波乱の海をぶじ目的地へ

現世は激しく変動しています。何があるか判りませんが、どうあろうと、そんな日々を貧しい言葉でなりと綴っていけたらと思います

クマゲラ

2014-11-30 22:37:36 | 俳句



  ◇

クマゲラは
怒りてありや
頭の赤く

  ◇

初雪を
睫毛にのせて
子の下校

  ◇

手の中を
問はれて開く
初の雪

  ◇

風花や
知らず木の葉の
舞ひをして




秋色

2014-11-30 00:00:31 | 俳句






人の世を
盗みて枯れる
薄かな

穂薄の
静けくあれば
猫端座

風吹けば
ゑのころぐさも
みな枯れる

立つ草の
なかに幾本
猫じゃらし


ひつそりと
陣を取るかに
茸生ゆ

何といふ
宇宙であるか
西瓜畑

土中から
紫盗む
サツマイモ

愛犬と
掘るのが楽し
山の芋

青春は
玉蜀黍の
白きヒゲ

石榴の実
いつ裂けるかと
見入る猫

人に懐く
コホロギのゐて
猫嫌ふ

足遅くして
焼き唐黍を
嗅いでゆく

犬連れて
玉蜀黍の
香に迷ふ

しなひても
零れぬ萩の
美しき

雪よ降れ
安心立命に
閉ぢ込めよ


  ☆



群れのなかで

2014-11-29 11:47:40 | 掌編小説



 ◇群れのなかで 


 改札を出てすぐ、島夫は前を歩く通勤帰りの群れの中に、由紀がいるのを見つけた。
 駅ビルと近接するデパートに吸い込まれる手前で、島夫は早足になり、由紀の背を軽く叩いた。
 昨日デートをしたばかりで、休日にはまた逢うのだから、ちょっとした挨拶のつもりだった。
 二人は大きな人の流れから、デパートに向かう小さな流れに入った。由紀は地下の食品売場へ、島夫は六階の書店へと歩みを進めながら、
「帰りどっかで逢う?」
 と由紀が訊いた。
 彼はそれには及ばないと、小手を振った。
 二人はそのまま、地下と上の階へと離れて行く。





柿の木のある家

2014-11-29 00:00:09 | 掌編小説




◇柿の木のある家


柿が実っている
遥かなアルプス連峰を
視野に入れて
眺めながら

陽を蓄えた
柿色と
峰々の
白い雪が
鮮やかな対照をなしている

遠くして
近い
近くして
はるかに遠い

ふと思いついた衝撃が
あまりに大きすぎ

柿は持ち堪えきれなくなり
地面に落ちて崩れた

これが熟柿の最期だった
もっとも硬く張り詰めた美の頂点と
熟成して緊張が緩み崩れる間には
えも言われぬ際どい一線
いわゆる境界線というものがある
それはこの柿の実のように
内部の覚醒によってもたらされる
一大変革と言ってよい

こんなことを考えながら久しぶりに帰省した男は
村に踏み込んでいったのである。
故郷の家は空家になっていた。
埃だらけで夜具もなく、とても寝るどころではないので、
村の中心に戻り、一軒だけある宿に一泊して、バスで街へと
帰って行った。
とてもじゃないが、あれが古里だなんて言えないなあ、と男は呟いていた。
そうやって男は故郷を失ったのである。いや、温存しておくためには、
遠ざかる必要があった。



   ☆

花野ゆく

2014-11-26 08:14:34 | 俳句





我が窓に

  何を告げむと

    稲光



きらきらと

  天に逆行

    する一葉



この世には

   咲けぬ花あり

     天に咲く



花野ゆく

  いま亡き母に

     手を取られ



   ☆










鳥渡るネットの乙女住む街へ

2014-11-25 19:40:38 | 俳句

   ☆


◇鯊釣りて喜ぶ子あり写真展


◇ありがたみ思ひ出させて鰯漁

 不漁のあとの賑はふ漁村


◇秋刀魚焼く煙にこもる味覚かな

◇秋刀魚焼く傍ら猫の目は細く

◇どこか似て鮭待つ男の顔険し


◇釣糸を水に垂らして待つ男

 険しき貌の鮭を滲ませ


◇遠足の子にまだ早し花野径

◇花野径かうべに白き花添へて

◇ざはめきは路地抜けてくる運動会

◇鳥渡るネットの乙女住む街へ

◇界隈に来てゐるらしきヒヨ・ヒタキ

◇小鳥来る時あやまたずこの街に

◇声よりも色鳥うつる木々の枝

◇帰燕して青々と澄む町の空

◇群れなして燕帰れば町寂びし

◇稲雀声のかたちをなして飛ぶ

◇鶺鴒の鳴く水音より高く

◇啄木鳥の活動人を目覚めさす

◇けらつつき怒り顔して木に当る

◇けらつつき温泉町の風物詩

◇吾を知るやけらつつき来て木を穿る

◇キーキーと鵙来鳴く空深く澄み


   ☆