静 夜 思

挙頭望西峰 傾杯忘憂酒

【書評156-1】     パーネ・アモーレ   ~ イ タ リ ア 語 通 訳 奮 闘 記 ~    田丸 公美子 著     文藝春秋     2001年7月 刊

2022-06-03 20:25:00 | 書評
 このところ(故)米原万理さんの著作について書評を続けて書いてきたが、米原さんの随筆に時折り登場する田丸さんの著作はどうか?と調べたら何と40作にのぼるというので驚いた。
其の中の一つ「シモネッタのデカメロン」を昨年読み、余りの面白さと含蓄に感心し、お節介にも、知り合いの若き友人に送るほど気に入ったくらいだ。
雑誌『経済界』での連載をベースに編集された本書は単行本としての処女作。第2作目が「シモネッタのデカメロン」というから、私は知らずに初期の作品二つを味わったわけだ。

 因みに「シモネッタ」は、てっきリ日本語の<シモネタ>から来ていると私は早合点していたが、〈シモネッタ〉とは『ヴィーナスの誕生』のモデルとされる絶世の美女、シモネッタ・ヴェスプッ
にあやかってイタリアではよく付けられる女性の名前なのだそうだ。『もともとはロシア語通訳の徳永晴美さんが愛弟子の米原万里さんに付けた呼称だったが、下ネタ好きな田丸さんのほうがこのニックネームに相応しいと判断した米原さんは、師匠からもらった名前を友人に譲渡』と某ブログにある。 確かに二人の著作傾向を眺めると、此の話もまんざら与太噺ではないように思えてくる。
 ニックネームを献呈した米原さんの直観どおり、田丸さんの世界は米原さん程の悲哀に覆われず、哲学的でもない。外国語の通訳と言う入り口から職業人生を同じ頃に始めたが、明るい性格は対照的。本書を読み、逆に米原さんの世界がコントラスト鮮やかに浮かんできた。それは生い立ちに加え、ロシア(vs)イタリアの言語並びに文化面の違いとも結びついているのかしれず、実に奥深い。

◎【解題】パーネ(パン)アモーレ(愛)ファンタジア(夢)⇔ リーゾ(コメ)ラヴォ―ロ(仕事)フィロソフィア(哲学)
  ”パンと愛と夢があれば生きていけるイタリア人xx米と仕事と哲学で生きている日本人”・・・・これは田丸氏が通訳体験から編み出したフレーズであり、本書のタイトルにしている。
   この対比は、幼少期を外国で暮らし、日本が憧憬や羨望・負い目の対象であった米原さんからは出ない発想で日本人を捉えたものである。米原さん・田丸さんの著作をどちらも読んだ方なら、
 私の云わんとしている核心を想像いただけると思う。

◆ 本書は次の4部で構成されている。
   (1)イタリア語通訳奮闘記・・・通訳体験爆笑譚  (2)私が出会った人たち・・・通訳したイタリア著名人の素顔  (3)シモネッタ以前・・・プロ通訳デヴュー迄の自伝  
   (4)通訳ア・ラ・カルト・・・通訳業全般の心得と教訓

どの章も抱腹絶倒の中にピリリと光る言葉が散りばめられているが、紙幅のかねあいから(3)を先に取り上げ、(1)(4)に潜む通訳業のエッセンスを中心に評してみたい。 < つづく >
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≪ 日本共産党創立100年 ≫  全野党は 健全なデモクラシーと反国家主義的政党政治確立の為にも <民主的社会主義>を目指せ!

2022-06-03 08:39:14 | 時評
◇◆ 毎日【論点】日本共産党創立100年 
・日本共産党が7月で創立100年を迎える。同党の100年を総括する此の特集は、その前半に、元は共産党員であった有田芳生・立憲民主党参院議員の寄稿を載せている。
 次に引用する有田氏の指摘に私は全面的に賛同でき、現在の同党が抱える問題が集約されていると私には思える。・・残念ながらこれも有料記事ゆえ、URL引用ができないので悪しからず。

   <なし崩しで過去をなかったことにするのは、いかがなものか。志位和夫委員長は、野党共闘を従来の「我が道を行く」路線の「大転換」だという。だが、60~70年代も旧社会党との統一戦線論争あった。当時をどう総括するのか>
   <選挙協力は今後も重要だが、昨年の衆院選は「政権交代」の声が大きすぎた。与野党伯仲が現実的な目標だったのに、明日にも共産党が政権に参加しそうな幻想を振りまいてしまった>
   <党員は1987年の48万人から27万人、衆院議員は79年の39人から10人、参院議員も98年の23人から13人に減った。党員は高齢化しているとも聞く。私が入党した70年には、若々しい党だった。私が在学した立命館大などには、
   (共産党系青年組織)日本民主青年同盟の同盟員が1000人以上いた。機関紙「赤旗」には長大な論文がしばしば載り、政治経済から文学まで世界を分析し尽くす知的興奮に満ちていた。>
   <この約10年、脱原発運動や反安保法制運動など、国会前に万単位の人が参加する集会があった。有利な状況が繰り返されたのに、若い党員が昔のように増えたとは聞かない。理論面でも、近年の「赤旗」は、若者の知的好奇心を
    かきたてそうな論文がなかなか無い。>


