O's Note

いつまで続くか、この駄文

愛の法則

2007-09-04 21:46:01 | 涜書感想文
 タイトルを見てドキッとした方もいるでしょう。
 もちろん、「小生の」愛の法則ではありません。(苦笑)
 昨年5月にお亡くなりになったロシア語通訳者にして作家の米原万里さん。
 テレビのニュース番組でコメンテーターをしていて、そのコメントに『なかなか面白い方だな』と思っていたのですが、病に倒れ、お亡くなりになってもう1年以上が過ぎました。
 その米原さんの講演を活字にした本がこれです。

 米原万里『米原万里の「愛の法則」』(集英社新書、2007年8月)

 この本には、米原さんの4回の講演が収められています。
 第1章 愛の法則
 第2章 国際化とグローバリゼーションのあいだ
 第3章 理解と誤解のあいだ-通訳の限界と可能性
 第4章 通訳と翻訳の違い

 米原さんが通訳者であることからすれば、当然、第3章・第4章がメインになるだろうと思いますが、そして第3章・第4章は、たしかに頷ける内容なのですが、米原さんの発想の面白さが表れているのは、第1章と第2章でしょう。

 「愛の法則」では、「世界的名作の主人公はけしからん!」として、世界的名作では、主人公は醜男だったり、どうしようもない男だったり、いろいろなタイプの男が登場しているのに、男たちの恋愛対象になるロマンチックな感情の対象となる女は、みんな若い美女で決まっており、若いブスも若くない人も対象にならないと述べています。[p.17]
 米原さんは19世紀の名作を俎上に載せているのですが、それらはおしなべて同じような傾向にあると分析しています。
 また、次のような分類を披露しています。

「私はあらゆる男を3種類に分けています。皆さんもたぶん、絶対そうだと思います。
 第一のAのカテゴリー。ぜひ寝てみたい男。第二のBは、まあ、寝てもいいかなってタイプ。そして第三のC、絶対寝たくない男。金をもらっても嫌だ。絶対嫌だ(笑)。皆さん、笑ったけど、ほんとうはそうでしょう。大体みんな、お見合いのときって、それを考えるみたいですね。
 男の人もたぶん、そうしていると思いますけど、女の場合、厳しいんですね。Cがほとんど、私の場合も90%強。圧倒的多数の男とは寝たくないと思っています。おそらく、売春婦をしていたら破産します。大赤字ですね。」[pp.22-23]

 結構刺激的な内容ですが、この講演、高校生を相手にしています。たぶん、受けたでしょうね。
 A、B、Cの分類基準、思わず笑ってしまいました。それと同時に、90%強の男とは金をもらっても寝ないという米原さんはやっぱり普通の人間なんだと思いました。(なぜかはご想像にお任せします。)
 この話に続いて、ブルジョア革命とプロレタリア革命に話題が移るのですが、それぞれをもじって、「フル」ジョワジーと「フラレ」タリアートと表現したのは秀逸で、これも苦笑してしまいました。

 第2章では、通訳者としての米原さんだから説得力があるという事例が語られています。こちらも高校生を対象にした講演です。
 国際的と国際化という日本語の英語化について触れながら、「国際化」の意味するところの違いを次のように整理しています。

「グローバリゼーションというのは、英語ですから、イギリスやアメリカが、自分たちの基準で、自分たちの標準で世界を覆いつくそうというのグローバリゼーションです。
 ですから、私は同時通訳の時に、日本人が国際化と言うと、すぐ自動的にグローバリゼーション-ロシア語ですからグロバリザツィアという言葉ですが-と、ほとんど同じ言葉に訳してきましたが、今話しましたように、本当は逆の意味なのです。『国際化』と言うとき、日本人が言っている国際化は、国際的な基準に自分たちが合わせていくという意味です。国際村に、国際社会に合わせていく。
 アメリカ人が言うグローバリゼーションは、自分たちの基準を世界に普遍させるということです。自分たちは変わらないということです。自分たちは正当であり、正義であり、自分たちが憲法である。これを世界各国に強要していくということがグローバリゼーションなのです。
 つまり、同じ国際化と言っても、自分を世界の基準にしようとする『グローバリゼーション』と、世界の基準に自分を合わせようとする『国際化』とのあいだには、ものすごく大きな溝があるわけです。正反対の意味ですよね。これを私たちはちゃんと自覚するべきです。」[pp.64-65]

 実は、これと同じことは、前に紹介した、キャメル・ヤマモト氏も述べていたと思いますが、米原さんのように、ある言語を別の言語に変換して相手に意味を伝える仕事をしている人が語ると、より説得力があると思います。

 4本の講演には、ところどころに下ネタがちりばめられています。これが小生にはマッチしているようで(苦笑)、一気に読むことができた本でした。
 ぜひ、ご一読を。

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