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◇夜更けの音
村の中学校の運動場には砂場があって、鉄棒にピーピーが一個忘れられてぶら下がっていた。
夜が更け、風が出ると、カラカラっと鳴る。ピーピーと鳴れずに、周りにぶつかっては、ひ
とばんじゅうカラカラカラカラと、乾いた不自然な音をたてていた。
朝になると、ピーピーの出す音はきれいにやんでいた。
風はあるのに、どうしたのだろう。
宿直明けの教師は首をかしげた。
日誌には、異状なしと書いた。それだけでは、少々不満が残ったので、その隣に、
(鉄棒に誰かがピーピーを忘れたらしく、それが風に振り回されて当たる音がして、眠れなかっ
た。帰宅するとき砂場に立ち寄って、確認してみる)
と記しておいた。
勤務を終えて帰宅するとき、砂場に寄ってみた。何とピーピーは、鉄棒に紐が巻き付いて、身
動きできなくなっていた。
まるで緊張してすくんでしまった蝸牛のようだ。ほどいて鉄棒にぶら下げてやるにしても、周
りにぶつかって当たり散らすのが、関の山だ。それがピーピーのあるべき姿とは思えなかった。
教師は砂場を離れて帰路についた。
宿直明けの日曜日とあって開放感にひたり、ひとりでに口笛が出てきた。
ピーピーにすまない気がした。
家に着くと、母親がテーブルに並べておいた朝食をとり、昼近くまで寝た。起きると母親の居
る菜園に行き、草取りを手伝った。
周りで鳥が鳴いている。ピーピーのように単調な鳴き声は一つもない。近いと言えば、鵙の高
鳴きくらいのものだ。鵙は、キィーッ、キィーッと、一本調子の声で叫んでいる。
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