礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

『ゼロの焦点』カッパ・ノベルス版と新潮文庫版

2023-01-23 02:48:41 | コラムと名言

◎『ゼロの焦点』カッパ・ノベルス版と新潮文庫版

 いま机上に、松本清張の『ゼロの焦点』が二冊ある。カッパ・ノベルス版と新潮文庫版である。カッパ・ノベルス版は、初版発行が「昭和34年12月25日」だが、私が持っているのは、「昭和49年1月1日」に発行された「181版」である。新潮文庫版は、「昭和四十六年二月二十日」に初版が発行され、「昭和六十二年七月五日」の「五十一刷」で改版がおこなわれたという。私が持っているのは「平成六年六月十五日」に発行された「七十三刷」。新潮文庫版の末尾、四一〇ページには、「この作品は昭和三十四年十二月光文社より刊行された。」とある。新潮文庫版の底本が、カッパ・ノベルス版だということがわかる。
『ゼロの焦点』を最初に読んだのは、高校生か大学生のころだった。カッパ・ノベルス版で読んだと記憶する。その後、新潮文庫版で再読しだ。いま机上にあるカッパ・ノベルス版は、むかし読んだものではなく、数年前に古本屋で買い求めたものである。
『ゼロの焦点』を、これから読もうという方がいらしたら、カッパ・ノベルス版で読まれることをおすすめしたい。カッパ・ノベルス版には、新潮文庫版にはない、次の特長がある。

・カバーに、「著者紹介」と「あらすじ」がある。
・巻頭に、能登半島の地図が掲げられている。
・本文に、片岡真太郎によるイラストがある。

 以下に、カッパ・ノベルス版のカバーにある「著者紹介」と「あらすじ」を引用しておこう(カバーデザインは伊藤憲治)。

 著者紹介(カバー裏表紙
一九〇九年(明治四十二年)、九州小倉【こくら】の生まれ。少年時代にポーに心酔し、「アッシャー家の没落」などは暗唱するほど繰り返し読んだという。しかし、実際に小説を書きはじめたのは四十歳を越えてからのことであった。
第二十八回の芥川【あくたがわ】賞を受けた『或【あ】る小倉日記伝』は、朝日新聞西部本社広告部に勤務していたときの作品である。
以来、探偵作家クラブ賞受賞の「顔」をはじめ、各分野にわたって作品の数も多いが、なかでも長編推理小説『点と線』、『眼の壁』の二作は、テーマの新鮮さ、社会的視野の広さによって、これまでの〝探偵小説〟では満足できなかった高級ファンをあっと言わせ、〝推理小説ブーム〟へのきっかけとなつた。近作は『蒼【あお】い描点』、『黒い画集』、『ゼロの焦点』(いずれも光文社)

 あらすじ(カバー袖・表……裏)
A広告社の腕利【うでき】き社員、三十六歳の鵜原憲一【うはらけんいち】は、若く美しい妻を得て、ようやく独身生活にさよならをしたところだ。
健康で、精力的で、仕事は好調であった。将来の地位は約束されている。何ひとつ、不満も不安もないはずの男であった。
その彼が、新婚一週間にして、突如失踪【しつそう】した。なんの足跡ものこさず、煙のように消えたのである。……
ひとりのこされた若妻、禎子【ていこ】は、夫の行方【ゆくえ】をさぐるため、深い謎【なぞ】の中に踏みこむべく、西の古都金沢【かなざわ】へと旅立つ。夫はなんのために失踪したのか、あるいは失踪させられたのか?
『ゼロの焦点』では、北陸【ほくりく】の冷たい風光を背景に、追いつめられた人間の孤独と恐怖を描きつくし、最初から恐ろしい緊迫感に読者を引きこんでゆく。
著者が自ら、「僕の代表作」だと宣言する作品である。

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