波乱の海をぶじ目的地へ

現世は激しく変動しています。何があるか判りませんが、どうあろうと、そんな日々を貧しい言葉でなりと綴っていけたらと思います

化け物探検

2016-11-26 14:25:24 | 童話


 山の前で、囁くほどの小声で喋っただけなのに、
バカでかい声になって木霊が返って来た。
 あの山にはいったい、どんな化け物が棲んでいるのだろう。
 僕は弟を連れて、探検に行くことになった。
 寝ている弟を起こし、乾パンなどの入った、非常用のナップザックを
背負って、二人で山へ向かって行った。途中で、散歩から帰って来た
隣のおばさんに会った。
「二人して、どこへ行くの?」
 とおばさんが訊いた。
「あの山に化け物がいるから、探検に」
 と僕が言った。おばさんは変な顔をして行ってしまい、
 僕と弟はまた歩き出した。
 しばらく行くと、後ろから母の声がして、追いかけて来た。
 母は二人ともおかしいと思って、持って来た目覚まし時計を、
けたたましく鳴らした。僕と弟はパチッと目が開いて、
全部夢だったと分った。弟まで夢を見ながら、夢の中を歩いて来たのだ。
 このとき、前の山で、バーンと銃声がした。
「ほら、化け物が鉄砲撃ちに撃たれた」
 と僕が言った。弟が頷いた。

  おわり




栗焦げご飯と茸焦げご飯

2016-10-11 09:18:42 | 童話
◇栗焦げご飯と茸焦げご飯



栗と茸の季節が、並んで一緒にやって来ました。
おばあさんは息子と孫のために、栗ご飯と茸ご飯を
炊きました。
孫は栗ご飯を、おいしいおいしいと言って食べ、息子は
茸ご飯をうまいうまいと食べました。
おばあさんははじめのうち、小釜を二つ並べて、栗ご飯と茸ご飯を
炊いていましたが、時間もかかるし、面倒なので、栗と茸を一緒に入れて
炊くことにしました。
息子も昔、子供のころ、栗ご飯が好物であったことを、想い出したのです。
この孫ももう少し大きくなったら、茸ご飯を好むようになるにちがいないと
考えたのです。

さて、栗と茸を混ぜた、栗茸ご飯が炊きあがりました。
いよいよその食卓となりました。息子の方は別に変った様子もなく、口に運んでいましたが、孫は茸を箸につまんで匂いを嗅いだりして、口に運んで行きません。そしてついに、自分の口にではなく、パパの口に運んで入れてしまいました。パパはそれをおいしいおいしいと言って食べました。孫は茸が出て来ると、次々とパパの口に運び、父は父で、貰ってばかりでは悪いとばかりに、栗が出て来ると、息子の口に運んでやりました。
おばあさんは二人を喜ばせてやろうと、栗と茸をどっさり入れて炊いたのです。そのためご飯の中の栗と茸も目立って多く、それぞれの口へ運ぶ箸の往復は忙しなく、めまぐるしいほどでした。
おばあさんはそのやりとりを、ため息をついて見ていました。その目の前で、孫の箸がうっかり父親の目を突いてしまったのです。目から火が出たのは、息子の目ではなく、おばあさんの目でした。
さいわい大事には至らずにすみましたが、おばあさんの栗茸の混ぜご飯は、その一回で終わりとなりました。けれども店先を彩る栗と茸の季節は、まだまだつづきます。孫が栗ご飯を食べたそうな目をしておばあさんを見たりすると、たまらず栗と茸を買い込んでくるでしょう。

 そうして実際二つの釜をならべて、栗ご飯と茸ご飯を炊きはじめました。ところが気ぜわしく動いたために、おばあさんに疲れが出て、火の番をしながら、うっかり眠ってしまったのです。
焦げ付く匂いに、おばあさんはうっかりしていたと、跳び起きました。さいわい焦げ過ぎとまではいかずにすみました。孫と息子は、少し変わった味がしておいしいと言って食べました。おばあさんは料理のレパートリーを増やしました。それは栗焦げご飯と、茸焦げご飯です。

