波乱の海をぶじ目的地へ

現世は激しく変動しています。何があるか判りませんが、どうあろうと、そんな日々を貧しい言葉でなりと綴っていけたらと思います

ダチョウ

2015-03-31 22:16:50 | 童詩



◇ダチョウ



ダチョウは

いきなり炎天の平原を走り出した。

太い頑丈な足で砂地を蹴立てて――

彼の後には砂埃が舞い上がり

動物たちは砂つぶてをくらって

失明した。


かつてダチョウが翼を失ったように‥‥


   ◇

谷を渡る鶯

2015-03-30 14:28:48 | 散文詩



登山口を通る私に歩調を合わせるかのように、舌足らずな鳴き声の鶯がついてきた。
ケキョ、ケキョ、ケキョと、声は出しても、完全な鶯の唄にはならなかった。そのくせ
びびびびと、羽音だけは一人前で、登山道沿いの灌木の枝から枝へと飛び移っていた。
そのうち吊り橋に来て、鶯は山頂へ向かう道ではなく、谷の渓流の方へと降下していった。
 これ以上登山者に同伴するのを断念したらしい。というより、私を谷渡りの方向へ誘い込むような飛び方になっている。

 私を誘って谷渡りする鶯の声は、元気がなく、寂しそうだった。季節が早いというだけではない。どこか深いきずを負っているようだった。
 飛び方に異常はないから、心のきずなのだろう。他の鳥たちの好むそよ風の漂う丘とか、視界のきく高みには出てこようとせず、低い谷から谷へと、身を隠すように渡るだけなのだ。
 失恋の痛みか、死別か、心のきずは尋常なものではなさそうだった。
 せめて鳥でも動物でもない人間を味方につけて、気を紛らそうとしてみるが、人間である私は、登山道を上へ上へと登るだけなのだ。
 一度谷へ下った鶯に、登山道へ引き返して、再度人間を誘い込もうとする気力はなかった。やはり深くきずついているようだ。
 そこで私は、鶯を慰めるべく、二本の指を口にくわえ、力一杯に吹いた。私の指笛は思いがけないほど澄んだ音色となり、谷を渡って行った。谷渡りする鶯も顔負けするばかりの出来映えだった。
 ところが、傷心の鶯は、それきり声を潜めてしまった。いくら私が待っても鳴かないのだ。
 私は彼女を慰めたのか、逆にきずつけてしまったのか、それすら分からないままに、指笛を絶って山道を登って行った。
 山頂近くでは、別な鶯が何羽か、玲瓏とした声を響かせて鳴いていた。






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夕日

2015-03-29 23:18:53 | 童詩



  ○

  夕日


路地を歩いていると
ぎらつく夕日を見つけた
これをそっくり記録するには
写真に撮るしかない

そう思った僕は
カメラを持ち出してきて
写真に収めた

それっきり忘れていたけど
しばらくして思い出し
現像してみると
ぎらつく夕日なんてどこにもなかった

静かな月に成長して
皓々と夜を照らしていた
夜空に浮かぶ
卵の黄身のようだった





ミニチュアダックスを連れた二人の婦人

2015-03-22 16:46:17 | 掌編小説



◇ミニチュアダックスを連れた二人の婦人




 レッドのミニチュアダックスを抱いた眼鏡の婦人と、クリームのミニチュアダックスを引いた小太りの婦人が、道ですれちがった。
 いや、すれちがう前にお互いに気づいて、立ち話になった。
 ミニチュアダックスは、垂れ耳、胴長、短足の愛くるしい小型犬で、ペットとして人気がある。
 眼鏡の婦人と小太りの婦人は同じ新興住宅地に住んでいて、相性はいいほうだ。眼鏡婦人はまくし立てるほどの話好きで、小太りはいつもおっとり聞き役に回っている。聞き役でも我慢しているようには見えない。自然そういう関係になっている。  
 眼鏡婦人のダックスは、インドの婦人が肩にするような一枚の布に巻かれて、飼主の胸のところにおさまっている。ダックスの色がレッドでもなければ、ちょっと気づかないだろう。
 一方、小太り婦人のダックスはクリームで、飼い主の気性をそっくり受け継いだかのように静かにお坐りし、おっとりと相手の犬を見上げている。  
 そのおとなしい犬が、路上に坐り込んで、ロープを引いても一向に言うことを聴かなくなったのは、立ち話をしていた眼鏡の婦人が立ち去ってからだ。
 小太り婦人が犬の首がもぎ取れるほどの力で引いても、路面に足を突っ張って動こうとしなかった。
「そうか、デミちゃんも抱っこして欲しいのね」
 小太り婦人はようやく合点がいってそう言うと、犬を抱きかかえた。
 犬は意が通じたとばかり、婦人の顔をぺろぺろと舐めた。それから安心したように、顔を婦人の乳房のあたりに置いて寝てしまった。
 帰宅した婦人は、犬の重さと、買い物袋を腕に通して持った痺れで、しばらく動きが取れなかった。
 それからというもの、デミは抱いてやるのでなければ、外には出たがらなくなった。ロープをつけると、足を突っ張って、一歩も動かなかった。
 小太り婦人は仕方なく、ペットショップで肩から吊るすペットスリングを購入し、その中に入れて散歩に出るようになった。しかしこれでは、散歩とは言えず、どうしたらよいものか思案に暮れていた。
 一週間もすると、デミは体重が増えて、小太り婦人は逆に痩せていった。
 そうやって一箇月が過ぎた。体重はデミが一キロ増やし、小太り婦人は二キロ減った。ダイエットにいいなどと、暢気は言っていられなかった。
 悪い習慣をうつされてしまった眼鏡婦人に向かって、相談するのもためらわれた。相手が「歩かせる派」であるなら、すぐにも教えを乞うたかもしれない。しかし「抱っこ派」とあっては、この際、いい案が授かるとはどうしても考えられなかった。  
 そんな課題を抱えながら、小太り婦人はデミをスリングに入れて外出した。
 梅雨も上がって、空は気持ちよく晴れていた。デミが歩かなくなってから、何と二箇月が経とうとしていた。
 久しぶりの快晴とあって、街は人通りが多かった。車道をはさんで、小太り婦人の行く道とは反対側の歩道を、元気のよいレッドのミニチュアダックスに引かれて、眼鏡婦人がやって来た。
 しかし折悪しく車道を大型バスがやって来て視界を塞ぎ、眼鏡婦人も小太り婦人も、お互いを認めることはできなかった。犬たちも、お互いを見ることはなく、過ぎて行った。      

