日本男道記

ある日本男子の生き様

第二百三十四段

2023年12月12日 | 徒然草を読む


【原文】 
 人の、物を問ひたるに、知らずしもあらじ、ありのまゝに言はんはをこがましとにや、心惑すやうに返事したる、よからぬ事なり。知りたる事も、なほさだかにと思ひてや問ふらん。また、まことに知らぬ人も、などかなからん。うらゝかに言ひ聞かせたらんは、おとなしく聞えなまし。
人は未だ聞き及ばぬ事を、我が知りたるまゝに、「さても、その人の事のあさましさ」などばかり言ひ遣りたれば、「如何なる事のあるにか」と、押し返し問ひに遣やるこそ、心づきなけれ。世に古りぬる事をも、おのづから聞き洩すあたりもあれば、おぼつかなからぬやうに告つげ遣りたらん、悪あしかるべきことかは。
かやうの事は、物馴れぬ人のある事なり。

【現代語訳】  
何かを尋ねる人に、「まさか知らないわけがない、真に受けて本当のことを言うのも馬鹿馬鹿しい」と思うからだろうか、相手を惑わす答え方をするのは悪いことだ。相手は、知っていることでも、もっと知りたいと思って尋ねているのかも知れない。また、本当に知らない人がいないとは断言できない。だから、屁理屈をこねずに正確に答えれば、信頼を得られるであろう。
まだ誰も知らない事件を自分だけ聞きつけて、「あの人は、あきれた人だ」などと省略して言うのも良くない。相手は何の事だかさっぱり分からないから、「何の事ですか?」と、聞き返す羽目になる。有名な話だとしても、偶然に聞き漏らすこともあるのだから、正確に物事を伝えて何が悪いのか。
このような言葉足らずは、頭も足りない人がすることだ。

◆鎌倉末期の随筆。吉田兼好著。上下2巻,244段からなる。1317年(文保1)から1331年(元弘1)の間に成立したか。その間,幾つかのまとまった段が少しずつ執筆され,それが編集されて現在見るような形態になったと考えられる。それらを通じて一貫した筋はなく,連歌的ともいうべき配列方法がとられている。形式は《枕草子》を模倣しているが,内容は,作者の見聞談,感想,実用知識,有職の心得など多彩であり,仏教の厭世思想を根底にもち,人生論的色彩を濃くしている

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