  おわり




昼の月を胸に抱えるイルカ

2015-04-10 20:21:24 | 童話



☆昼の月を胸に抱えるイルカ



 海の上にはまっ青な空が広がっている。
 雲一つない空に、まあるい昼の月が浮かんでいる。
 海で遊んでいた一匹のイルカが、たまらなく昼の月が欲しくなり、月に向かってジャンプした。
 空は高くて、月には届かない。何度飛び上がっても、届かない。届かなければ、届かないほど、月を欲しい思いは募っていった。
 イルカは助走をつけて泳げば、高く飛び上がれるかと、幾度となく試みたが、失敗した。
 次に助走の距離を長くすれば、高く飛べるかもしれないと、距離をのばしてやってみた。
 助走をつけて泳ぐだけでくたくただった。それでもその先に昼の月はあるのだと奮起して、力の限り泳ぎ、決めた場所に来ると、海面を蹴って飛び上がった。
 イルカはあまりの疲れで、意識が遠くなっていきながら、ひゅるひゅると空高く昇っていった。
 そしてついに、昼の月を捕まえたのだ。いや、捕まえたと思った。そう感じたとたんに、気絶してしまった。
 イルカが海の生き物であるからこそ、助かったのだろう。陸の生き物であったら、そんな高さから落下すれば、命を落としたに違いない。
 イルカは海の底で、海藻にくるまれて何日か寝込んだ後、疲れも取れてぱっちりと目が覚めた。
 夜だった。何かに煌々と照らされている気がした。光に導かれるまま、海面まで上っていき、目を開いた。
 夜空には月が出ていた。けれどもその月は満月ではない。端が欠けていた。やっぱり自分はあのとき月を捕まえたのだ。そう信じられて満足した。その反面、月にすまないことをした気もした。
「お月さん、かじってごめんね、痛かったでしょう」
 そう言って謝った。
 二度と月を捕まえようなどとは考えなかった。
 何日かが流れた。ふと気づいて見上げると、月は完全に回復して満月になっていた。
 白昼の空に浮かぶ昼の月も満月だった。イルカはほっとして、背泳ぎをしながら、昼の月を眺めていた。
 背泳ぎするイルカを見かけるようになったのは、このときからである。背泳ぎするイルカはみんな、胸に月を抱えている。大切な宝物だから、かじったりはしないのだ。

                         おわり


     ☆


まきばの歌

2012-04-03 14:15:31 | 童話



[まきばの歌]



 まきばの上には、のんきそうに夏の雲が浮かんでいました。牛たちは、広々とした草の上で、あくびをしています。
 カケスの五郎は、山から飛んでくると、柵に留って歌いだしました。牛たちはカケスの五郎の歌を聴こうとして、寄って来ました。
 広いまきばの、あっちからもこっちからも集まってきたので、五郎の前は牛でいっぱいになりました。遠い牛は、歌なんか聴こえないのに、ほかの牛が寄って行くので、まねをして集まってくるのでした。

  もうもう牛さん のんきだね
  草を食べては 寝るばかり
  どこへ行っても 平気だよ
  柵の中なら 平気だよ
  山の熊さん 来ないから

 五郎がここまで歌うと、牛たちは調子を合わせて、
  もうもう 
 と鳴きました。中に調子の外れた声がありました。五郎は、何を言っているのかと、耳をすませました。すると、
「もう一度、歌ってよ」
 と言っているのでした。
「次は二番」
 と言って、五郎は歌を続けました。

