河童メソッド。極度の美化は滅亡をまねく。心にばい菌を。

PC版に一覧等リンクあり。
OCNから2014/12引越。タイトルや本文が途中で切れているものがあります。

2655- ベスト・ワースト2018

2018-12-27 16:57:35 | 音楽

今年2018年は174回通いました。一覧は下記リンク。秋から翌年の夏までのシーズンで分けていますのでリンクが跨いでます。

日付降順一覧です。

2017-2018シーズン(一覧その1)

2017-2018シーズン(一覧その2)

2018-2019シーズン(一覧その1途中)


昨年2017年は213回でしたのでだいぶ減りました。過去4年は以下です。

2017
2016
2015
2014

普段は他の演奏などを引き合いに出して感想を書くことは極力していません。理由は不正確の助長と拡散に疑問、なんですがこれについては別途書くことにして、今日は年一回の余興、比較しまくりです。

今年もいい演奏会がたくさんありました。オペラや来日団体の公演への通いは減りました。双方、キリが無いというのと、ここ何年か国内物件の演目のヴァリエーションが増えてそれを観聴きする楽しみのほうのウエイトが高くなった。もちろん、出演する団体個人にも興味ありますが、これは国内物件聴くの増えたら知らなかった演奏家の事も自然に増えてきてわかるようになってきた。これまでとは別の側面で会場に足を運ぶことが多くなりつつあります。
バックステージ・ストーリーには興味ありませんのであしからず。

【オペラ・オケ伴付き歌 ベスト11】
1.イオランタ、プレトニョフ、ロシア・ナショナル管(6/12)
2.イワン雷帝、アレクセーエフ、サンクト・ペテルブルク・フィル(11/13)
3.ボーイト、メフィストーフェレ、バッティ、東フィル(11/16)
4.フィデリオ、ミョンフン、東フィル(5/85/10)
5.ローエングリン、シルマー、N響(4/54/8)
6.プッチーニ 3部作、二期会、ド・ビリー、東フィル(9/7)
7.フィデリオ、新国立、カタリーナ演出、飯守、東響(5/20)
8.ローエングリン、深作プロダクション、二期会、メルクル、都響(2/24)
9.ナヴァラの娘、パリアッチ、藤原歌劇、柴田真郁、東フィル(1/28)
10.エルガー、ゲロンティアスの夢、ノット、東響(7/15)
11.ヴォルフ=フェッラーリ、イル・カンピエロ、柴田真郁、新国立A.E.(3/10)

(番外)
バッハ、マニフィカト、ヘンゲルブロック、バルタザール・ノイマン、N響(12/7)


【管弦楽ベスト17】
1.ブルックナー7番、小林研一郎、日フィル(1/261/27)
2.チャイコフスキー、マンフレッド交響曲、小林研一郎、読響(7/5)
3.ストラヴィンスキー、春の祭典、ズヴェーデン、ニューヨーク・フィル(3/13)
4.マーラー5番、ズヴェーデン、ニューヨーク・フィル(3/14)
5.くるみ割り人形全曲、フェドセーエフ、N響(12/12)
6.アイヴス2番、バーバー、コープランド、鈴木優人、広上淳一、N響(11/2411/25)
7.ブルックナー9番+テデウム、上岡、新日フィル(10/2710/28)
8.マーラー10番アダージョ、ブルックナー9番、ノット、東響(4/15)
9.アメリカ物4曲、山下洋輔、ファレッタ、新日フィル(5/18)
10.シベリウス7番、リンドベルイ、他、リントゥ、新日フィル(10/20)
11.ブルックナー7番、紀尾井管(12/5)
12.ベートーヴェン1番3番、メスト、クリーヴランド管(6/2)
13.ブリテン、PG4+パッサカリア、オラモ、BBC響(3/8)
14.ストラヴィンスキー、ペルセフォーネ、ラザレフ、日フィル(5/19)
15.シベリウス7番、プレトニョフ、東フィル(2/23、2/25、2/26)
16.エロイカ、シュテンツ、新日フィル(2/8)
17.クララ・シューマン、行進曲、シューマン、ツヴィッカウ、秋山、東響(6/23)

(番外)
展覧会の絵、他、パヴェル・コーガン、新日フィル(4/27)


