日本男道記

ある日本男子の生き様

徒然草 第二百二十二段

2023年09月19日 | 徒然草を読む
 


【原文】 
 竹谷乗願房、東二乗院へ参られたりけるに、「亡者の追善には、何事か勝利多き」と尋ねさせ給ひければ、「光明真言・宝篋印陀羅尼」と申されたりけるを、弟子ども、「いかにかくは申し給ひけるぞ。念仏に勝る事候ふまじとは、など申し給はぬぞ」と申しければ、「我が宗なれば、さこそ申さまほしかりつれども、正しく、称名を追福に修して巨益あるべしと説ける経文を見及ばねば、何に見えたるぞと重ねて問はせ給はば、いかゞ申さんと思ひて、本経の確かなるにつきて、この真言・陀羅尼をば申しつるなり」とぞ申されける。

【現代語訳】  
 山科の乗願房が、東二乗院の元へ参上したときのことである。東二乗院が、「死んだ人に何かをしてあげたいのですが、どうすれば喜ばれるでしょうか」と質問された。乗願房は、「こうみょうしんごん、ほうきょういんだらに、と唱えなさい」と答えた。弟子達が、「どうしてあんなことを言ったのですか。なぜ念仏が一番尊いと言わないのですか」と責め立てる。乗願房は、「自分の宗派の事だから、軽々しいことを言えなかったのだ。正しく、なむあみだぶつ、と唱えれば、死者に通じて利益があると書いた文献を読んだことがない。万が一、根拠を問われたら困ると思って、一応、経にも書いてある、この呪文を申したのだ」と答えた。 

◆鎌倉末期の随筆。吉田兼好著。上下2巻,244段からなる。1317年(文保1)から1331年(元弘1)の間に成立したか。その間,幾つかのまとまった段が少しずつ執筆され,それが編集されて現在見るような形態になったと考えられる。それらを通じて一貫した筋はなく,連歌的ともいうべき配列方法がとられている。形式は《枕草子》を模倣しているが,内容は,作者の見聞談,感想,実用知識,有職の心得など多彩であり,仏教の厭世思想を根底にもち,人生論的色彩を濃くしている。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