  日が沈んだら サイロに帰る
  サイロは 牛のおうちだよ
  みんなならんで もうもうもう

 ここまでくると、牛たちも、
  もうもう
 と声を揃えて歌いました。でも、また調子の外れた声がしました。
「サイロは、わしらのおうちじゃないよ」
 と言っているのでした。
「それなら、牛さんのおうちはどれ?」
 と、五郎は聞きました。
「その隣の、低い屋根の家さ」
 と牛は言いました。サイロの隣には、なるほど低い家が建っていました。
「おいら、あれは鶏の家かと思っていた」
 と五郎は言いました。家の周りで遊んでいる鶏を、よく見るからです。
「鶏は、わしたちの家を間借りしてるだけさ」
 と、黒いところの多い牛が言いました。すると五郎は、歌いだしました。

  朝日がお山に のぞくころ
  一番どりが けけこっこー
  牛さんいやいや首を振り
  おいおい もっと寝かせろよ

 ここまで歌うと、また牛がもごもご言いました。五郎は耳をすませました。
「わしらは、そんな乱暴な口はきかないね。寝かせろよ、なんて」
 と、白いところの多い牛が言いました。
「それは、男の言葉だよ」
 と、別の牛が言いました。
 五郎は牛たちのおなかの下を見て、〈しまった〉と思いました。
みんな、大きなおっぱいをぶらぶらさせていたのです。
 五郎はあやまって、別の歌を歌いだしました。すると後ろにいた牛が、
「うもー」
 と鳴きました。五郎は歌うのをよして、
「何、そこの牛さん」
 と、聞きました。その牛は、ならんでいる牛の後ろから、頭だけ出して言いました。
「新しい歌じゃなく、さっきの歌を、初めからやってよ。わたし覚えたいから」
 五郎は、初めの歌が気に入られたと思うと、嬉しくなりました。
「じゃ、やるよ」
 と言って、ゆっくり歌いだしました。

  もうもう、牛さんのんきだね
  草を食べては 寝るばかり
  
 ここまで歌うと、牛たちは声を揃えて、

  もうもう もうさんのんけよね

 と歌いだしました。
「もうさんじゃなく、そこは牛さん」
 と、五郎は叫びました。
 このとき、向こうの柵で、ホオジロが、

  ちんちくりん ちゅんちゅん

 と歌いだしました。牛たちは、そちらに気をとられて、大きな耳をいっせいに向けました。でも、ホオジロは、歌をはじめたのではなく、子供たちを呼んでいるのでした。子供が三羽、親鳥の隣にやってくると、鳴き止んでしまいました。 
 五郎はまた、歌を教えにかかりましたが、牛たちは、どうしてか落着きがなくなりました。何頭かは、牛の家の方を向いて、
「うもー、うもー」
 と鳴くありさまです。
 そのうち、牛たちを呼ぶ鐘の音がしてきました。もう家に帰る時間になっていたのでした。お日さまも、すっかり傾いていました。
 牛たちは、
「もう、もう」
 と返事をしながら、続いて帰って行きました。クローバーやチモシーとは違う餌と、水を貰って、寝るだけなのです。

 五郎は、すっかり静かになったまきばの柵に留まって、ぼんやりしていました。山に帰ろうかと思いましたが、まだ少し早いようです。
 あちらこちら眺めていると、少し離れた柵の上に、ちょこんと、赤い麦わら帽子がかぶせてあるのに気がつきました。
 五郎はそこまで飛んで行きました。小さな、かわいらしい麦わら帽子です。きっと、遠足にきた女の子が、忘れていったものでしょう。
 五郎は、この帽子を柵にかけておくのは、もったいないと思いました。そうかといって、五郎がかぶるのには大きすぎます。狐にやっても、
「何だこんなもの、食えないじゃないか」
 と言って、破いてしまうでしょう。鳥にでもやれば、巣に敷いてしまうにちがいありません。
 いろいろ考えていると、いいことに思いつきました。五郎はさっそく、麦わら帽子をくわえて飛び立ちました。ちょうど風が出て、うまい具合に、帽子を運んでくれます。
 まきばの上を飛んで、サイロに来ると、屋根の上にとびのりました。そして、屋根のてっぺんに、帽子をかぶせてしまったのです。赤い屋根に、赤い麦わら帽子は、ぴったりでした。
 サイロを離れて見ると、丸い屋根に、帽子の頭が、ぴくりと飛び出ていて、牛のおっぱいにそっくりでした。
 そこで五郎は、こんな歌を歌いながら、山に帰ったのです。

