波乱の海をぶじ目的地へ

現世は激しく変動しています。何があるか判りませんが、どうあろうと、そんな日々を貧しい言葉でなりと綴っていけたらと思います

野の鹿

2014-12-22 16:34:29 | 俳句



  ☆

雪の日を

駆け抜けてゆく

来る年へ


  ☆

大根の

厚さに母の

苦は沈み

  
  ☆

枯草を

従へて立つ

野の鹿は


  ☆

白菜の

しみに幼子

指をのべ


  ☆

間なく来る

正月厳めしき

顔をして


  ☆

万人に

正月といふ

お年玉


  ☆

ホームにて

送り迎への

葉の牡丹


  ☆





  

羊の顔・千両、万両・葉ボタン

2014-12-21 13:17:49 | 童詩




  ☆


大根に目と鼻を

描けば

羊の長い顔

顎ひげは

もともとついていた


  ☆


お世辞にも

華やかとは言えなくて

赤い実のまま

そこにいるだけ

千両 万両


  ☆


ママ あれ 何の花?

葉ボタンよ

こう言われても

女の子には

ちんぷんかんぷん

親子なら

こんな会話も許される

忙しない年の暮れ



  ☆


啄木鳥

2014-12-05 18:06:33 | 散文詩



   ☆


啄木鳥の急を告げつつ眼の赤き


   ◇

この鳥は餌になる虫を探して木をつついたのではなかった。
危急を告げるためだった。いったいどんな危険が迫ったというのか。子供が病気になったのか。それとも旦那が。あるいは旦那が行方をくらましたのか。そういった草草の自分では解決できない問題を抱え込んで、捌け口を木をつつくという一点にしぼって集中しているのか。
啄木鳥が気の毒ではあるが、人間とて問題を抱えて、どうしようもなく喘いでいる状態なのだ。啄木鳥が木をつついて音を出すのなら、人間には電話に向かって声を出すという手はあるが、そうしたからって、いったい誰がこの人間の悩みを解決できるというのか。ナインダヨ。PCとか、テレビとか、DVDプレーヤーとか、文明の利器は抱えていても、正解を与えてくれるものなんか、ナインダヨ。
だからキツツキ君よ、何もしてやれないからって、悪く思わないでくれ。人間も解決できない多くの悩みを抱えていて、精一杯なんだ。そう言い終わるか、終らないうちに、キツツキはびびっと、翼で大気を打ち叩いて飛び立っていた。どこへ消えたのか姿を追っても、影も形も見えない。空の青さに融けて呑まれていったとしか思えない。


   ◇

落ち葉

2014-12-04 17:19:06 | 俳句+ポエム





  ☆


落葉やむ瞬時の下を駆け抜けり


  ◇


風のあるなしによるのか、もっと別の条件によるのかは知らない。
落葉が突如、堰を切るように繁く落下することがある。
まだ枯れきっていない、水分を含んで重たい葉柄を下にして、垂直に落ちてくる。
木の下を通り抜けるのにも恐怖を感じる。
人間が生き埋めにされてしまうというほど大げさではない。しかし落葉に打たれるのが怖いのである。きっと人間を自分たちと同じ運命に引きずり込んでやろうとする、落葉のまとまった意志のようなものが伝わってくるのだ。落葉のぶつかってきかたに、さり気ない行きずりの軽さがないのである。
だから私は、そういう現場にさしかかったとき、落ち葉の落下が静まるのを待ち、その木の下を駆け抜けるようにしている。
逆に、落ち葉に洗われるのが気持ちいい、という人もいるので、人さまざまである。


  ☆

詩の先生

2014-12-02 23:47:13 | 掌編小説

   ◇

 ストレート


まっすぐ伝わるのは
ストレートな思いだけだよ
曲がって書けてもストレート
曲げて書いてもストレート
それが今あることのすべて

書いたのか 書かされたのかも
しれないけれど
今をさらけたら 明日死んでもかまわない
そうしたら
明後日生きているかもしれないさ
まだ行ったこともない天国でね




 いいものを書こうなんて気を起こさないで、
単刀直入に綴ったよ。
 そしたら生まれて初めて、詩が書けた。
 それがこれだよ。
 詩かな、詩でないかな。
 詩だよ、と僕でない声がした。
 あそこに出そうかな、やめようかな。
 そう呟いたら、出せ出せと声がした。
 隣で寝ている寮生で同じ学年の飯田直助の寝言かな。
 そう思って、布団から出ている直助の手を抓ってみた。
 むにゃむにゃと口を動かしただけだったから、こいつの寝言ではないと分かった。
それなら誰が言ったのか、気になるところだけど、
僕は深夜にせかせかとインターネットの投稿サイトに、これを投入したよ。
 投入してしまったから、僕の中には何もない。空っぽだ。空の空の空だ。

