波乱の海をぶじ目的地へ

現世は激しく変動しています。何があるか判りませんが、どうあろうと、そんな日々を貧しい言葉でなりと綴っていけたらと思います

子雀

2015-03-12 08:56:03 | 散文




 ◇子雀



 ひと気のない公園の砂場に、病の子雀が哀れに脹らんで、よろめきつつ立っている。

 親雀は、病に効く草の種でも探しに出掛けたものか。

 鴉が二羽、狡賢そうな頭を傾げて、子雀に寄っている。 一つつきするだけで ごろりと横た

わり、子雀のビフテキにありつけること受合いだ。いとけない命の危機は迫っている。

 と、このとき、飛礫のように空の一角から突進してくるものがある。みるみる巨大な翼となり 

嘴は鋭く陽光にきらめき、鴉の胴体に風穴をあける勢いだ。

 その凄まじい殺気に、二羽の鴉は怖気をふるって逃げ去った。

 だが、子雀を救ったのは、気苦労にやつれ切った、小さな母雀にすぎなかったのだ。      

 何という、鴉の錯覚!

いったい鴉は、そのとき何を見たものだろう。

 
神は、幼い命を哀れんだ時、それを救うために、何にでも見せるものなのだ。             
 


 そのとき感じたかつてない怖気から 鴉は縄張りを捨て去って、遠い街へと逃れ出た。


   ☆


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