  サイロが 帽子をかぶったら
  牛のおっぱい ぶーらぶら
  でも 乳首が一つでかわいそう
  もしも おいらが 子牛なら
  あれは おいらのおっぱいだ
           〈おわり〉





パパの頭を滑る。

2012-03-30 11:31:51 | 童話



 [パパの頭を滑る]


 うちのパパは頭が禿げていて毛が少ない。
 夢で私は、パパの頭をスキーで滑り降りていた。少ない髪の毛は、
夢では、少ない小さな木になっていた。小さな木の間をぬって、滑
り降りるのは気持ちよかった。何度も転んで、雪の面に凹凸を作っ
たりした。

 朝起きると、パパは頭が痛いと言った。
 私はびくっとし、隠れてパパの前には出ないようにしていた。
 ママは、
「あんなに遅くまで、飲んでくるからよ」
 と言ってパパをとがめた。
「だって、付き合いだからしょうがないよ」
 パパはそう言って、たいぎそうにしていたけれど、遅刻して会社
に出かけて行った。
 猫のタマコは、悪さをして怒られたときみたいに、遠くから顔だ
けパパに向けて見ていた。
 私はそのタマコを見ていた。
「パパはもう行った?」
「OK」
 タマコはそう言って、毛づくろいをはじめた。私はほっとして、
リビングルームに出ていった。
                          おわり







森のお祝い

2012-03-29 11:02:47 | 童話

 『 森のお祝い 』   


 森の近くに、家が一軒ありました。その家には、男の子がいて、
名前を太郎といいました。
 太郎は今日、七歳の誕生日を迎えました。誕生日のお祝いに、お
赤飯をたいてもらいました。
 太郎がお赤飯を食べていますと、縁側に、
「ぴーよ、ぴーよ」
 と、ひよどりがやって来て言いました。
「わたしはまだ、そんなにおいしそうな 食べものを、見たことが
ありません。一度だけ、そんな食べものを、わたしの子どもに 食
べさせてやりたいのです。どうか、三粒でも 四粒でも 下さいま
せんでしょうか」
 太郎は、箸に赤飯をつまんで、十粒ばかり縁側に置いてやりまし
た。
 ひよどりは、ひょこひょこと頭を下げてお礼を言ってから、赤飯
をくちばしにつまんで飛んで行きました。

 ひよどりが、ひなに赤飯をやっているところに、尾長が通りかか
りました。
 尾長は、ひよどりの母親に訊きました。
「そんなに おいしそうな食べものを、どこで手に入れたの」
 ひよどりは、森の外れの一軒家を、くちばしで指して言いました。
「ほら、あそこのお家の、太郎さんが下さったんですよ」
「それじゃ、わたしも貰って きましょうっと」
 尾長は、ひゅーっと森の上を飛んで、太郎の家の縁側にやって来
ました。
「太郎さん、太郎さん」
 と尾長は、長い尾を振りながら言いました。「なあに」
 と、まだ赤飯を食べていた太郎は、訊きました。お茶碗には、半
分くらい残っていました。
「わたしにも、そのおいしそうな食べものを、分けて下さいません
か。一度だけ、子どもに食べさせてやりたいのです」
 太郎は、尾長にも十粒ほど縁側に置いてやりました。
 尾長は、頭と尾をおもしろおかしく上げ下げして、お礼を言うと、
お赤飯をつまんで森に飛んで行きました。

