2010年3月19日、2030年までのエネルギー政策の指針を定める「エネルギー基本計画」の概要が明らかにされた。その中で、原子力発電を「低炭素電源の中核」と位置づけ、今後少なくとも14基を増設するとし、現在60%台の原子力発電所の稼働率を90%に引き上げることなどが柱となっているが、原子力は本当に「低炭素電源」なのであろうか?
大島堅一立命館大学教授の著書「再生可能エネルギーの政治経済学」によれば、ウラン採鉱からウラン濃縮、発電、廃炉に至るライフサイクル全体からのCO2排出を計算するとkWhあたり66グラムのCO2を排出していると指摘している。原子力がクリーンであるということは欺瞞である。
原子力は、その特性から計画公表、電源開発調整審議会決定、着工から運転開始までの期間が10年と長く、更には戦争やテロの攻撃対象と想定されるため、極めて高いリスクと脆弱性を持っている。それと日本には活断層と言う脅威が存在する。原発直下またはその直ぐ近傍に活断層が存在している国は日本だけである。現存する53基のうちの約半数は、1978年の耐震設計審査指針すら無い時代に設計・施工されている事はあまり知られていない。
エネルギー基本計画の背景にある地球温暖化論は、化石燃料の消費量を減らす省エネルギー技術の開発を促進することになるが、その一方で化石燃料から再生可能エネルギーへの転換、または原子力エネルギーの推進の理論的根拠にもなっている。ただし現状の再生可能エネルギー技術は、よほど大きなブレークスルーがない限り基幹エネルギーとはなり得ない。この為、原子力を推進すると言うことになるが、原子力を中心にしたエネルギー基本計画は実現不可能に思える。現在も第4世代の原子炉開発が進んでいるが、新たな14基の原発立地は果たして可能だろうか?燃料のウランにしても偏在性が高く普通に考えると、今後世界中で原子力発電所が建設され稼動すればウラン価格は高騰し、資源は逼迫するのではないか。現在、モナザイトなどからレアアースを採取後、廃棄されているトリウムを軽水炉で燃やす事も有効であろうが、抜本的な解決には至らない。
また日本政府が進める核燃料サイクルの実現も極めて難しいだろう。今回のエネルギー基本計画にも「準国産エネルギー」と言う聞きなれない言葉があるが、これが核燃料サイクルを意味している。この核燃料サイクル(ウラン濃縮、使用済み核燃料再処理)に要する費用は18兆8000億円と見積もられている。しかしこれは再処理施設稼動100%を想定しているので実質的には六ヶ所村再処理工場以外にも第2の再処理施設が必要。97年に稼動する予定だった六ヶ所村再処理施設はいまだに稼動しておらず、現在まで2兆円の巨費が費やされている。74基の風力発電所が立地する六ヶ所村の再処理工場が稼動しないため、余剰プルトニュウムが国内に蓄積され続けている。不用意なプルトニュウムの蓄積は日本の核武装を容易に想像させる事もあり、これを少しでも利用するため必然的にプルサーマルを推進する政策がとられている。ようやく九州電力玄海3号機でプルサーマルが開始されたが、今の軽水炉はプルサーマル利用を前提として設計されていないため、想定外の事故の可能性を指摘する専門家もいる。最終処分場も未解決であり、高レベル核廃棄物は人類の手に余る厄介物であることが広く理解されるようになっている。
かように様々な解決困難な課題を持つ原子力をCO2削減策の中心に据えるのは真の低炭素社会を実現するものではない事は明らかである。過去の原子力政策の亡霊を引きずったエネルギー基本計画は抜本的に見直すべきである。
以上
【参照資料】
1.「エネルギー基本計画」見直しに当っての論点
http://www.meti.go.jp/topic/downloadfiles/100209a02j.pdf
2.「再生可能エネルギーの政治経済学」大島堅一(東洋経済新報社)2010年3月11日
大島堅一立命館大学教授の著書「再生可能エネルギーの政治経済学」によれば、ウラン採鉱からウラン濃縮、発電、廃炉に至るライフサイクル全体からのCO2排出を計算するとkWhあたり66グラムのCO2を排出していると指摘している。原子力がクリーンであるということは欺瞞である。
原子力は、その特性から計画公表、電源開発調整審議会決定、着工から運転開始までの期間が10年と長く、更には戦争やテロの攻撃対象と想定されるため、極めて高いリスクと脆弱性を持っている。それと日本には活断層と言う脅威が存在する。原発直下またはその直ぐ近傍に活断層が存在している国は日本だけである。現存する53基のうちの約半数は、1978年の耐震設計審査指針すら無い時代に設計・施工されている事はあまり知られていない。
エネルギー基本計画の背景にある地球温暖化論は、化石燃料の消費量を減らす省エネルギー技術の開発を促進することになるが、その一方で化石燃料から再生可能エネルギーへの転換、または原子力エネルギーの推進の理論的根拠にもなっている。ただし現状の再生可能エネルギー技術は、よほど大きなブレークスルーがない限り基幹エネルギーとはなり得ない。この為、原子力を推進すると言うことになるが、原子力を中心にしたエネルギー基本計画は実現不可能に思える。現在も第4世代の原子炉開発が進んでいるが、新たな14基の原発立地は果たして可能だろうか?燃料のウランにしても偏在性が高く普通に考えると、今後世界中で原子力発電所が建設され稼動すればウラン価格は高騰し、資源は逼迫するのではないか。現在、モナザイトなどからレアアースを採取後、廃棄されているトリウムを軽水炉で燃やす事も有効であろうが、抜本的な解決には至らない。
また日本政府が進める核燃料サイクルの実現も極めて難しいだろう。今回のエネルギー基本計画にも「準国産エネルギー」と言う聞きなれない言葉があるが、これが核燃料サイクルを意味している。この核燃料サイクル(ウラン濃縮、使用済み核燃料再処理)に要する費用は18兆8000億円と見積もられている。しかしこれは再処理施設稼動100%を想定しているので実質的には六ヶ所村再処理工場以外にも第2の再処理施設が必要。97年に稼動する予定だった六ヶ所村再処理施設はいまだに稼動しておらず、現在まで2兆円の巨費が費やされている。74基の風力発電所が立地する六ヶ所村の再処理工場が稼動しないため、余剰プルトニュウムが国内に蓄積され続けている。不用意なプルトニュウムの蓄積は日本の核武装を容易に想像させる事もあり、これを少しでも利用するため必然的にプルサーマルを推進する政策がとられている。ようやく九州電力玄海3号機でプルサーマルが開始されたが、今の軽水炉はプルサーマル利用を前提として設計されていないため、想定外の事故の可能性を指摘する専門家もいる。最終処分場も未解決であり、高レベル核廃棄物は人類の手に余る厄介物であることが広く理解されるようになっている。
かように様々な解決困難な課題を持つ原子力をCO2削減策の中心に据えるのは真の低炭素社会を実現するものではない事は明らかである。過去の原子力政策の亡霊を引きずったエネルギー基本計画は抜本的に見直すべきである。
以上
【参照資料】
1.「エネルギー基本計画」見直しに当っての論点
http://www.meti.go.jp/topic/downloadfiles/100209a02j.pdf
2.「再生可能エネルギーの政治経済学」大島堅一(東洋経済新報社)2010年3月11日