礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

「国民古典全書」は第一巻しか出なかった

2018-10-04 00:02:12 | コラムと名言

◎「国民古典全書」は第一巻しか出なかった

 先日、五反田の古書展で、日本文学報国会編纂『古事記・祝詞・宣命』(国民古典全書第一巻、朝日新聞社、一九四五年一月)を入手した。あとで、調べたところ、この「国民古典全書」として発刊されたのは、この第一巻のみだった。
 この「第一巻」には、「附録」として、「国民古典全書 通信」第一号という四ページの通信が挟まっていた(「通信」の二文字は右横書き)。「四ページの通信」といっても、B5判より、やや小さ目の紙片をふたつに折っただけのもので、質素きわまりないものである。いずれにしても、「国民古典全書」として発刊されたのは一冊のみなので、この通信も、「第一号」のみが世に出たということになる。
 本日は、この通信から、第一面の「第一巻発行に際して」、および「国民古典の意義」という文章を紹介してみよう。

国 民 古 典 全 書  通 信 第一号/「古事記・祝詞・宣命」附録
 東京都麹町区有楽町二丁目三/朝 日 新 聞 社/振替 東京一七三〇番/
 電話 丸ノ内(二三)一三一・一四一(代表)

  第一巻発行に際して
 日本文学報国会編纂にかかる「国民古典全書」の刊行は、第一期五十二巻といふ、長期継続の事業であり、苛烈なる戦局下印刷資材等にも幾多の困難が予想されるのであつて、中央公論社の自発的廃業により刊行継承の議が起つた際、本社出版局としても熟慮を要したのであつたが、関係当局の懇切なる勧奨もあり、且は本全書に集る挙國的な期待とその緊要不可欠なる、国家的性質に鑑み、万難を克服して完遂に当る決意を固めた次第である。
 茲に諸般の準備整ひ第一巻を発行するに当り、些か継承の微衷を披瀝し、併せて大方諸賢の厚く渝らざる御支援を冀つて止まぬものである。
  昭和十九年十二月   朝日新聞社出版局

  国 民 古 典 の 意 義   久 松 潜 一
 国民古典といふのは、国家的古典といふ意味とともに、国民にとつて必ず読まれるべき古典といふ意味もある。その国の古典はその国家の精神が一貫して居り、日本の古典は皇国の精神を根本に有して居るのである。かくして古典は、古典籍性とともに、規範性・不易性・国家性を有して居る。是等の点こそ古典か否かを判断する基準であり、古典もその古典性に照らして価値や位置が定められる。
 皇国の古典の中でも、詔勅・御製は申すもかしこし、古事記・日本書紀は肇国の事実と精神とを表して居る神典であり、最も尊重すべき古典であるが、その他の古典も夫々国民にとつて必ず読まれるべきである。古典こそ今を照らす鏡であり、国民として今日に処する道をさし示す基準となるのである。

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