 尾長が、子どもたちにお赤飯を与えていると、もずが通りかかり
ました。
 もずは、尾長の母親に訊きました。
「そんなに おいしそうな食べものを、どこで手に入れたの」
 ひよどりは言いました。
「あの森の外れの一軒家ですよ。そこの太郎さんから貰ったのよ」
「じゃ、わたしも貰ってこようっと」
 もずは、威勢よく飛び立ちました。

 もずは、太郎の家の縁側にやって来ました。赤い口を開けて、
「キイッ、キイッ」
 と言いました。
「何か、用? 今日はいろんな鳥が来るようだけど」
 太郎は、最後の一口を 口に入れてしまったところでした。
 もずはがっかりして、言葉が出てきませんでした。ところがこの
とき、太郎は茶碗をさし出して、お赤飯のおかわりをしたのです。
もずは今度は、急に嬉しくなって 言いました。
「わたしにも、そのおいしそうな食べものを、ほんの少し分けて下
さいな。一度だけ、子どもたちに食べさせてやりたいのです」
 太郎は、もずが話し終る前に、縁側に十粒ばかり置いてやりまし
た。もずの言いたいことは、はじめから分かっていましたからね。
 もずは、鋭いくちばしに お赤飯をくわえると、何度も頭を下げ
て飛んで行きました。
 もずが、子どもにお赤飯を与えているところに、こじゅけいがや
って来ました。
 こじゅけいは、もずの母親に訊きました。「ちょっと、その赤い
食べものは、どこで拾ったの?」
「拾ったんじゃないわよ。こんなにお目出たい食べものが、落ちて
なんかいるもんですか」「それじゃ、どうしたっていうのよ。まさ
か盗んで来たわけじゃないでしょう」
 こじゅけいは、わけが分からないという顔になりました。
 もずはきかない目つきになって、言いました。
「わたしが盗んだりすると思うの? これはね、あそこの家の 太
郎さんから貰って来たの!」
「じゃ、わたしも貰ってこなきゃ」
 こじゅけいは、慌てて走りはじめました。この鳥は、飛ぶよりも
 走るほうが得意のようですね。それでも、速いとは言えませんで
した。

 こじゅけいが家の縁側に来たときには、太郎の茶碗は空になって
いましたよ。そうとは知らずにこじゅけいは、
「ちょっとこい、ちょっとこい」
 と言いました。
(おや、へんなことをいう鳥だな)
 と、太郎は思いました。
(赤飯を食べてしまったので、怒っているのかな)
 太郎も、こじゅけいが「ちょっとこい、ちょっとこい」と鳴くの
を、知らなかったのですね。
「わたしにも、おいしそうな赤い食べものを、分けて下さいません
か」
 と、こじゅけいは頼みました。
 ようやく太郎は、こじゅけいが怒っているのではないと分かりま
した。けれども、もうお赤飯はありません。
 空になった茶碗を見せましたが、こじゅけいは戻って行きません。
きょとんとして立っているのです。

 そのうちに、この家でお赤飯を貰ったと聞きつけた鳥たちが、次
々と縁側にやって来ました。
 きじばと、めじろ、かわせみ、よたか、こまどり、とんび、から
す、きせきれい、のびたき、しじゅうから……と、それはそれはた
くさんの鳥たちが押しかけて来たのです。お赤飯を貰った、もずや、
尾長や、ひよどりの仲間も交じっていました。
 縁側にあふれた 鳥たちを見かねて、この家のおばあさんが言い
ました。
「よし、わしがもう一度、赤飯をふかしてやるから、みんな待っと
れ、待っとれ」
 おばあさんは、庭にかまどを持ち出して、お赤飯をふかしはじめ
ました。
 鳥たちは、庭の木や、屋根に留って、じっとお赤飯のたけてくる
のを見つめていました。こんなに鳥がいるのに、まったく声がしな
いなんて、考えられないほどです。あのやかましいむくどりさえ、
楢の木にすずなりになって、おとなしくしているのです。
 でも、こじゅけいだけは、いい匂いをかぎに、二歩、三歩と、か
まどに寄って行きましたよ。
 お赤飯がたけると、鳥たちはみんな仲良く順番を守って、貰って
行きました。一度貰って、また貰いに来るものなど、一羽もいませ
んでした。

