礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

柏木隆法さんが回想する反戦映画

2015-11-21 05:35:13 | コラムと名言

◎柏木隆法さんが回想する反戦映画

 本日は、久しぶりに、柏木隆法さんの「隆法窟日乗」を紹介したい。八月一一日の分で、通しナンバーは、522。
 
 隆法窟日乗(8月11日)
 幽霊の話がでたところで拙が好きだった怪奇映画が一本あったのを思い出した。想い出したというのは拙が『少年探偵団』に出て、母の容態もよくなったから二子玉川〈フタコタマガワ〉から東京の町田に移り、そこから北里病院に通った。拙は二カ月ほどで土岐市に帰った。新東宝は奇妙な会社で髪や小道具、衣装なんかは全て有りあわせ。『湯の町エレジー』を撮った時なんか出演者で決まっていたのは水島道太郎だけで片山明彦なんかは半分ほど撮り終えてからロケ隊に合流した。酒場のシーンなんかは東十条で撮っておいて機材の運搬は銭高組の工事車両が好意で受けもった。監督は近江俊郎。舞台は熱海と修善寺。温泉旅館を一軒借り切っての合宿形式で自炊生活だった。現場では乳母車2台とリアカーで移動していた。監督がギターを弾きながら「湯之町エレジー」を歌い、同時収録で撮影をするという現在では有り得ない方法だったが、撮影に入っても脚本が出来ておらず、歌詞に合わせて撮影していったらしい。こんな撮影は現在では香港映画では使われている。大蔵貢〈オオクラ・ミツグ〉という人はオープンセットに金を使うことを嫌がったから全篇ロケも珍しくなかった。拙が小学4年生のころ、『幽霊部隊故郷に帰る』という映画が公開された。戦争映画は東映や東宝でもよく製作されていたが、この映画ほど製作費をかけていない映画はなかった。そして拙も幼いころながら反戦を印象づけた映画は他にはなかった。南海のテニアン島で一発の艦砲射撃で日本軍の一個中隊が一瞬にして全滅する。戦闘行為もないままに全滅したから兵隊も自分が死んだことに気付かない。その一個中隊が隊列を組んで海から現れ、3日の帰宅を許されてそれぞれの家庭に帰っていく悲喜劇である。疑似爆弾を使うような派手なアクションシーンは全くないが、3日を経てまた同じ海岸から隊列を組んで海へ帰っていく。死んでも死に切れぬ霊が平和な家庭に憧れつつ帰るところもなく永遠に同じことを繰り返す。ここには靖国神社も皇居広場も出てこない。一目散に故郷に向かう幽霊たちが哀れであった。これと比べれば『日本でいちばん長い日』などは戦争を起こしたことに自己反省もなければ責任の所在もない。阿南惟幾〈アナミ・コレチカ〉が割腹したところで縄目の恥から逃れただけの話である。生きて帰ることを念じつつも帰ることができなかった人々ヘの視点が欠けている。昭和27年に公開された成瀬巳喜男〈ナルセ・ミキオ〉の『雲流れる如く』でも特攻隊は確信犯である。砲火の下を逃げ惑って近代兵器にあっさりと殺された兵隊とは異なる。東映の『ひめゆりの塔』でも「戦う」シーンはあったが『幽霊部隊』はいとも簡単に殺されるところから物語は始まる。戦争映画は厭戦までは許されるが反戦は表現されない。NHKの『坂の上の雲』のように日露戦争に反対した一団もあったはずだが全然描かれなかった。ここにも政治的意図が見え隠れする。敗戦記念目が近づいてくると、さまざまな戦争秘話が出て来る。当事者は声を揃えて「二度と戦争の悲劇を繰り返してはならない」というが、自分が最もくだらない生き方をしたことに反省はない。戦争に懲りた経験があるならば黙して語らず、そのまま墓場まで持って行けといいたい。なまじ戦争を懐かしむような発言をされると迷惑である。厭戦と抑止力は紙一重のところにある。中国との戦争回避は相手の軍事力に拮抗するだけの最低戦力を保持することで避けられるというが、相手国と同等になれば際限なくエスカレートすることくらいは中学生でもわかる。軍拡競争になれば抑止力にはならないからである。沖縄の本土返還からすでに46機のヘリコプターが墜落している。米軍基地の74%が沖縄に集中しているときに普天間から辺野古への移転は軍用基地の拡大に他ならない。現に沖縄には死してなお帰れぬ『幽霊部隊』が彷徨って〈サマヨッテ〉いる。同じことを繰り返すのか。522

 柏木さんによれば、日本の戦争映画の場合、厭戦までは描かれても、反戦映画はほとんどない。その数少ない例外が、『幽霊部隊故郷に帰る』であったという。柏木さんのこの一文を読み、同映画に強い興味を抱いた。しかし、インターネットで調べてみても、該当する映画が見つからない。
 一九五六年公開の大映映画『姿なき一〇八部隊』と設定が似ているが、ディテイルは微妙に異なっている。『姿なき一〇八部隊』も観てみたいが、柏木隆法さんの記憶の中にある反戦映画『幽霊部隊故郷に帰る』は、それ以上に観てみたい。

*このブログの人気記事 2015・11・21(7・9位にやや珍しいものが入っています)

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