でご贔屓は変わりません。
東博はワンダーランド、不滅です(笑)
文楽では住大夫さんの引退公演、杉本文楽を鑑賞、
歌舞伎は年末に吉右衛門さんの伊勢道中双六を前から三番目の良席で、
演舞場でABKAI海老蔵さんのお香焚きしめた芳しい香りを花道際で鑑賞、
などなど、舞台も楽しみました。
まだまだ知らないことだらけで浅学非才厚顔無恥も甚だしい限りですが、
目指すなにか美しい魔力に導かれて今年もまた
彼方此方へと出かけていってみたいと思っています。
いけばな草月との関わりも広がり、
3月の花展へ出品することとなりました。
拙いながらもチャレンジャーであることは
老化ぼけ防止の手助けになるという助言も身に迫る年齢となりましたが、
90代の方が生け花教室に通い始めるという
すばらしいお手本がいらっしゃるので、年齢を言い訳に使わないよう、
前を向きたいと思います。
今年もわくわくドキドキをご一緒しましょう。
kenさまには旧年中は沢山のコメント、励ましを頂戴しました。今年も宜しくお付き合い下さいませ。
あやふやな記録ですが美術館展には71件、出かけたようです。今年はもう少し情報を管理できるようにしたいと思いますが、根っからのずぼらが直るわけでもないことをご容赦下さい。笑!
今年はどんな発見があるか今から楽しみです。
あけましておめでとうございます。
とにかく年明けの若様の決戦勝利を祈念しております。
良い1年となりますように!!!
お正月も半月が過ぎてしまいました。
慌ただしい新年でしたが、ともかくは目前のものをやりきることですね。応援感謝!!
今年も宜しくお付き合い願います。