【協奏曲ベスト11】
1.グルダ、コンチェルト・フォー・マイセルフ、小曽根真、バッティ、東フィル(3/73/9)
2.バルトーク、VnC2、豊嶋泰嗣、上岡敏之、新日フィル(3/30)
3.ブラームスPC1、ユジャ・ワン、ズヴェーデン、ニューヨーク・フィル(3/13)
4.チャイコン1、プロコン3、ラフコン2、ガヴリリュク、ウリューピン、東響(9/12)
5.シューマンPC、阪田知樹、ラザレフ、日フィル(5/12)
6.皇帝、ヴラダー、高関健、東京シティ・フィル(7/29)
7.ブラームスPC1、アヴデーエワ、フルシャ、バンベルク響(6/25)
8.ブラームスPC1、アムラン、秋山、東響(6/23)
9.ベトコン1、ヴィルサラーゼ、小林研一郎、読響(7/5)
10.シュトラウス、ホルン協2番、バボラーク、ヤルヴィ、N響(9/27)
11.ラフマニノフPC4、ベレゾフスキー、リス、ウラル・フィル(5/5)


【リサイタル・室内楽ベスト5】
1.スティーヴン・ハフ、リサイタル(9/25)
2.エル=バシャ、リサイタル(12/1312/1412/15)
3.シューベルト、ピアノソナタ、レオンスカヤ(4/6、4/12)
4.ヘンデル、スカルラッティ、ケフェレック(5/5)
5.女と男の愛の生涯、中嶋彰子、小菅優(8/2)


【いわゆる現代もの系・発掘系 ベスト12】
1.細川俊夫/サシャ・ヴァルツ、松風、コールマン、東響(2/172/18)
2.矢代秋雄、チェロ協、宮田大、カエターニ、都響(6/11)
3.三善晃PC、萩原麻未、ヤマカズ、日フィル(9/8)
4.バーンスタイン、不安の時代、河村、ヴォルコフ、読響(5/30)
5.ヘンツェ7番、シュテンツ、新日フィル(2/2、2/3)
6.タン・ドゥン、オーガニック三部作、新日フィル(3/17)
7.プリ・スロン・プリン、アンドレ=ヴァラド、東響(9/1)
8.野平一郎、亡命 (8/23)
9.ミュージック・トゥモロウ2018、アズベリー、N響(6/26)
10.オーケストラ・プロジェクト2018、大井剛史、東響(9/5)
11.コリリアーノ、ボブ・ディラン、ミスター・タンブリンマン、下野、都響(5/22)
12.芥川、團、黛、千住、大友直人、群響(11/26)


【特別賞】
上岡敏之、ピアノリサイタル(3/19)
ラフマニノフPC5、反田恭平、藤岡幸夫、日フィル(8/9)


【ワースト1】
シューマン1番2番、ティーレマン、ドレスデン(10/31)

以上


2654- 第九、マレク・ヤノフスキ、N響、東京オペラシンガーズ、2018.12.23

2018-12-23 22:19:36 | コンサート

2018年12月23日(日) 3pm NHKホール

ベートーヴェン 交響曲第9番ニ短調op.125  15-14-13-22

ソプラノ、藤谷佳奈枝
メッゾ、加納悦子
テノール、ロバート・ディーン・スミス
バリトン、アルベルト・ドーメン
合唱、東京オペラシンガーズ

マレク・ヤノフスキ 指揮 NHK交響楽団


年末恒例第九祭り、今日聴くのは三つ目。

2652- 第九、マッシモ・ザネッティ、読響、新国立劇場合唱団、2018.12.20

2653- 第九、クリスティアン・バスケス、東フィル、2018.12.22

聴くほうとしては年末イヴェント的な聴き方は全く無くて、いつも通りのコンサート。色々と指揮者を見れるので楽しみではある。

N響は週月毎に猫の目のように変わる指揮者に合わせるのが大変だと思うが、そういう話は他のオケでも同じなので条件比較するような話では無いのかもしれないが、毎回客演指揮者の指示のもとハイレヴェルの演奏をテンション高く続けていくあたりは、やっぱり、抜きんでたものがある。

