公園に隣接する動物園から、猛獣の咆哮が伝わってくる。
この空気をどよもす唸り声はライオンにちがいない。
ライオンの咆哮は、公園の静寂を稲妻のように駆け抜けていく。
これでは他の動物たちも、落ち着けないだろう。
ライオンの咆哮はしばらくしてやんだ。
街も一日の活動を停止し、公園を彷徨うものも絶えた。
それから数時間経った深夜の公園。
外灯の下のベンチに、ぼろきれのように蹲っているものがある。
影のように薄っぺらく、形からして人間ではない。
奇怪なものが、外灯の薄明かりに影絵のように蹲っている。
これはいったい何ものだろう。想像を逞しくすれば、いままで
そこにねまっていて、自分のうっとうしさを外套のように脱い
でいったもののようだ。夕方のあのライオンの咆哮を思い出していた。
いまそこに蹲っているものこそ、さかんに咆えていたライオンの亡霊にちがいない。
そして外套を脱ぎ払ったライオンの本体が、深夜の公園を彷徨っている。
いつ外套を取りに戻って来ないともかぎらない。そのライオンと鉢合わせするのは危険だ。
いつまでも夜の公園をうろついているのは危ない。人影がないのは、そのせいだ。
そう受け取ると、公園の出口へ足早になった。