O's Note

いつまで続くか、この駄文

学歴汚染

2007-03-04 19:40:00 | 涜書感想文
 いつの頃からか読むようになった小島先生(静岡県立大学)のブログ
 そのブログで、これまでの経過をまとめて単行本として出版するという告知があり、早速注文して読みました。
 小島茂著『学歴汚染~日本型学位商法(ディプロマミル)の衝撃~』(2007年1月、展望社)
 表紙からして毒々しいのですが(装幀も小島先生)、内容も「ヤバイよな」と思われる内容でした。
 この本は、小島先生がかかわってきたディプロマミルとのやりとりを、2004年6月25日から2006年12月21日まで、時系列的にまとめたものです。すでにブログや関連するホームページでだいたいの流れは知っていたのですが、こうして改めて読んでみると、いかにディプロマミルに騙されやすいかが透けて見えてきます。
 実は、大学教員になりたての頃、一冊の本を読みました。
 喜多村和之著『大学淘汰の時代-消費社会の高等教育』(1990年3月、中公新書)
 喜多村先生は高等教育論で有名な方で、15年以上も前に「大学は淘汰される」ということを主張していた方です。その本の中に「ディプロマミル」という言葉があり、それ以来、ディプロマミルという言葉が忘れられませんでした。
 ディプロマミル(Diploma Mills)。Diplomaは学位(卒業証書)、Millは工場ですので、学位工場ということになります。喜多村先生の本を読み返してみると、喜多村先生はディプロマミルを「ニセ学位販売業」と表現しています。一方、小島先生の方は、「学位商法」と表現しています。
 両先生の表現からわかるように、大学の名をかたり、学位(卒業証書)を法外な金額で売りさばく「商売」(会社)がディプロマミルというわけです(ディプロマミル以外にディグリーミルともいわれます)。
 喜多村先生の本では、「アメリカにはディプロマミルがある」ということで、アメリカの実情を紹介した内容でしたが、小島先生の本では、ディプロマミルの日本校とのメールや書簡でのやりとり、ディプロマミルに騙された被害者の言葉など、日本におけるディプロマミルの実態を採り上げています。
 日本に住む我々にとって、どうしてディプロマミルのような会社が成立するのかというのが疑問として上がります。
 これを小島先生は次のように説明しています。

 文科省が大学設置の認可を一括管理している日本と違い、アメリカでは、正式に大学を設置するには、原則的に、州の設置認可を受け、かつ、高等教育基準認定協議会(CHEA=Council for Higher Education Accreditaion)や教育省(Department of Education)から公認された民間認定団体からアクレディテーションという基準に認定を受けなければならない。アクレディットされていない、つまり、正式な大学とは認定されていない大学のことを「非認定校」(Unaccredited school)と呼び、オレゴン州をはじめいくつかの州は、一部の例外を除き、こうした大学の学位の売買や利用を法的に禁じている。(小島、p.13)

 アメリカでは、大学として設置しても(名乗っても)、まず州の認可を受け、次に認定団体から認定されない(認定基準を満たしていない)場合、正式な大学(日本でいう文科省管轄の大学)とは見なさないというわけです。裏を返せば、アクレディテーションを受けなくても、大学を名乗ることができるともいえるわけです(州の認可の有無にかかわらない)。
 もっとも、小島先生も指摘していますが、アクレディテーションを受けていない大学(非認定大学)すべてがディプロマミルというわけではありません(認定を待っている大学もあります)。しかし、アクレディテーションを受けていない大学は、その時点ではディプロマミルと見なされる可能性があることも事実です。
 
 さて、先にも書きましたが、喜多村先生が上梓した時代と小島先生のこの本との決定的な違いは、ディプロマミルの被害が対岸の火事ではなく、日本で現実に起こるようになったということです。そのもっとも大きな要因は、インターネットの普及とe-Learningです。
 本書で採り上げられている(実際に闘った)ディプロマミル日本校とのやりとりの中で、小島先生は次のように書いています(先方への手紙の一部)。

 私も、自分のホームページにも書いてあるように、インターネットによる通信教育(eラーニング)の普及を時代の流れとしてとらえています。同時に、問題は、ディプロマ・ミルや非認定大学がそれを悪用することであると、主張しています。

 インターネットが普及したことにより、アメリカの大学の情報が手に入れやすくなったわけですが、これは、ディプロマミルから見れば、日本人向けに売り込みやすくなったことを意味します。またもてはやされるように出てきたe-Learningという言葉を巧みに利用して、ネット上で勉強できて学位が取得できる、しかも日本語でOKというように、日本人に直接的に売り込めるような環境になったというわけです。
 本書では、ディプロマミルの被害者の話もたくさん出ていますが、心が不安定な状態だった、あるいは、競争相手に負けないようにキャリアアップをしたかったというような要因が吐露されています。
 小島先生のこれまでの警告が実ったのでしょうか、国会で、伊吹文部科学大臣は、大学教員採用時のディプロマミルの使用を調査すると述べました。すでにディプロマミルは、大学教員になりたい人あるいは現役の大学教員にも入り込んでいることを裏付けています。小島先生がディプロマミルを追跡するようになったキッカケの一つが、まさに同僚がディプロマミルからPh.Dを買ったことにあったと述べています(エピローグ、p.217)。
 制度の違いに発する問題とはいえ、今後もじわじわと浸透しそうな詐欺がディプロマミルといえるでしょう。

追記
 本書にも紹介されているサイト「健康本の世界」(khon)は、その名前から想像も付かない内容のホームページです。この中の「大学」には、非認定(含非認可)大学が紹介されています。それとともに、その大学から学位(博士号)を取得したと自らの履歴で紹介している方々(有名人もいる)の名前も紹介されています。

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