礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

なぜ小磯首相は「国民大和一致」を強調したのか

2018-05-25 04:19:09 | コラムと名言

◎なぜ小磯首相は「国民大和一致」を強調したのか

 情報局編輯の『週報』四〇五号(一九四四年七月二六日発行)から、一昨日は、小磯国昭首相の「談話」を紹介し、昨日は、「大命を拝して」と題するラジオ放送を紹介した。
 どちらの文章にも、「国民大和一致」という言葉が出てくる。「大和」の読みは、たぶん「だいわ」であろう。当時、「国民大和一致」という六字熟語、ないし、「大和一致」という四字熟語があったのかどうかは不明。ことによると、小磯新首相は、「国民大和一致」という言葉を思いつき、これを談話ないしラジオ放送で用いることによって、人々の間に普及させようと意図していたのかもしれない。
 ところで、小磯新首相は、この談話ないしラジオ放送にどのようなメッセージを籠めたのであろうか。少し、これらに含まれる字句を分析してみよう。
 国民としては、一九四四年(昭和一九)七月二二日夜に、「大命を拝して」と題するラジオ放送を聴き、翌二三日の新聞で、二二日付の「談話」を読むことになったはずである。そこで、「大命を拝して」のほうから見てゆこう。
 まず、注目したいのは、「難局の突破」という言葉が、「大東亜戦争完勝」という言葉よりも前に来ていることである。これは、「大東亜戦争完勝」への道が非現実的になっている中で、国民党政権に対する和平工作などの外交手段によって、「難局の突破」を図る可能性があることを、国民に暗示しようとしたものではないのか。
 次に、「この試練に打ち克つて国家の光栄を保全する」という言葉に注目したい。これは、このあと、本土の荒廃、敵の上陸・占領、それらに伴う講和=敗戦といった事態に立ちいたったとしても、「国家の光栄」だけは保全するという意思表明であるかのように聞こえる。
 さらに、「戦争目的の達成」という言葉がある。これも深読みすれば、万一、講和=敗戦といった事態に立ちいたったとしても、アジアの「盟邦」を欧米列強による支配から解放するという「戦争目的」の一端は果たせたことになる、という強がりということになる。
 続いて、「談話」のほうを見てみよう。こちらは、「ラジオ放送」よりも、いっそう「敗色」が濃くなっている。「国民各位は政府の決意に信頼し、克く戦局の重大性を認識し、焦躁に陥らず、沈着励精事に処し、各々その持場において一瞬の撓みなく、あらゆる困苦を克服し、その全力を国家奉仕に発揮せられたいのであります。」――要するに新首相は、今後、本土の荒廃、敵の上陸・占領、それらに伴う講和=敗戦といった事態がありうるが、どんな事態に立ちいたったとしても、「政府の決意」を信じ、「国家奉仕」のために全力を発揮してほしいと、あらかじめ、国民に要望しているのである。
 ということであれば、新首相が、ことさら「国民大和一致」を強調しようとした理由もわからなくはない。要するに新首相は、今後、予想される非常事態を暗示しながら、政府・国民の「大和一致」を訴えているのである。
 さて、当時の日本国民は、この新首相の談話ないしラジオ放送を、どのように受けとめたのであろうか。日本が直面している情況についてクモリのない認識ができ、かつ、言葉のウラを読むことができる国民であれば、日本の「敗戦」が現実的なものになっていること、今後、何らかの形で、「政府の決意」が示されるであろうことを予想しえたのではないだろうか。

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