 明くる朝のことです。太郎は、鳥たちの声で目が覚めました。ぴ
ーよ、ぴーよ、ででっぽう、ででっぽう、けっけんかけきょ、きい
ーっ、きいーっ‥‥
 また縁側に来て、騒いでいるらしいのです。ちょっとこい、ちょ
っとこいと言っている鳥もいます。
 しばらくすると、鳥の声がしなくなりましたので、太郎は縁側に
出てみました。
 するとどうでしょう。縁側には、足の踏み場もないほど、いろい
ろな物が置いてあるのです。
 ナンテンの赤い実があれは、まだ青いぶどうもあります。そのほ
か、名も知れぬいろいろな草の種。
 またこれは、もずが捕まえてきたものでしょうか、いもりさえ置
いてあるのです。どこで捕まえたのか、たにしや、どじょうも置い
てあります。そしてお赤飯によく似た、赤まんまの花もありました。
とうもろこしが、一粒だけなんてのもあります。
〈ははあ、これはみんな、昨日お赤飯を貰ったお礼のつもりだな〉
 と太郎は思いました。
 ところが、どうしてもお礼の品物を、見つけられない鳥がいたの
でしょうか。小豆色のきれいな羽根が一本、縁側の真中に置いてあ
りましたよ。考えたすえに、自分の羽根を抜いていったものでしょ
う。
 この羽根を置いていったのが、何という鳥か分かりますか?
「ちょっとこい」と言われたような気がして、太郎は庭の隅の草か
げに目をやりました。でも、そこには、鳥なんか一羽もいませんで
した。
                おわり


アヒルと羊

2012-03-27 20:38:14 | 童話




 [アヒルと羊]


 野道を羊とアヒルが出かけていく。
「私たち、似た性質ねえ」
 アヒルが話掛けても、羊は知らん顔して、道端の草を食む。知らん顔でも、いつもアヒルを目の片隅に入れていて、間が離れると、さっと追いかける。追かけながら、口をもぐもぐやっている。
「私たち似た性質ねえ」
 アヒルがいくら言っても、羊は口をもぐもぐやっているから話せない。
 アヒルはいささかおかんむり。池が見えたので、そちらへ走って行く。
 羊は草をこいで追いかける。
 アヒルは池にどぼん。
 羊は慌てて水際まで行ったけれど、ふかふかの毛の服では泳げそうもないから、
「メヘー、メヘー」
 と二鳴きして、忘れたように水をのむ。それから池を回ってアヒルを追いかける。
 アヒルは向う岸について、翼をぶるるん、尾羽をゆさゆさとやって水を切ると、また道に戻る。
 羊は息を切らせて池を巡り終え、アヒルに追いついた。
 そうやって二匹はまた道を歩き出す。
 薄雲に入っていたお日さまが、顔を出してぱっと照りつける。周りの世界がいっぺんに輝く。
 おや? その光り輝く前の道を、こちらへやって来るのは飼主なのだ。出先から帰って来たところらしい。
「あれ、おまえたち、どこへ行くつもりだね。似た性質のものが、こんな遠くまで来ると、帰れなくなるぞ」
 アヒルはたまげたふうに首を伸ばして、きょときょとする。
 アヒルは飼主を一ぺんに見直してしまった。何故といって、自分の思っているのと同じことを言ったのだから――。
 二匹はくるりと向きを変えて、飼主の前を走りながら、アヒルはまた言う。
「私たち、やっぱり似た性質ねえ」
 羊は知らぬ顔で、道端の草をすくい取っては、駆けて行く。                          
                            おわり