波乱の海をぶじ目的地へ

現世は激しく変動しています。何があるか判りませんが、どうあろうと、そんな日々を貧しい言葉でなりと綴っていけたらと思います

山を下ったフクロウ メルヘン

2019-04-09 16:23:02 | メルヘン


一羽のフクロウが山を下って
郊外のカフェで
美声を張り上げているという。
そんな噂を耳にして
音楽大学声楽科研究生の青山モコ
が訪ねてきた。

訪ねては来たが、その場所が見つからないのだ。
フクロウが山を下ったという、その山もとても
大きな山だし、山麓に広がった街は、二つや三
つではない。大な街や小さな町、町の形をなさ
ない村など、合わせれば大変な数なのである。
またフクロウが歌っているのを聴いたといって
も、また聞きであったし、その中から、美声を
張り上げるフクロウを見つけ出すのは、至難の
技といってもよかった。
⇒未完成


蟷螂

2019-02-22 23:42:31 | メルヘン


岩山の下に
蟷螂が両手を振り上げている
その居丈高で尊大な構えが
上の岩山で寝そべっている
トカゲにはしゃくでならなかったから
トカゲは後ろ足で小石を蹴った
小石といっても蟷螂=カマキリ=には
大きなプレゼントで
広げた両腕では支えきれなかったので
石の重さに委ねて黙っていた
石はカマキリを押しつぶして転がっていき、
地面のくぼみにはまって止まった
カマキリのいのちは
それっきりだった
しばらくすると雨になり
雨は時雨になって小石を洗い
もうカマキリはかけらもなかった
そんなものだろう 生き物の命なんて
あるようでいて ない
そのいのちに従属する権勢なんて
さらに 儚い

冬野

2018-11-14 17:55:19 | メルヘン


冬の野で
昔の猫に
出会ったよ
懐かしいので
訊いてみる
お前はオレを
見たことあるか
ナイネ
とつれない返事だ
そうか 見たことないか
オレは言って
猫と別れて歩き出した

オレの顔があまりにも
残念そうだったのだろう
猫はオレを気の毒に
思ったのか
ザラザラと枯葉のついた
蔦を揺すった
オレを振り向かせるために
何か言ったか
とオレは訊いた
ベツニ
と猫は素っ気無く言った
ソウカ
とオレは歩き出した
するとまた枯葉のついた蔓草が鳴った
今度はバサバサと鳴った
何か言ったか
とオレは振り返った
昔のアンタはヒゲなんか生やしていなかったな
と今想い出したのさ
たしかに 生やしていなかった
これは無精ひげと言ってな
ものぐさをしているしるしさ
フンと猫は言って、食べ物探しに
取り掛かった。





森に帰ったリス

2012-03-23 19:57:18 | メルヘン



 [森に帰ったリス]


 木材を積み込む無蓋の貨車に、一匹のリスが乗り込んだ。うっかりであったか、故意であったか。
 山が尽き、野が尽き、田畑が尽き、都市に入って、引込み線に入って、着いたところが材木置き場だった
 リスは野積みにされた丸太の上で生活するようになった。山と違うところは、木々は直立しているのに、丸太はどれも横に寝ていることだ。樹の香りという点では、こちらの方がむしろ強く匂っている。それはそうだ。どの木も皮を剥かれて、そう日が経っていないときている。緑が一つもなく、どれも白い肌をしているところも、森とは異なっている。
 リスは丸太の上を飛び跳ねて、楽しそうに過ごしていた。森の中ほど鳥の声はしないが、代わりにサイレンがけたたましく鳴り響いたり、クラクションの狂騒も、山の鳥の声に匹敵するほどだった。
 リスはよく丸太のてっぺんに登って、後ろ足で立ち上がり、都市の景観に見入っていた。スモッグに霞んで、とても空気が澄んでいるとはいえないが、物珍しさから、何分も立ち上がっては、少しずつ角度をずらして、伸び広がる都市の風景を眺めていた。

