◎エンソ・オドミ・シロムク・チンカラという隠語
一九四八年(昭和二三)に出た光藤直人〈ミツフジ・ナオト〉『賭博犯検挙要説』(警察時報社)は、戦中の一九四二年(昭和一七)に東亜書房から出た同タイトルの本を、ほぼそのままの内容で再刊したものらしい。
その第九章は、「賭博用語」となっていて、賭博に関わる用語が列挙されている。当然ながら、隠語めいたものが多い。本日は、そのうちの一部(約半分)を紹介してみよう。
・貸元〈カシモト〉 博徒の親分にして賭博開帳の主宰者である。
・代貸〈ダイガシ〉 貸元の代理をなすもの。
・送り込ミニナル 新に盆の仕事をする若衆が貸元に紹介を受け若衆となること。
・出方 賭場に於て中盆を担当する者で、本出方と助出方〈スケデカタ〉とがある。
・中盆〈ナカボン〉 盆の中央丁〈チョウ〉の側に座し賭金の賭け合せの指図、賭金の受渡及寺銭の徴収を為す役。
・敷〈シキ〉 賭博を開帳する場所。これにも常敷と臨時敷とがある。
・敷代 敷の借料。
・メリ銭〈セン〉又は戻り銭〈モドリセン〉 客が帰る時にやる車賃。乾児〈コブン〉に非ざる者が中盆等を補助し其報酬として寺銭の内より貰う金をも「戻り」と称することあり。
・エンソ(塩噌) 乾児の食費
・オドミ 寺銭総額より敷代、メリ銭、エンソ其他諸費用を引いた残金にして、之を一定の割合にて親分乾児の間に分配する。
・寺割 寺銭の中よりメリ銭、敷代、塩噌等を除きたる前記オドミを親分と乾児全体の間で分配する割合(関東にてはオドミの七割を親分が取り、三割を乾児が各階級に応じ親分又は代貸の手より分配してやり。代貸は親分の取前より貰うのを普通とするようである)。
・貰い 出方等が客から貰うチツプ。
・ヒケ賭博又は明賭博〈アケトバク〉 徹夜、殊に夜十二時過ぎの賭博の事。
・イタヅラ 賭博のこと。
・遠出 温泉場等に出張つて、鉄火場の盆を引くこと。
・内外 素人の随時為す賭博のこと。
・体が重い、軽い 前科の多い少い意(開帳を背負ふ者は前科の尠なき若者、所謂体の軽い者を出すこと多し)。
・開帳を背負ふ 検挙せられたる際に一人で開帳したる者として申出ること(予てより斯る者を予定し寺割を多く貰う)。
・ハジキ或はモロモロ 鉄火場に見物に来て、金を貰つて帰る者(半ば恐喝)。
・シロムク 親分なしの開帳。
・手味噌を付ける 出方(中盆を為す者)が寺銭を秘かに取込むこと。
・チンカラ コジキ賭博、小賭博のこと。
・ドサを喰う 警察官に盆に踏み込まれること。
・間違ひがある 検挙せられて罰を受けること。
・空敷〈カラシキ〉を踏む 警察官が盆を敷き居るものと思い踏み込みたるも逃げたる後又は偶々盆を敷かざりし為め逮捕に至らざる場合を云う。
・笑ひになる 親と子が勝負して勝負無しに引分けになることをいう。