礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

近衛のやり口はいつもそれだ(木戸幸一)

2021-08-23 01:31:15 | コラムと名言

◎近衛のやり口はいつもそれだ(木戸幸一)

 富田健治著『敗戦日本の内側――近衛公の思い出』(古今書院、一九六二)から、「(四三)八月十五日直後の政局」の章を紹介している。本日は、その四回目(最後)。

 近衛公の東久邇宮内閣における地位は必ずしも愉快なものでなかった。総理宮〈ソウリノミヤ〉と仲はよくいっていたようであるが、総理側近の一部では、近衛追出しの策動をやっている者もあるとさえ言われていたし、一方、新聞の論説などにも、例えば、九月二十一日付朝日新聞でも社説で近衛攻撃をやるし、議会でも斉藤隆夫、川崎克〈カツ〉氏らが、しきりに近衛攻撃をやることになった。もっとも、これらの中には宇垣〔一成〕大将かつぎ出しのため、その邪魔になる近衛をたゝけという意図の者も多かったことは事実のようである。
 一方近衛公を中心として新政党を組織しようという動きも活発になってきた。これには主として政党関係者が多かった。私も東久邇内閣は、とても長くもたない、そこで近衛公が新党を作って、内閣首班となり、時局を収拾しなければならないと思う。又これは近衛公にとって、前の大政翼賛会の失敗に対する懺悔でもあると思うと進言したことであった。又私は当時漸く政界上層部に総司令部からの戦犯指定の嵐が吹きつけていた際でもあるし、近衛公が総理になっていたなら、中国などから、戦犯として引渡しを要求してくるようなことがあっても、これを阻止できるだろうとも、今から思えば、甘いことを、心中考えていたのであった。ところが近衛公は私のこの進言に対して、案外真剣になって、『私もそのことは考えているが、木戸〔幸一〕の意見を聞いて欲しい。木戸に反対されては駄目ですから』ということであった。
 そこで私が木戸内府にこのことを話に行ったところ、木戸さんは『近衛のやり口はいつもそれだ。自分が本当にやる気なら僕の意見に拘らずやったらいゝじゃないか。併し新党を作っても、翼賛会の時と同様、恐らくすぐ厭や気がさして又逃げ出すのではないか、今度そんなことをやったら生命もありませんぞ、自分は近衛のやり方には、どうも信用できぬからその意味で反対です』と言われた。そこで私は『今までと違って、今度は生きるか死ぬか、逮捕されるかどうかというギリギリの問題だからして、今迄のようないゝ加減のことではないと思います。公爵自身も相当決意されていると信じています』と述べたが、終に〈ツイニ〉木戸内府の同意を得られないまゝ、私は帰って、このことを近衛公にその通り報告すると共に、私も『木戸侯の言は必ずしも不当とは思えない。確かにそんな所が近衛公にはあった。併し今日の時局は許されません。あなたが、ためらっておられるなら、時局があなたを押しつぶして進んで行くでしょう。今日は逃避は許されませんぞ』と強く直言したことであったが、近衛公は『私も時局の重大性は充分認めています。併し今私への責任論、攻撃が強い時に、新党を作ったり、首相になったり出来るかどうかです。今暫らく考えさせて下さい』ということであって、近衛公の態度は真剣であったと私は今でも信じている。
 十月四日近衛公はマッカーサー元帥を訪うて〈オトノウテ〉二度目の会見をした。予め打ち合わせた時刻に総司令部を訪ねたところ『元帥は会えないから、代りにサザーランド参謀長と会談されたい』ということであつたが、約二十分後、案内されて室に入るとやはり、元帥と参謀長並にアチソン政治顧問とがいた。そこで近衛公は、前に第一回お眼にかかった時は、意を尽し得なかったので、今日は時間を頂いて充分お話したいと前おきして、準備していた近衛公の所信を充分に披瀝し、これに対し、マッカーサー元帥も「有益で参考になった」と喜んだが、これと同時に、マッカーサー総司令官は、日本の憲法改正に対する強い確い〈カタイ〉意志を持っていることが明瞭となり、これが、当時の我が明治憲法改正の緒口〈イトグチ〉ともなったので、項を改め次に詳述したいと思う。

 ここで富田は、近衛文麿という人物に対する、木戸幸一の厳しい批評を紹介しているが、おそらく富田自身も、木戸の近衛評に共感するところがあったはずである。
『敗戦日本の内側』の紹介は、ここまでとし、次回は、「マニラ使節」の話に戻る。

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