このところ(故)米原万理さんの著作について書評を続けて書いてきたが、米原さんの随筆に時折り登場する田丸さんの著作はどうか?と調べたら何と40作にのぼるというので驚いた。
其の中の一つ「シモネッタのデカメロン」を昨年読み、余りの面白さと含蓄に感心し、お節介にも、知り合いの若き友人に送るほど気に入ったくらいだ。
雑誌『経済界』での連載をベースに編集された本書は単行本としての処女作。第2作目が「シモネッタのデカメロン」というから、私は知らずに初期の作品二つを味わったわけだ。
因みに「シモネッタ」は、てっきリ日本語の<シモネタ>から来ていると私は早合点していたが、〈シモネッタ〉とは『ヴィーナスの誕生』のモデルとされる絶世の美女、シモネッタ・ヴェスプッチ
にあやかってイタリアではよく付けられる女性の名前なのだそうだ。『もともとはロシア語通訳の徳永晴美さんが愛弟子の米原万里さんに付けた呼称だったが、下ネタ好きな田丸さんのほうがこのニックネームに相応しいと判断した米原さんは、師匠からもらった名前を友人に譲渡』と某ブログにある。 確かに二人の著作傾向を眺めると、此の話もまんざら与太噺ではないように思えてくる。
ニックネームを献呈した米原さんの直観どおり、田丸さんの世界は米原さん程の悲哀に覆われず、哲学的でもない。外国語の通訳と言う入り口から職業人生を同じ頃に始めたが、明るい性格は対照的。本書を読み、逆に米原さんの世界がコントラスト鮮やかに浮かんできた。それは生い立ちに加え、ロシア(vs)イタリアの言語並びに文化面の違いとも結びついているのかしれず、実に奥深い。
◎【解題】パーネ(パン)アモーレ(愛)ファンタジア(夢)⇔ リーゾ(コメ)ラヴォ―ロ(仕事)フィロソフィア(哲学)
”パンと愛と夢があれば生きていけるイタリア人xx米と仕事と哲学で生きている日本人”・・・・これは田丸氏が通訳体験から編み出したフレーズであり、本書のタイトルにしている。
この対比は、幼少期を外国で暮らし、日本が憧憬や羨望・負い目の対象であった米原さんからは出ない発想で日本人を捉えたものである。米原さん・田丸さんの著作をどちらも読んだ方なら、
私の云わんとしている核心を想像いただけると思う。
◆ 本書は次の4部で構成されている。
(1)イタリア語通訳奮闘記・・・通訳体験爆笑譚 (2)私が出会った人たち・・・通訳したイタリア著名人の素顔 (3)シモネッタ以前・・・プロ通訳デヴュー迄の自伝
(4)通訳ア・ラ・カルト・・・通訳業全般の心得と教訓
どの章も抱腹絶倒の中にピリリと光る言葉が散りばめられているが、紙幅のかねあいから(3)を先に取り上げ、(1)(4)に潜む通訳業のエッセンスを中心に評してみたい。 < つづく >
其の中の一つ「シモネッタのデカメロン」を昨年読み、余りの面白さと含蓄に感心し、お節介にも、知り合いの若き友人に送るほど気に入ったくらいだ。
雑誌『経済界』での連載をベースに編集された本書は単行本としての処女作。第2作目が「シモネッタのデカメロン」というから、私は知らずに初期の作品二つを味わったわけだ。
因みに「シモネッタ」は、てっきリ日本語の<シモネタ>から来ていると私は早合点していたが、〈シモネッタ〉とは『ヴィーナスの誕生』のモデルとされる絶世の美女、シモネッタ・ヴェスプッチ
にあやかってイタリアではよく付けられる女性の名前なのだそうだ。『もともとはロシア語通訳の徳永晴美さんが愛弟子の米原万里さんに付けた呼称だったが、下ネタ好きな田丸さんのほうがこのニックネームに相応しいと判断した米原さんは、師匠からもらった名前を友人に譲渡』と某ブログにある。 確かに二人の著作傾向を眺めると、此の話もまんざら与太噺ではないように思えてくる。
ニックネームを献呈した米原さんの直観どおり、田丸さんの世界は米原さん程の悲哀に覆われず、哲学的でもない。外国語の通訳と言う入り口から職業人生を同じ頃に始めたが、明るい性格は対照的。本書を読み、逆に米原さんの世界がコントラスト鮮やかに浮かんできた。それは生い立ちに加え、ロシア(vs)イタリアの言語並びに文化面の違いとも結びついているのかしれず、実に奥深い。
◎【解題】パーネ(パン)アモーレ(愛)ファンタジア(夢)⇔ リーゾ(コメ)ラヴォ―ロ(仕事)フィロソフィア(哲学)
”パンと愛と夢があれば生きていけるイタリア人xx米と仕事と哲学で生きている日本人”・・・・これは田丸氏が通訳体験から編み出したフレーズであり、本書のタイトルにしている。
この対比は、幼少期を外国で暮らし、日本が憧憬や羨望・負い目の対象であった米原さんからは出ない発想で日本人を捉えたものである。米原さん・田丸さんの著作をどちらも読んだ方なら、
私の云わんとしている核心を想像いただけると思う。
◆ 本書は次の4部で構成されている。
(1)イタリア語通訳奮闘記・・・通訳体験爆笑譚 (2)私が出会った人たち・・・通訳したイタリア著名人の素顔 (3)シモネッタ以前・・・プロ通訳デヴュー迄の自伝
(4)通訳ア・ラ・カルト・・・通訳業全般の心得と教訓
どの章も抱腹絶倒の中にピリリと光る言葉が散りばめられているが、紙幅のかねあいから(3)を先に取り上げ、(1)(4)に潜む通訳業のエッセンスを中心に評してみたい。 < つづく >