◎「古事記伝」の訓法に画期的な修正を加える
日本文学報国会編纂『古事記・祝詞・宣命』(国民古典全書第一巻、朝日新聞社、一九四五年一月)の附録「国民古典全書通信 第一号」を紹介している。本日は、その二回目。
本日は、この通信から、第四面の「編輯室より」を紹介してみよう。
編 輯 室 よ り
□中央公論社の自発的廃業により、「国民古典全書」の刊行は本社出版局の手に継承せられることとなり、決戦下の諸制約を乗り切つて、漸く〈ヨウヤク〉茲に〈ココニ〉第一巻を配本する運びとなつた。各位の熱烈なる御声援を得て後世に遺すに足るものとなつたのは、一つにはわが国力の頼もしい余裕を示すものでもあつて、御同慶の至りである。
□「古事記」は従来本居宣長の古事記伝の訓法がその侭〈ママ〉踏襲されてゐたのであるが、今回澤瀉〔久孝〕博士により、これに画期的な修正が加へられた。また次田〔潤〕・金子〔武雄〕両氏の「祝詞」「宣命」も夫々多年研究の結実を傾注されたものであつて、例へば宣命の本文の如きも宮内省図書寮本を直接照合し、国史大系本の誤謬を改めた点が少くない。斯くの如く一文字・一句読点をも忽せにしない担当諸氏の学術報国の熱意は、本全書の真価を彌が上にも高めずには措かぬであらう。
□装釘は芸術院会員香取秀真氏の御苦心によつて、表紙には敷島の大和心を象徴する爛漫たる桜花を、包紙にはゆかり深い各方面の蔵書印を捺し、国民古典の名に相応しい佳品を得た。
□本全書の編輯に関しては、日本文学報国会の編纂実行委員、池田亀鑑、塩田良平、暉峻康隆(現在応召中)、久松潜一、藤田徳太郎の五氏に、終始懇切な御示教を仰いだことを記し、厚く謝意を表したい。
□最近日本出版会で特別行為税を含めた許可価格の制度が作られ、本全書もそれに拠ることとなつて、第一巻は五円(税込)と決定した。従つて最初の発表とは変更になつたが、困難な時局下に出来る限りの低廉を期した次第、御諒承を乞ひたい。なほ、この価格は各巻頁数等により不同となつてゐる。
□第一巻の初刷一万部は日配で購読申込票による優先配給を行つたが、本社では多数読者の需要に応じて、予約扱ひにせず単行本扱ひとして増刷の予定であり、この分は一般の市販に供される。なほ、この度入手された向は、なるべく一人でも多くの読者に閲読の便をお与へ下さるやう御配慮を願へれば幸甚である。
□第二回配本は武田祐吉博士担当の「日本書紀上巻」の予定で、校正進捗中である。第一巻同様厳密な校訂にかかる原文と書下し文とを併せ載せ、その訓法は特に古代語法に拠つて統一し、平易周到な解説・頭注を加へたものである。
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第 一 巻 訂 正 表
頁 行 誤 正
一六 一〇 當藝志美美耳命 當藝志美美命
一九九 九 飯女之王 飯女之子
五三九 一 澎海國 渤海國
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