フジテレビ系列の番組に「ザ・ベストハウス123」という番組があります。小生、ほとんど見たことはありませんが、あらゆる分野のトップ3を決めてしまおうという趣旨の番組のようです。
子供たちが見ていて、たまたま一緒に見た放送で紹介されたトップ3の一つが「感動…必ず泣ける本」。
最近、ワケもなく『泣かせてくれる本が読みたいなぁ』と思っていた小生、番組に釘付け。(苦笑)
トップ3の第3位は実話もの、第1位は絵本でした。
その第2位として紹介されていたのが、この小説でした。
劇団ひとり
『陰日向に咲く』(幻冬舎、2006年1月)
劇団ひとりが本を書いたというのは知っていましたが、まさか泣かせる内容の本だとはつゆ知らず、番組を見て早速生協へ。
奥付を見てビックリ。昨年1月に初版。小生が購入したのはその29刷。ベストセラーじゃないですか!(それにしても最近、幻冬舎本にはまっている感じ。)
全部で5つのストーリーで構成されているのですが、読み進むうちに思い出したのが、若かりし頃読んで非常に感動・感激した井上ひさし『十二人の手紙』。この小説は、今でも、小生の中ではトップ3の一つになっているほど優れた構成・ストーリーを持つ本なのですが、『陰日向に咲く』もそれに近い構成・ストーリーになっていました。
つまりは、各ストーリーはそれぞれに独立しているものの、ストーリー間が一つの糸(出来事や登場人物)でつながっていて、最後にストンと落ちてストーリー全体が大団円を迎えるというわけです。
もちろん、劇団ひとりと井上ひさしとでは、時代も感覚も、そして台詞回しもまったく違いますが、先を読まずにはおれないという気持ちにさせてくれた点では一致していました。
さて、「ザ・ベストハウス123」で、とりわけ泣かせる部分として紹介されていたは「Over run」と題された第4のストーリー。
ストーリーの前半は、パチスロや競馬にはまった主人公が、魔法のカードと名付けたキャッシングカードでどんどんお金を引き出し、やがては借金が返済能力を大幅に超えてしまうまでを描きます。その結果、主人公が思いついたのが手っ取り早く金を調達する方法。それは振り込め詐欺。
ひょんなことからつながった電話の相手は老婆でした。ストーリーの後半は主人公と老婆との関係を巡って展開されます。
実は、「ザ・ベストハウス123」は罪作りな番組で、泣かせると思われる部分を引用付きで紹介していましたので、主人公と老婆の関係、そしてその結末を知りながら読むことになったのですが、それでも「うーん」と唸らせてくれる展開でした。
テレビ番組に出ている人が書いているこの手の本は、どうしてもその人のテレビでのキャラクターを想像しながら読んでしまいます。この本もまた、劇団ひとりの口調や声のトーンを想像しながら読んでしまいました。これが読み手にどのような効果(影響)を及ぼすかは非常に重要で、期待はずれになってしまった場合、本の内容それ自体が色あせてしまいます。しかし、『陰日向に咲く』は、文体それ自体が軽妙洒脱(まあ、軽いわけで)、台詞回しも劇団ひとりがいえばこうなるかなと思ったり、何より、登場する主人公が、男性の場合も女性の場合も、劇団ひとりそのもの、と思われるようないじけた感じがうまく表現され、それが小生にとってはいい効果をもたらしてくれました。
ところで、「泣きたい本が読みたい」と思っていて、「必ず泣ける本」という触れ込みで手にした『陰日向に咲く』。・・・・・・泣けませんでした。(残念)
5話とも、最初は笑いながら、最後はもの悲しく終わり、それなりに身につまされる話なのですが、小生の琴線と「ザ・ベストハウス123」の選者の琴線の波長が合わなかったのかもしれません。
案外、学生さんなら(若い感覚をお持ちの方なら)泣けるかもしれませんね。ぜひご一読を。