 明日ネットを開いて、びっくり仰天する直助の顔が見ものだよ。
 僕の詩が載っているなんて、夢にも思わなかっただろうからね。
 僕が詩を書けるなんて。猫の毛ほども思っていなかったさ。
 そのくせ、いつも言っていたんだ。
詩を書け、詩を書け、とね。
そしたら、あそこに連れて行くと、口癖のように言っていたんだ。
あそこって、どこかな。
決まってるさ、直助の彼女がいるといつも自慢しているコーヒーカフェのスズランだよ。
詩人気取りで、奴が彼女にもてるのは、詩人だからなんて、驕っていたけど、
この僕の詩が、インターネットに載ったなんて知ったら、
直助のみならず、彼女も慌てふためくさ。
まるきり詩のセンスなんかない、鈍の上にアホのつくのろまだと
決め込んでいたんだから。
とにかく明日になって、隣の相棒の慌てようを見るのが楽しみだ。
ということで、寝ようするのに、興奮の度が過ぎて、眠れなくなったぞ。
頭の冴えというのは、こんなときに訪れるものなのか。これは困った。
 僕が教える先に、直助に見つけられたら、困るんだっちゃ。
僕をへこませる文句を、いろいろ練るからだよ。奴のことだから、
こんなことも言い出しかねない。
まぐれ、まぐれ、まぐれに浮かんできた、まぐそに過ぎない。
おい、まぐそとまぐれが、どう違うかわかるか? それそれ、そが、れに、なっただけだ。 ドレミファソレシド
言わせておけば、図に乗って攻撃してくるから、
ソレシドじゃなく、ソラシド と訂正してやる。すると奴は、僕の訂正まで攻撃の材料に組み込んで、そうだそうだ、空空、何もない、空、詩の言葉も、エスプリも、新しさも 何もない空疎な空。
 こんな敵人と化した直助と、空想上の闘いをしているうちに、疲れて寝てしまったようだ。
 目が覚めると、彼が机を前にしょぼくれている。見つけたな、と思ったが、僕はやんわりと、
「どうかした?」
 と探りを入れる。
「小島のレポートの提出期限が、今日なんだよな。明日までと思い込んでいた」
 と直助は当ての外れたことをぬかす。
「おまえが授業を受けていれば、ノートを見せて貰えるところだけど、あいにく受けていないし」
 と彼はぼやきつづける。
 僕はたまらず、直接攻めることにする。
「僕の詩、見てくれた?」
「何だって! おまえの詩だって?」
「昨日、読んで、出せ出せって、言っただろう」
「おまえ、本気で思ったのかよ」
 彼は言って、ノートパソコンを引き寄せ、例の詩のサイトを開いた。
「ないじゃないか、おまえの詩なんか、どこにも」
「ないって?」 
 びっくりするのは、僕のほうだった。
 僕は自分のノートパソコンを開いて、確認するが、直助の言うとおり、どこにも載っていないのだ。昨夜あんなに苦心して投稿したのに、それが出ていないとはどうしたことだ。入力に際し、なれない手続きを踏んでいき、最後のボタンを押し忘れたというのか。
 もう一つ、これは考えたくないが、僕のパスワードの置き場所を知っているのは、直助だけなのだ。それは夜遅いこともあり、整理もしないまま机の上に書き散らしたままになっている。
 直助への疑いを晴らすためにも、もう一度最初から入力してみなければならないだろう。「詩は根気だ」
 とも彼は語っていた。まぐれではない詩が生まれるように、書いてみようと、僕は自らに言い聞かせていた。直助は僕の詩の先生かもしれないぞ。

                 了

  ◇



短編小説 ブログランキングへ

案山子

2014-12-01 09:38:30 | 掌編小説



◇案山子


 このところ野の鳥の被害が大きく、これではたまらないと、彼は案山子を作って、畑に立てた。ぼろを着せ、顔もおどろおどろしく見せるのに苦労した。布を細く裂いたものを編んで髪の毛をこしらえ頭にかぶせ、顔にも墨で髭を書いたり、目や鼻や口はいかにも恐ろしげな面構えにした。
 そうやって作った案山子を立てても、鳥は次々とやってきて、作物を食い荒らした。
 彼にふと良案が閃いて、さっそくその製作にとりかかった。といっても、作製はそれほど難しいものではなく、むしろ閃きにこそ値打があるというものだった。
 種明かしをすれば、鳥の骨を模したものを案山子にぶら下げ、作物を荒らしに来た鳥は、このように案山子に食われて、骨だけにしてしまうぞ、という脅しだった。彼は骨によく似た木の枝を切り取ってセメダインと糸で、鳥の骨格らしきものをこしらえた。血が骨まで染め上げたと教えるために、雨に濡れても落ちないアクリル絵具の赤を多用して、何とかそれらしき骨格を二個作り上げた。
 それを案山子の腕にぶら下げて、あとは反応を見守ることにした。

 案山子の監視は小学二年の息子にさせて、南瓜の収穫にとりかかった。彼が案山子つくりに専念している間も、奥さんは畑で働いていた。
「どうした。いい案山子でけたの?」
 奥さんは腰を上げて訊いた。彼は陸稲畑に立ててきた案山子を指差した。
「頭が光っているね」
 と奥さんが言った。
「頭に空き缶をつけたからな。王冠みたいに」
「案山子の王様ってわけ?」
「まあそんなもんだ」
 彼は言って稔っている南瓜を探してはもぎ取って、かますに入れていった。

 一時間もした頃、
「パパ」 
 と息子がやって来た。
「パパがこしらえた鳥の骨の上に、雀がのって遊んでいるよ」
 と息子が報告した。
 彼はしばらく言葉が出てこなかったが、いまいましさを噛み殺して、なんとか口にした。
「利口な鳥がいたもんだな」
 それに息子が言い返した。
「雀になめられるものをこしらえた、パパがバカなんだよ」
 奥さんの笑い声が爆発し、丘にぶつかって木霊となって返ってきた。その声に小鳥の散るのが見えた。
                  了
  



ブログランキング・にほんブログ村へにほんブログ村



短編小説 ブログランキングへ