                                           
                       了

 

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ひばり

2015-03-21 08:03:39 | 散文





ひばり



鷲・鷹・鳶等の猛禽類にとって、

いかずちほど油断のならないものはない。

いつ、どこで、気違いじみた炸裂音が爆発するか、分かったものでなく、

何が原因で怒っているのか、皆目見当がつかないときている。

そもそも姿が見えないのだから、始末におえない。

青空にいきなり閃光が走り、轟きは全天に及ぶのだ。

空が晴れているからといって、気を緩めてはいられない。



そんなわけで、思いがけない余録に与っている生物がいる。

ーひばりだー

猛禽類は、かまびすしいばかりのひばりの囀りも、

いかずちの親戚筋くらいに思っているのである。

したがって、声の発信源を探ろうなどとは考えもしない。



かくして、ひばりは、

高唱して天に舞い昇っている限り、安全というわけだ。

彼等、猛禽類は、岩陰や木の洞、下草の奥などに身を潜めて、

早く声の止むのを祈る気持で待っている。




   ☆




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覚醒

2015-03-19 09:04:30 | 散文



☆覚醒



深夜に一つの魂が目覚め
青白い光に導かれて行けば、
闇の中に安んじているものには
奇行と映って、
首を傾げもしようが、
そしてつまりは、
き印の烙印も押すであろうが、
当の目覚めた本人からすれば、
これまでが朦朧とした靄の中にいて、
今ようやく光が見え初めたところとあって、
世の冷遇をものともせず、
平然と歩み去るだけなのだ。
これは時々出没して、
闇の彼方へと姿を消して行く彗星にも喩えられよう。
一個の星が、猛り狂って暴走して行くように見えても、
心配は無用。
確かな軌道上を行くのであり、
そのしるしに、数百年後か、数千年後に、
再び廻ってくるだろう。
ただそれを見る目が、その時、地上に無いだけのこと。


   ☆



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一歩

2015-03-18 07:51:22 | 散文



☆一歩



山道に迷い、

日没も迫っている時、

決して自分の判断に頼ってはならない。

それは自らを神とすることだから。

山道に迷い、方途もつかないとき、

その時こそ、唯一絶対の神、主に祈ることだ。

神は奇しきわざをもって救いの道を示してくれるだろう。

信じられなくてもよい、

諦めからでも、まずその方向へ踏み出してみることだ。


後になって、心からは信じていなかったことを

些かも愧じる必要はない。

神はとにかくその方向へ

足を踏み出したことをもって、

よしとしてくれるだろう。



   ☆


名の由来

2015-03-17 09:13:12 | 散文



☆名の由来




浜辺に一羽の鳥がささくれて落ちていた。

羽の色と、嘴の大きさから、翡翠(カワセミ)であろう。

海を見ようと、谷川を下ってきて、事切れたということか。

海水で洗ってやるべく、

そして遠く旅立たせてやるべく、

鳥を海原へ放る

三十分もすると、鳥は砂浜に打上げられている。

それを再び海へ押出す。

しかし程なく砂浜へ打上げられる。

何度海にやっても、戻ってくる。

それではと、砂丘を深く掘って、埋めてやる。

それから十年。

鳥を埋葬したものが、そこを堀返すと、

美しい翡翠(ひすい)が一個飛び出した。

いや一羽の翡翠(カワセミ)というべきかもしれない。




   ☆

挨拶

2015-03-16 09:01:28 | 散文



挨拶



燕が町に着くやいなや
愛嬌たっぷり
挨拶して回っている
これから卵を産み
雛を孵し
せっせと餌運びをして
巣立ちさせ
来たときの五倍の家族になって
賑やかに帰って行くのだから
それだけ町に迷惑を掛けると思えば
着いた早々
軒から軒へ
町人の頭すれすれに滑空し
挨拶して回るのも頷ける

