ON  MY  WAY

60代になっても、迷えるキツネのような男が走ります。スポーツや草花や人の姿にいやされながら、生きている日々を綴ります。

「レミは生きている」(平野威馬雄著;ちくま文庫)…差別を受けた昔の人の話、では終わらない…

2024-03-17 19:56:52 | 読む

著者の平野威馬雄氏は、あのにぎやかな(?)料理研究家の平野レミさんの父に当たる。

だから、「レミは生きている」なんていうタイトルを見ると、自分の娘について書いた本のように思えるが、そういう訳ではない。

「レミ」というのは、僅かな時しか共にいられなかったアメリカ人の父から贈られた子供時代の著者の愛称であった。

平野威馬雄氏は、詩人であり、フランス文学者であったが、第二次世界大戦後、混血児を救う「レミの会」を結成した人だった。

 

この本を読んでみたいと思ったのは、NHKの「趣味どきっ!」の「読書の森へ 本の道しるべ 」という番組でだった。

その1回目の放送では、以前に書いたように角田光代さんが本を紹介していたのだが、その何回目かに平野レミさんが出演したことがあった。

そのとき、レミさんが著者の長女だったといって、取り上げたうちの1冊だった。

レミさんが学校を辞めたいと悩んだとき、父親である著者威馬雄さんに相談したら、「行かなくていい」と言って、この本を薦めた、というような話が紹介された。

よく覚えていないが、確かそんな話だったと思う。

この話が心に残り、読んでみたいなと思ったのだった。

最寄りの図書館にあったので、借りてきた。

あったのは、文庫本だった。

でも、「レミは生きている」のタイトルの上に「新版」と書いてあり、本の後ろの方を見てみたら、2022年8月に出た復刊本であった。

やはりよい本だから、復刊となったのだろう。

ちなみに、新版の表紙絵は、平野レミさんの夫、和田誠氏によるものであった。

 

著者の威馬雄氏は、アメリカ人の父と日本人の母の間に生まれた子であった。

その彼は、日本人だという自覚を持っているのに、周囲からは日本人でないと言われ、差別を受ける。

小さいころから「あいのこ」と蔑称で呼ばれ、差別を受け続けて育った著者の自伝的小説が、この本だった。

「まえがき」には、子どもたちに向けて呼びかけた文章が書いてある。

日本の少年少女に、ほんとうのことをわかってもらいたいと思って、この本を書きました。

同じ人間として生まれながら、顔かたちがかわっているというだけで、差別あつかいされ、毎日、悲しい思いでくらしている「混血児」にかわって、ぼくはこの本をかいてみました。

(略)

おとなの人にうったえるだけではだめだと思ったので、こんどは、少年少女のみなさんに、ちょくせつ、よびかけてみたかったのです。

この本は、ぼくのおさないころからの、ほんとうの話です。

(略)

どうか、みなさん、かたすみにわすれさられようとしている混血児たちの、やさしいお友だちになってげてください。そういうお友だちが、ひとりでも多くふえることが、いちばんうれしいことなのです。いつまでも、日本が、平和なよい国であるために。

                               平野威馬雄

 

著者は、こんな願いをもって書いた本だっただけに、文章は読みやすかった。

だが、内容は、本当につらくなるものが多かった。

実話だけになおさらだ。

幼いころからいわれのない偏見と差別を受け、中傷され続けた著者。

威馬雄少年は、自分の存在に罪悪感を感じるほどになっていった。

著者は、戦前・戦中にはさらにひどい経験をしながら育ち、生きてきた。

だから、こうしてその経験を著しておかないと、当事者の気持ちはきっと分からないままであろう。

 

それにしても、日本という国に住む人には、今でもなんと排他主義的な人が多いことか。

きっと、いつの日にか、このすぐれた血すじは、日本の名をオリンピックにかかげてくれるだろう。アメリカのエースたちが、多く黒人選手である…のと、同じように、日本のエースたちの中にも、すぐれた「混血の子」の名がきっと…。ああ、そんな日のために、ぼくは、かれらの天分に応じた教育を考えてやろうと思う。

著者は、最終章でこう書いていた。

 

そのとおり、スポーツで活躍する日本のエースの中に、たくさん見かけるようになった。

その人たちの活躍に心躍ることが多い。

だが、今でも、偏見や差別、中傷は後を絶たない。

日本代表として活躍する人たちが失敗したりや期待にそぐわなかったりした場合には、ひどい中傷がSNSによく上がっている。

つい先日のサッカーのアジア杯のゴールキーパーに対するものにひどいものがあったし、他のスポーツでもちょくちょく起こっている。

去年Jリーグで優勝したヴィッセル神戸の酒井高徳選手が、「W」という著書で、人からの言われが多く「とにかく目立ちたくなかった」と書いていたのを読んだことがあったことも思い出した。

 

「W ~ダブル~ 人とは違う、それでもいい」(酒井高徳著;ワニブックス) - ON  MY  WAY

著者の酒井高徳はサッカー選手。新潟県出身の彼の父は日本人、母はドイツ人である。彼のような人に対し、世間は簡単に「ハーフ」という言葉を投げつける。「ハーフ」という...

goo blog

 

 

こうしたことからも、最近新版が出たのは意味がある。

しかも子ども向けに書いたものであったが、今の日本には大人の文庫本で復刊する必要性・重要性も高かった、と言えるだろう。

小さいころに周囲の子どもたちからいじめを受けて育った自分だから、偏見や差別には敏感だと思っていたが、まだまだ自身に内在するものがある、とも思わせてくれた本でもあった。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする