★ 何故、私は重く辛い本書を読むことにしたのか? それは「罪と罰」「更生と社会復帰」「刑罰と被害者の心情」にまつわるモヤモヤが消えていない中、加害者の中で
精神に異常をきたしたと認定された人を治療する事が「更生」になるのか? それが被害者にとり、少しでも救いになるのか?
・・・・私が長く抱く此の疑問に応えてくれるなら、と期待したゆえの読書である。
本書は、精神に異常をきたし刑事犯罪を犯した障碍者を取り巻く現状と問題意識を提起するルポルタージュ。まず、本書の概説と書評を述べる前に、基本的な用語と判断基準
を確認しておきたい。それは私自身が読み進みながら、法律用語と概念理解の難しさを強く感じたためである。 キーワードには太字または下線を施した。
・「触法精神障害者」は<精神に異常をきたし、刑法に抵触する「他害」を行った者>である。「他害」とは、人に怪我を負わせる・死に至らしめる行為。
・ 多くの暴力傷害事件や殺人事件で検挙される者の殆どは「触法精神障害者」と認定されないので、精神病院ではなく刑務所に送られる。
・ 刑務所の中には”軽度の精神障害あり”と認められた受刑者の加療に当たる医療設備と人員を有する場所もあるが、判決が刑法第39条に定める条項を適用し『責任能力なし』
と認定された加害者(=法律用語では対象者と呼ぶ)だけが収容される施設を著者が訪れ、関係する専門家や弁護士から聞き取った記録から本書のテーマが浮かび上がる。
この施設は「医療観察法」(2003年成立,2005年施行)により全国に設けられた医療観察法病棟と呼び、従来からある精神病院とは違う。
・ 「医療観察法」成立は、大阪府池田市にある大阪教育大付属池田小学校で起きた児童殺傷事件(2001年)が直接の引きがねになった。
・ 刑法第39条に定める条項とは<1.心神喪失者の行為は罰しない 2.心神耗弱(こうじゃく)者の行為は。その刑を減刑する>
・「責任能力」とは<自分の行為の善悪に関して適切に判断する能力>で、善悪を判断する「弁識能力」と、その判断に従って自分の行動をコントロールする「制御能力」。
前者を欠いた状態が心神喪失、後者は心神耗弱(こうじゃく)と分類され、前者は医療観察法病棟に収容。後者も同じだが、症状により受刑者の加療に当たる医療設備と
人員を有する刑務所に収容される場合もある。
・ 「責任能力」の最終的な認定は、精神科医ではなく裁判官が行う。精神鑑定は飽くまでも参考にされるだけと位置付けられており、上記(池田小事件)や相模原市の
(やまゆり園事件)でも加害者は責任能力アリと裁定され、実刑が執行されている。
・ 心神喪失と鑑定された対象者の約7割が『統合失調症』と診断されるが、其の多くは妄想・幻想・脅迫観念に自分が捉われている事に気づかない、或いは気づいていても
暴力的衝動から脱しきれない為、「弁識能力」「制御能力」を共に失い、加害行為を犯してしまう。『統合失調症』は嘗て『精神分裂症』と称していたが、現在は
『精神分裂症』と呼ばない。
◎ 「責任能力」及び刑法第39条の考え方の起源:精神障害者の犯罪をどう裁くか?(英国)1843年マクノートン・ルールに発し、日本では大審院判決(1931年)採用。
『責任能力の考え方の基本に、法は不可能なことを人間に要求しないという西洋近代法の大前提があります』 <池原毅和(きよかず)弁護士> 60頁
・ 「医療観察法」成立(2003年)から2020年12月までの累計収容者数:4,373人。
基礎的な事項はカヴァーしたと思うので、次は里中氏が抱いた論点の中から重要と思った事柄について述べてゆきたい。 < つづく >
精神に異常をきたしたと認定された人を治療する事が「更生」になるのか? それが被害者にとり、少しでも救いになるのか?
・・・・私が長く抱く此の疑問に応えてくれるなら、と期待したゆえの読書である。
本書は、精神に異常をきたし刑事犯罪を犯した障碍者を取り巻く現状と問題意識を提起するルポルタージュ。まず、本書の概説と書評を述べる前に、基本的な用語と判断基準
を確認しておきたい。それは私自身が読み進みながら、法律用語と概念理解の難しさを強く感じたためである。 キーワードには太字または下線を施した。
・「触法精神障害者」は<精神に異常をきたし、刑法に抵触する「他害」を行った者>である。「他害」とは、人に怪我を負わせる・死に至らしめる行為。
・ 多くの暴力傷害事件や殺人事件で検挙される者の殆どは「触法精神障害者」と認定されないので、精神病院ではなく刑務所に送られる。
・ 刑務所の中には”軽度の精神障害あり”と認められた受刑者の加療に当たる医療設備と人員を有する場所もあるが、判決が刑法第39条に定める条項を適用し『責任能力なし』
と認定された加害者(=法律用語では対象者と呼ぶ)だけが収容される施設を著者が訪れ、関係する専門家や弁護士から聞き取った記録から本書のテーマが浮かび上がる。
この施設は「医療観察法」(2003年成立,2005年施行)により全国に設けられた医療観察法病棟と呼び、従来からある精神病院とは違う。
・ 「医療観察法」成立は、大阪府池田市にある大阪教育大付属池田小学校で起きた児童殺傷事件(2001年)が直接の引きがねになった。
・ 刑法第39条に定める条項とは<1.心神喪失者の行為は罰しない 2.心神耗弱(こうじゃく)者の行為は。その刑を減刑する>
・「責任能力」とは<自分の行為の善悪に関して適切に判断する能力>で、善悪を判断する「弁識能力」と、その判断に従って自分の行動をコントロールする「制御能力」。
前者を欠いた状態が心神喪失、後者は心神耗弱(こうじゃく)と分類され、前者は医療観察法病棟に収容。後者も同じだが、症状により受刑者の加療に当たる医療設備と
人員を有する刑務所に収容される場合もある。
・ 「責任能力」の最終的な認定は、精神科医ではなく裁判官が行う。精神鑑定は飽くまでも参考にされるだけと位置付けられており、上記(池田小事件)や相模原市の
(やまゆり園事件)でも加害者は責任能力アリと裁定され、実刑が執行されている。
・ 心神喪失と鑑定された対象者の約7割が『統合失調症』と診断されるが、其の多くは妄想・幻想・脅迫観念に自分が捉われている事に気づかない、或いは気づいていても
暴力的衝動から脱しきれない為、「弁識能力」「制御能力」を共に失い、加害行為を犯してしまう。『統合失調症』は嘗て『精神分裂症』と称していたが、現在は
『精神分裂症』と呼ばない。
◎ 「責任能力」及び刑法第39条の考え方の起源:精神障害者の犯罪をどう裁くか?(英国)1843年マクノートン・ルールに発し、日本では大審院判決(1931年)採用。
『責任能力の考え方の基本に、法は不可能なことを人間に要求しないという西洋近代法の大前提があります』 <池原毅和(きよかず)弁護士> 60頁
・ 「医療観察法」成立(2003年)から2020年12月までの累計収容者数:4,373人。
基礎的な事項はカヴァーしたと思うので、次は里中氏が抱いた論点の中から重要と思った事柄について述べてゆきたい。 < つづく >
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