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山の前で、囁くほどの小声で喋っただけなのに、
バカでかい声になって木霊が返って来た。
あの山にはいったい、どんな化け物が棲んでいるのだろう。
僕は弟を連れて、探検に行くことになった。
寝ている弟を起こし、乾パンなどの入った、非常用のナップザックを
背負って、二人で山へ向かって行った。途中で、散歩から帰って来た
隣のおばさんに会った。
「二人して、どこへ行くの?」
とおばさんが訊いた。
「あの山に化け物がいるから、探検に」
と僕が言った。おばさんは変な顔をして行ってしまい、
僕と弟はまた歩き出した。
しばらく行くと、後ろから母の声がして、追いかけて来た。
母は二人ともおかしいと思って、持って来た目覚まし時計を、
けたたましく鳴らした。僕と弟はパチッと目が開いて、
全部夢だったと分った。弟まで夢を見ながら、夢の中を歩いて来たのだ。
このとき、前の山で、バーンと銃声がした。
「ほら、化け物が鉄砲撃ちに撃たれた」
と僕が言った。弟が頷いた。
おわり