★此の総括を受けて「現実直視し路線転換を」と題する中北浩爾・一橋大教授へのインタヴューを掲載する。長くなるが、毎日新聞の購読者でない方にも是非お読みいただきたい。【聞き手・木下訓明】

 100年間も続いた理由としては、献身的な党員の存在などに加え、長く最高指導者を務めた宮本顕治氏が主導した政治路線が大きい。日本共産党は1960年代にソ連・中国などに対する自主独立路線を
確立するとともに、社会主義革命を当面の目標としない「民族民主革命論」を採用していた。そのため、社会主義国家と目されていたソ連崩壊のダメージを比較的受けずにすんだ。さらに、ソ連が
崩壊した91年以降、宮本路線を基本的に守りながらも、次第に「非武装中立」や「護憲」を掲げるようになった。かつての社会党の政策位置を占めることで、その支持者を取り込むことに成功した。

 その一方で、日本共産党は今日まで100年間、目指してきた「革命」を起こせなかった。ロシアや中国などでの「革命」は、自由や人権の抑圧をはじめ巨大な惨禍を生んできた。日本共産党は
「先進資本主義国の我々は違う」と考えているようだ。しかし、日本を含めて先進国では、共産主義に基づく「革命」は起きていない。その気配すらない。この事実を直視する必要がある。

 それだけでなく、日本共産党は現在、二つの深刻な問題に直面している。一つは、党員の減少や高齢化といった党勢の衰退だ。「しんぶん赤旗」の発行部数が減り、党財政を直撃している。
その大きな原因は、ソ連崩壊後、共産主義の魅力が乏しくなり、若者などをひきつけられなくなったことにある。
 もう一つの問題は、2015年の安保法制反対運動に始まる野党共闘の行き詰まりだ。昨年の衆院選では立憲民主党と「限定的な閣外からの協力」で合意した。共産党は閣外協力の合意と喧伝
(けんでん)したが、立憲民主党にとっては共産党と閣外協力しないという合意であり、同床異夢が露呈した。しかも、「立憲共産党」という攻撃を受けて、両党とも議席を減らし、野党共闘の機運が
後退した。今夏の参院選も厳しい見通しだ。
 
 志位和夫委員長が盛んに唱える自衛隊活用論は、論理的に問題を抱えている。確かに、野党連合政権では、自衛隊違憲論をとれない。だから、「党としては違憲論だが、政府は合憲論をとる」と
説明するが、それでは立憲主義に反してしまう。結局、現状のままでは、野党連合政権の樹立は難しいということだ。以上の二つの問題を突破するためにも、共産主義からの抜本的な路線転換が
避けられないのではないか。 ← 野党連合政権樹立に向けて、もうひとつの論理矛盾は『天皇制』への理論的整理だ。立憲君主制と共産主義は相いれない(小李白)
 
 路線転換には、二つの選択肢が存在する。90年代半ばから00年代に生まれたZ世代は、格差拡大や気候変動など社会的な関心が強い。海外では、ジェネレーション・レフト(左翼世代)という言葉も
生まれている。そうした中で台頭しているのが、民主的社会主義と呼ばれる急進左派の潮流である。共産主義とは違い、多様な社会主義を許容し、エコロジーやジェンダー、草の根民主主義を重視する米民主党のサンダース氏、フランス大統領選で3位に食い込んだメランション氏らが例として挙げられる。日本共産党が急進左派の枠内で民主的社会主義に移行し、反エリート主義の左派ポピュリズム戦略をとれば、若者を強くひきつけられるはずだ。組織的にはトップダウンで分派を許さない「民主集中制」を改め、党員による党首の直接選挙を行うことになろう

 他方、野党連合政権の樹立を本気で目指すのであれば、中道左派の社会民主主義に移行しなければならない。これは、かつてイタリア共産党がたどった道だ。日米安全保障条約や自衛隊を肯定すると
ともに、大企業・財界に対する敵視を改め、一定のパートナーシップを構築する。そうすれば、立憲民主党や連合との間の障害がなくなり、野党連合政権の樹立は実現に大きく近づく。

 創立100年に際して重要なのは、現実を直視することだ。そこからしか、希望は生まれない。
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有田議員と同じ或は少し上の世代にとり、同議員の指摘と慨嘆は同時代感覚を伴いよ~く理解できるし、中北教授の提言も理に適っている。鍵は、志位委員長が聴く耳を持っているか? に尽きる・・。
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