 木工場で働く本山さんは、五歳の末娘のリカを連れてきて、そのリスを見せた。
 本山さんは、山奥から丸太を貨車に積むときも立ち会っているので、リスが貨車に乗り込むのも見ていたのだ。貨車は無蓋なので、途中で逃げようとすれば、いくらでもできたのに、このリスはそうしなかった。
「ほら、見えるだろう。積み上げた丸太のてっぺんに、小鳥みたいに留まっているのが」
 と本山さんは末娘のリカに言った。
「あのぽつんといる、小さいのが、リスさん?」
「そうだよ。あれが森に棲んでいたリスだよ」
 と本山さんは言った。もう何度もリスの話は娘にしていたので、ほかに説明を加えることはなかった。
「ふーん、リスさん淋しくないのかな。友達だって、お母さんリスだっていないのに」
 この話も何度もしているので、本山さんは、そうだね、と相槌を打ったきり、丸太に番号をふる作業に取り掛かった。
 娘は父親の働く傍らの一本の丸太に腰掛け、リスを見やりながら思いにふけっている様子である。
「あのリスさん、街を見飽きたら、またパパの貨車に乗って山に帰るんだよ」
 と娘が言った。これは家で父親に質問を投げかけ、父親から聞いたものを、そっくりここで反芻しているのである。その中に本山さんは聞き捨てに出来ない内容があるのを知って、訂正しなければならなかった。
「パパの貨車じゃなく、会社の貨車だ!」
 本山さんの声の大きさに、奥で作業をしていた同僚が、こちらに顔を振り向けた。
 娘はしょぼんとなって、父親の傍を離れた。
 本山さんは昼食を、車で十分ほどのところにある家でとることにしていた。今も食事を済ませ、車に娘を乗せて来たのである。かねてから、リスを見せると約束していたので、今日それを果たしたというわけだった。
 もう少ししたら中学生の長女が下校するので、木工場に寄って末娘を連れ帰ることにしていた。
 せっかく連れて来たのだから、あのリスももっと近づいてくればいいのにと、本山さんは腹立たしくもなっていた。

 リカがいないのに気づいたのは、中学生の長女が立ち寄ったときだった。
「あれ、リカは?」
 と長女の言葉に、本山さんは末娘の監視を怠っていたのに気がついた。
 木工場に連絡している引込み線とか、雑草の繁茂する周りの敷地とか、交差する路地など、行きつ戻りつして探し回った。三人の同僚も加わって、探し回った。
「あれは?」
 長女が積まれた丸太の上を指差して言った。丸太の間から小さな頭と手が出て、なにやら蠢いている。
 本山さんはすかさずピッケル状の杖を手にすると、積まれた丸太を伝って、その場所へと急いだ。
 小さな頭が出ている近くの丸太の上から、リスが覗き込むようにしている。リスは今、街を遠望するときの、後足で立つ仕草はしていない。前足を丸太について、体を左右に振り、緊迫して下を見ている。
 本山さんは末娘に近づくと、
「二人頼みます!」
 と応援を要請した。
 間もなく二人の作業員が丸太を伝って行き、リカの救出に手をかした。
 リカが引き上げられたとき、本山さんは抑えが利かず、娘を平手打ちした。ピシッと肌の弾ける音が、下で見守る長女の耳にも届いた。リカの号泣は、やや遅れて起こった。
 幸い擦り傷程度ですみ、大人に支えられて地上に戻ると、長女に連れられて家に帰った。

 それ以来、あのリスは姿を見せなくなった。リカも、リスのその後について訊けるはずもなく、日が過ぎて行った。
 リカは沈み込んでいることが多くなり、少女なりに、リスへの恋が芽生えているのかもしれなかった。
 少女の頭の中で、リスは森に帰っていた。
 あの日父親に、
「パパの貨車じゃなく、会社の貨車だ!」
 と頭ごなしに一喝された、会社の貨車に乗って、少女のことを想いながら、森に帰ったのだと考えていた。
                 了
 
 







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キリン

2012-02-01 17:45:23 | メルヘン


 高台に動物園があって、キリンの檻の隣はサルの檻になっ
ている。
 子供好きのキリンは、サルの檻に首を伸ばして、頭のてっ
ぺんにサルをのせ、高い高いをしてやった。
 キリンの頭のてっぺんからは、さまざまな景色が眺められ
た。街とか、街の向うの海とか、港が見えた。港には大きな
船、小さな船が入っていた。
 キリンに高い高いをしてもらったサルたちは、珍しい風景
を眺める楽しさの味をしめて、何度も高い高いをしてくれと
せがんだ。まだ高い高いをしてもらっていないサルは、 一
部のサルだけ何度も高い高いをしてもらうのは不公平だと一
騒ぎがあって、それからは列を作って順番を待つようになっ
た。

 キリンはサルの世界のちょっとした揉め事など知る由もな
く、 以前と同じポーズをとって、サルの檻のなかへ首を下
ろしては高く持ち上げ、ビル工事のクレーンのような作業を
繰返していた。
 キリンは子供好きだったが、頭のてっぺんのサルがみんな
子供というわけではない。キリンよりも歳の多いサルは何匹
もいる。だが、キリンは自分より小さいものはみんな子供と
思っていた。

               おわり