もっとも町側では
迷惑とばかりは考えていないあたりが
この燕に寄せる
ほほえましい風物詩となっている


   ☆

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風見鶏

2015-03-15 07:45:46 | 散文
◇風見鶏


俺の方ばかり見ていやがる
あの鶏めは!
男が憎々しげに呟くと、
風見鶏は、それが聞えたのか、
視線を逸らして、横顔を向けている。

いったい今度はどこを見ているんだ。
その風見鶏の視線を辿れば、
真向いの家のベランダで、
デブの茶色猫が日向ぼっこをしているのだ。

今度は猫が、風見鶏の凝視にたえられないらしく
うるさそうに顔をしかめ、
肥ってどこに目があるのか分らない
ほどの細い目を瞑る。

このときはもう風見鶏の志向は、いくつもの人家の屋根越しに、
遙かな山の頂に行っている。
いやそれさえも孤高の鶏にはどうでもよいことで、
彷徨う雲にならって宇宙をさすらっているのだ。


   ◇

時を知る神

2015-03-14 13:33:02 | 散文
 


☆時を知る神  
  

一つの窓から

遠く灯のともる乙女の窓へ

いくら熱い祈りをささげても

通じないだろう

祈りは天に通じてこそ人に届く

信仰の盾をもって神に求めよ

そうすれば

彼女の心を動かし

あるいは叶えられるかもしれない

もっとも

時ということになると

誰も分りはしない

最良の時を知るのも神のみであれば


   ☆


子雀

2015-03-12 08:56:03 | 散文




 ◇子雀



 ひと気のない公園の砂場に、病の子雀が哀れに脹らんで、よろめきつつ立っている。

 親雀は、病に効く草の種でも探しに出掛けたものか。

 鴉が二羽、狡賢そうな頭を傾げて、子雀に寄っている。 一つつきするだけで ごろりと横た

わり、子雀のビフテキにありつけること受合いだ。いとけない命の危機は迫っている。

 と、このとき、飛礫のように空の一角から突進してくるものがある。みるみる巨大な翼となり 

嘴は鋭く陽光にきらめき、鴉の胴体に風穴をあける勢いだ。

 その凄まじい殺気に、二羽の鴉は怖気をふるって逃げ去った。

 だが、子雀を救ったのは、気苦労にやつれ切った、小さな母雀にすぎなかったのだ。      

 何という、鴉の錯覚!

いったい鴉は、そのとき何を見たものだろう。

 
神は、幼い命を哀れんだ時、それを救うために、何にでも見せるものなのだ。             
 


 そのとき感じたかつてない怖気から 鴉は縄張りを捨て去って、遠い街へと逃れ出た。


   ☆


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深夜の公園

2015-03-10 23:14:29 | 散文







 公園に隣接する動物園から、猛獣の咆哮が伝わってくる。
この空気をどよもす唸り声はライオンにちがいない。

 ライオンの咆哮は、公園の静寂を稲妻のように駆け抜けていく。
これでは他の動物たちも、落ち着けないだろう。

 ライオンの咆哮はしばらくしてやんだ。
街も一日の活動を停止し、公園を彷徨うものも絶えた。

 それから数時間経った深夜の公園。
 外灯の下のベンチに、ぼろきれのように蹲っているものがある。
影のように薄っぺらく、形からして人間ではない。
奇怪なものが、外灯の薄明かりに影絵のように蹲っている。
 これはいったい何ものだろう。想像を逞しくすれば、いままで
そこにねまっていて、自分のうっとうしさを外套のように脱い
でいったもののようだ。夕方のあのライオンの咆哮を思い出していた。
いまそこに蹲っているものこそ、さかんに咆えていたライオンの亡霊にちがいない。
そして外套を脱ぎ払ったライオンの本体が、深夜の公園を彷徨っている。
いつ外套を取りに戻って来ないともかぎらない。そのライオンと鉢合わせするのは危険だ。
いつまでも夜の公園をうろついているのは危ない。人影がないのは、そのせいだ。
 そう受け取ると、公園の出口へ足早になった。

漂着物

2015-03-09 07:10:42 | 散文詩



◇漂着物



海岸を歩いていると
さまざまな漂着物に出合う
どれ一つとっても
敗残の私などより
偉大な顔をしている
尊大に構えているのではない
その実質が堪えに堪えて磨きぬかれ
美しく漂着しているのだ
どれもが
大変なところを越えてきたからなのだろう

見習わなければと反省も湧くが
既に時晩しである
せめて彼等を労うことで私なりの意を伝えようと
彼等を収めるのに相応しい美の殿堂をこしらえた
といっても
これも漂着物の丸太を砂に立て
板を打ち付けただけの質素なものだ
表現を変えれば 簡略にして粗雑
そして殿堂の片隅に
偏平な蟹のようにしているのが私である
館長である






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