ON  MY  WAY

60代になっても、迷えるキツネのような男が走ります。スポーツや草花や人の姿にいやされながら、生きている日々を綴ります。

「未来へつなぐ千年桜」(大沼英樹著;玄光社)

2021-05-02 20:13:46 | 読む

これは、仙台に住む写真家、大沼英樹氏の撮った写真と文章とで構成されている写真集である。
撮った対象は、東日本大震災の被災地に咲いた桜が中心である。

前書きにあたる「桜の陰で」に始まって、「静かな桜 あとがきにかえて」までの文章の間に、2011年から2020年までの、被災地で撮った桜が入った写真たちと、それらにまつわるエピソードの数々が綴られている。

2011年、震災が起こった年、悲惨な状況の中でも咲いている桜の風景には、心打たれるものがある。
毎年同じ桜を追いかけていると、それを取り巻く人たちの状況が変わっていったり、桜が伐採されたりする現実の厳しさにも遭遇する。
そういうことを文章で、写真で、私たちに伝えてくれる本だ。

しかし、あとがきには、そんな著者でも、大震災が起こった年には、悲惨な被災地の現実から逃れたくなって、西日本に行ったことが書いてある。
西日本の各地で、例年と変わらない春の桜の風景を撮るにつけ、逃げている自分に胸が苦しくなっていった。
阪神淡路大震災で大きな被害を受けた神戸市長田区で、家族で花見をして笑い合う風景を見て、「東北も必ず蘇るんだ」と心に言い聞かせ、東北に帰ったのだそうだ。

震災直後に被災地で逞しく咲いている桜から、「どんなに厳しい環境でも微笑みを忘れてはいけない」という声が聞こえたと言う。
また、本書の写真を見ていると、それが蘇えるとも書いてある。

震災被害を受けた東北の人たちの話と桜の写真から、「生」をたくさん感じる。
毎年美しく咲く桜。
その近くで、生き続けて暮らす人たち。
震災後、復旧工事のために切られてしまった桜も多いそうだ。
震災後に出会ったのに、亡くなられた方もいるという話もある。
すべて「生」につながっていく。

こういう形で、いつまでも忘れないように残していくのも、非常に貴重なことだと思うのだ…。


コメント
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