☆生ける宝石
学校帰りの山径で 小鳥の巣を見つけたことがあった。
宝石のような卵が三個並んでいて 近くの樹から親鳥の監視を受けながら
覗いて行った。
巣に立寄るのを日課にしているうち ついに卵が孵り 赤むくれの姿から
小鳥らしくなっていくのが嬉しかった。
給食を残してきて与えたりしていると 雛はなついてきた。指の腹を噛まれ
たりすると これも愛の仕草かと思われた。
三日ばかり休日が続いて 巣に立寄ると きれいに巣立ちをしてしまっていた。
………あのときの喪失感。生ける宝石を失ったような こんなはずはないとい
う呆気なさ。
子供の彼も やがて学校を巣立ち 田舎を離れて何年も流れた。
そうして 何十年も過ごしてしまったが 呆気なく消えてしまった欠落の
思いは 体の奥深く残っていたようだ。
というのは この頃になって 三羽の小鳥が夜の夢に現われ しきりにガラス
戸をつついたりするからだ。
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