礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

「親独派」木戸幸一のナチス・ドイツ論

2015-08-06 05:11:41 | コラムと名言

◎「親独派」木戸幸一のナチス・ドイツ論

 ここ数日、「新独逸国家体系」第三巻政治篇3『国法的基礎・国防軍』(日本評論社、一九三九)という本を紹介しているが、同書の序文は、何と、木戸幸一が書いている。
 木戸幸一といえば、明治の元勲・木戸孝允〈キド・タカヨシ〉の孫にあたり、侯爵である。近衛文麿〈コノエ・フミマロ〉とは京都帝国大学で同窓であった。第一次近衛内閣で文部大臣・厚生大臣を務め(一時、両大臣を兼任)、平沼騏一郎〈キイチロウ〉内閣で内務大臣を務めた。一九四〇年(昭和一五)から一八四五年(昭和二〇)までは、内大臣を務めている。いわゆる「宮中グループ」の中心的人物であった。一九四一年(昭和一六)一〇月に、東条英機を首相に推挙したことで知られる。日米開戦の直前から敗戦時まで、昭和天皇の側近であり、「首班指名の最重要人物」であった(ウィキペディア「木戸幸一」)。
 国立国会図書館のデータ検索で、木戸幸一の著書を検索すると、『木戸日記』は出てくるものの、その他の著書・論文等は出てこない。この序文は、木戸の政治観を示す貴重な史料と言えるかもしれない。木戸幸一は、「親独派」に位置づけられていたというが(ウィキペディア「木戸幸一」)、この序文でも、その本領は遺憾なく発揮されている。
 
「国法的基礎・国防軍」に序す
 欧洲の動乱は日を逐うて激化し、世界禍乱の大変象が萌し〈キザシ〉つつある秋〈トキ〉に当つて、我が日本は東亜の大陸に新秩序を創建し東亜大同の理想に邁進しつつあることは、世界秩序における東西両半球の顕著なる対蹠〈タイセキ〉をなしてゐると共に、東亜新秩序の建設は西欧の事態にも影響を与へ、それによつて世界歴史の岐路〈キロ〉をも決するととになるであらう。
 かかる世界歴史の岐路をも決する重大な時期に当り、吾人が、世界政策上密接に関連する東亜新秩序建設の鴻業を完遂〈カンスイ〉せんがためには、眼光を世界各国の政治・外交・経済・軍事の全局面に透射して、各交戦国の国情、戦争の動因・態勢、国防組織を具さに〈ツブサニ〉攻究することが刻下の急務であり、このことは当面、我が国が欧洲動乱に対処する諸政策樹立に資するであらう。この際に特に吾人の関心を惹くものは、今次の戦争の動因となれる独逸の民族的国家建設への志向である。
 元来、民族問題を理解することがなければ、欧洲の政治外交は真に了解出来ぬ処〈トコロ〉である。殊にドイツの民族主義運動は、十八世紀末に淵源し、フライヘル・フォン・シュタインとビスマークがドイツ民族の政治的統一を指導して以来、独逸の政治史を貫いて居り、血と土地との自然的協同によつて保れる歴史的文化的統一性ある民族的国家の建設が内政上も外政上もその枢軸〈スウジク〉を成して居るのであるから、ヴェルサィユ体制が永く独逸民族の統一を束縛することは無理なのであつた。それと同時に、併し、この桎梏〈シッコク〉を打破するために執られた今次の政策が悉く肯綮〈コウケイ〉に当つてゐるか否かは識者の見解も自ら〈オノズカラ〉種々あらう。とはいへ、真に積極的な国策を遂行するに当り、全国民を率ゆる〔ママ〕経綸〈ケイリン〉を有つ指導者〔ヒトラー〕が大胆卒直に政治的目標の達成に邁進しつつ国民精神を緊張作興して政治を行ふ態勢は、確かに刮目〈カツモク〉されて然るべきである。
 新独逸国家大系の政治篇「国法的基礎・国防軍」は、この独逸の積極的国策の遂行に当り指導者たる政治的精鋭が民族の政治的統一を達成するために、如何なる政治的勢力を結成し、公行政を行ふ官吏組織と民族協同体建設のための国防運等が、国策指導を如何に政治的・国法的に実現するかについて述べてゐるが、総力戦を行ひつつある現在の独逸の政治的組織・国法的基礎をよく伝へてゐるやうに思ふ。従つて、今吾人の関心する独逸国の政治機構を攷究〈コウキュウ〉するに就て、好資料たるを失はないであらう。
 本巻に収められてゐる地政学のハウスホーフェルは、曽て我が国を訪れて日本に関する著述があり、吾人はその謂ゆる「地政学」に多大の興味を持つてゐる。又、本巻に「指導者国家」に就いて叙べられたミュンヘン大学教授ケルロイター博士は昨秋以来、我が大学や諸地方に於て連続講義を為し学術の交換に貢献されたが、近く帰国せられると聞く。本大系に就いても寄せられた御好意に対して茲に〈ココニ〉謝辞を呈する次第である。
 昭和十四年十月    侯爵 木戸幸一

*所用により、明日から数日間、ブログをお休みします。

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