波乱の海をぶじ目的地へ

現世は激しく変動しています。何があるか判りませんが、どうあろうと、そんな日々を貧しい言葉でなりと綴っていけたらと思います

夜更けの音

2015-03-01 17:15:13 | 散文




◇夜更けの音


 村の中学校の運動場には砂場があって、鉄棒にピーピーが一個忘れられてぶら下がっていた。

 夜が更け、風が出ると、カラカラっと鳴る。ピーピーと鳴れずに、周りにぶつかっては、ひ

とばんじゅうカラカラカラカラと、乾いた不自然な音をたてていた。

 朝になると、ピーピーの出す音はきれいにやんでいた。

 風はあるのに、どうしたのだろう。

 宿直明けの教師は首をかしげた。
 

日誌には、異状なしと書いた。それだけでは、少々不満が残ったので、その隣に、

(鉄棒に誰かがピーピーを忘れたらしく、それが風に振り回されて当たる音がして、眠れなかっ

た。帰宅するとき砂場に立ち寄って、確認してみる)
 

と記しておいた。

 勤務を終えて帰宅するとき、砂場に寄ってみた。何とピーピーは、鉄棒に紐が巻き付いて、身

動きできなくなっていた。

 まるで緊張してすくんでしまった蝸牛のようだ。ほどいて鉄棒にぶら下げてやるにしても、周

りにぶつかって当たり散らすのが、関の山だ。それがピーピーのあるべき姿とは思えなかった。
 

教師は砂場を離れて帰路についた。

宿直明けの日曜日とあって開放感にひたり、ひとりでに口笛が出てきた。

ピーピーにすまない気がした。

 家に着くと、母親がテーブルに並べておいた朝食をとり、昼近くまで寝た。起きると母親の居

る菜園に行き、草取りを手伝った。

 周りで鳥が鳴いている。ピーピーのように単調な鳴き声は一つもない。近いと言えば、鵙の高

鳴きくらいのものだ。鵙は、キィーッ、キィーッと、一本調子の声で叫んでいる。



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