まりっぺのお気楽読書

読書感想文と家系図のブログ。
ゆる~い気持ちでお読み下さい。

『バレンシア物語』じんわり哀しい一冊

2010-09-13 00:25:13 | その他の国の作家
CUENTOS VALENCIANOS 
1896年 ブラスコ・イバニェス

ドラマや映画、小説は色々な疑似体験をさせてくれますが
やはり “ 笑える ” より “ 泣ける ” という言葉に弱いですよね。

でも最近はどうも
若い恋人たち → どちらか不治の病 → 愛があるから大丈夫 → 思い出をありがとう
な傾向に偏っている気がするんですよねぇ…
わたくし、そういうお話は韓流で腹一杯です。

『葦と泥』に収められている『バレンシア物語』は、3篇の短篇から成っています。
美しい恋物語ではありませんし、余命何年…という伏線もありませんがグっときます。

『ディモーニ』
酒と放浪を愛する人気者の笛吹きディモーニは、突然不器量で飲んだくれのボラーチャと
激しい恋に落ちてしまいました。
ディモーニは男ぶりが上がっていきますが、逆にボラーチャはみすぼらしくなっていきます。

ふたりの恋は悲しい結末を迎えることになります。
だらだらと「あなたと生きれて幸せだった」みたいなことが書かれていないにも関わらず
胸にせまるラストです。

『婚礼の夜』
貧しい家の子でありながら学校へ通い聖職者になったビセンテが故郷の教会に赴任します。
ビセンテは村の誇りとなり、人々に讃えられて幸福でした。
そして、祝宴の席で、幼なじみのトネータと農民チーモの婚礼を引き受けます。

せっかく掴んだ栄光の座が、一瞬にしてくだらないものに思えた時、
これまでの努力と年月が全て無駄だったと気付いた時、ものすごい虚しさでしょうね。
若くしてそのことを悟ってしまった主人公の哀れさが身に凍みます…頑張ってほしい。

『馬糞拾い』
働ける年になったので、母に言われてバレンシアに馬糞拾いに行かされたネレットは
途方に暮れて、母が乳母をしていた少女マリエータを訪ねて行きます。
マリエータに歓迎されて嬉しくなったネレットは、毎日彼女を訪ねるようになりました。

でも、ある日を境に少女の態度がコロッと変わってしまうのね。
ふたりの間を阻むのは “ 身分の違い ” … たいした違いじゃないんだけどさ。
そしてやはり身分の高い子の方がそういうことに敏感なんですね。

実話ならまだしも、不治の病を持ってくれば泣ける話しになる、っていう考えは
いいかげんやめてほしい!

こんなにも素朴で身近なテーマで、じゅうぶん人を感動させることができます。

長篇『葦と泥』とはうってかわった簡潔な文章で
すごく読みやすくストレートに訴えかけられました。

『バレンシア物語』には他にも何篇かあるのでしょうか?
あったらぜひ、他の短篇も読んでみたいと思います。
コメント
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