◎記録映画『土に生きる』と撮影監督・三木茂
本日は、『雪国の民俗』(養徳社、一九四四)の「あとがき」を紹介してみよう。これを読むと、この本の性格や、その事情が、かなりよく見えてくる。「あとがき」の筆者は、三木茂(一九〇五~一九七八)。その肩書きは、ウィキペディアにしたがって、「撮影監督」としておきたい。
本人も述べているように、この『雪国の民俗』という写真集は、記録映画『土に生きる』(日本映画社、一九四一)の副産物だったようだ。
あとがき
私の写した写真が、こんなにも立派な本になつて出版されやうとは夢にも思つてゐなかつた。
もともと、これらの写真は昭和十五年七月から一年のあひだ、秋田県男鹿地方の農村を中心として私が撮影した記録映画「土に生きる」の副産物で、当時その地方の農事・衣食住のことなどを、およそ限についたものは片つ端から写しまわつて映画製作の参考写真としたのである。
かうしたことは記録映画をつくるものの誰もが心覚えのノートをとるかわりに、お手のもののカメラでパチパチやることなのである。
ところが、私の場合はさうした調査と共に、同じ土地に一年のあひだ滞在し、映画撮影の都度、眼あたり次第、気のつき次第、写しておいた写真が、撮影終了の頃には二千数百枚もたまつてしまつた。
しかし、これらの二千数百枚の写真は、たとへ眼あたり次第、手あたり次第とは云へ、矢張りそこには何等かの形で資料蒐集といふ目的意識は動いてゐたのである。【中略】
私としては自分のことになつて甚だ恐縮であるが、私自身もはじめは民俗写真をとらうなどとは考へてゐなかつたのであるが、自分の仕事の関係上口ケイションする先さ先きでの異つた風俗・習慣をずつと以前から面白く思つてゐたし、いつからとなく民間伝承と云ふものについて興味をもつてゐたのである。
そして好奇心にひれて民俗的なものを読みあさるうちに柳田先生の著書は私のもつとも愛読する本となつた。私は先生の本によつて、いろいろなことを知つた。
そしてそのひとつびとつの遺風習俗を観察することによつて、われわれの祖先の意志といふものを知つた。そこには日本の伝統の美しさ、日本の精神が宿されており、私は感動したのである。
さうして、この時代に、この美しい民俗を紹介する映画・写真をつくることの有意義を感じ、そんな風に自分での企画をずつと以前から持つてゐたのである。【以下、次回】
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