◇子雀
ひと気のない公園の砂場に、病の子雀が哀れに脹らんで、よろめきつつ立っている。
親雀は、病に効く草の種でも探しに出掛けたものか。
鴉が二羽、狡賢そうな頭を傾げて、子雀に寄っている。 一つつきするだけで ごろりと横た
わり、子雀のビフテキにありつけること受合いだ。いとけない命の危機は迫っている。
と、このとき、飛礫のように空の一角から突進してくるものがある。みるみる巨大な翼となり
嘴は鋭く陽光にきらめき、鴉の胴体に風穴をあける勢いだ。
その凄まじい殺気に、二羽の鴉は怖気をふるって逃げ去った。
だが、子雀を救ったのは、気苦労にやつれ切った、小さな母雀にすぎなかったのだ。
何という、鴉の錯覚!
いったい鴉は、そのとき何を見たものだろう。
神は、幼い命を哀れんだ時、それを救うために、何にでも見せるものなのだ。
そのとき感じたかつてない怖気から 鴉は縄張りを捨て去って、遠い街へと逃れ出た。
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