三つ目の第九、筋肉質でいてオーソドックスなスタイルを感じさせるN響の演奏は指揮者のことをよく吸収した表現。良く噛み砕いて消化したものと思われる。
初楽章の伴奏風な運命動機はかなりセカセカしている。精一杯の吸収のようだ。駆り立てるヤノフスキ、音の出の遅さを嫌う棒についていくには少し余裕がない。先を見据えていない性急さをプレイヤーに感じる。めいっぱいなのか。理解と表現の乖離を感じさせるもので、まあ、理解の消化はあるということ。
困難な技が続くスケルツォトリオ、前打ちのこちらのほうがずっと良好。ドンドン進んで行く。
本人が肝と言っている緩徐楽章、速めに進む。薄口というか弦のラインや対旋律がくっきりと浮かび、伴奏のウィンド+ホルンのスタッカートが強調されていて、はずむような進行だ。スタイルがスタイルだけにここだけスロウという事も無くて当然の帰結。味わいに時間をかけたい時もある。

終楽章もテンポ緩めず進む。スミスとドーメンが並んで座っているのを見ることは他ではないと思うので、それだけでも僥倖だ。
ドーメンの余裕の歌い口はオペラのものだし、スミスも同じ。両者朝飯前なんだろうがそれでも聴くほうはありがたい。藤谷、加納あわせ4ソリストは秀逸でしたね。
そして、合唱が完全にコントロールされている。まるで器楽楽器のような折り目を入れた克明なフレーム、縁どりが明確な合唱は圧巻。指揮者ヤノフスキのしたいことがここによく表れていました。

ヤノフスキの厳格さが滲み出た演奏。なるほどとあらためて納得。第九堪能。


帰り際、スタジオパークのほうを回り道して帰ろうとしたら、オーボエの茂木さんがおりまして、あちらにとっては赤の他人なんだろうけど、こちらとしては昔から聴いている。来年の勇退ねぎらい、それから、自分は丸山さんの頃からN響聴いてます、などと立ち話をして、なにはともあれ、長い間ご苦労様でした、と言えて良かった。
はたと、若いときから、N響のお世話になってばかりいたなと一人感慨に更ける。
おわり




2653- 第九、クリスティアン・バスケス、東フィル、2018.12.22

2018-12-22 23:50:03 | コンサート

2653- 第九、クリスティアン・バスケス、東フィル、2018.12.22

2018年12月22日(土) 7pm サントリー

フアン・バウティスタ・プラサ フーガ・クリオージャ  5

Int

ベートーヴェン 交響曲第9番ニ短調op.125  16-12-14-24

ソプラノ、吉田珠代
メッゾ、中島郁子
テノール、清水徹太郎
バリトン、上江隼人
合唱、東京フィル特別合唱団、杉並児童合唱団

クリスティアン・バスケス 指揮 東京フィルハーモニー交響楽団


しばらくぶりのバスケス。ベートーヴェンをどのように振るのだろう。年末恒例で、時期的に、ベートーヴェンを振るというよりはむしろ祝祭的な側面が大きく、そういった聴き方になってしまいますね。

バスケスの第九、ちょっと重かったかな。音を押しつけるような具合で、弦の弾きもかなり強いし、ウィンドやブラスも同様、太く長くといった表現。
ドラマ性のある作品ながら、十八番の幻想のようなドラマとは一味違う第九。ドライヴィングも今ひとつ決まらない。

初楽章が開き切らない。出が原始霧ではなくて結構な強さで淡々と始まりミステリアスなところがない。それはそれでいいのだが、一気に作りに行く頂点が不発気味。どうも、第1楽章全体が序奏のようになってしまった感がある。

次の2楽章は別物のように軽快になりスッキリ。きびきびとしていて活力あり、スピード感も良好。スケルツォの3拍子系は独特なアクセント。トリオは猛速。

ここで、ソリストと合唱が登場。それまで空っぽだった台が埋まる。このようなスタイルは見ることの無いもので、合唱、ソロの同時入場で、ざわざわと一服感があってこれはこれでいいものですね。

第3楽章は元に戻ってしまったようなところがありました。ホルンソロは3番さん。
迫力ある1拍子振りの開始で始まった終楽章は、祝祭的な雰囲気が醸しだされたと思います。コーラスは児童合唱を加えたものでしたが、なにしろ全体が混成部隊で、色々なピッチが同時に来るところもあり最良とは言えなかった。演奏条件が良ければもっといい演奏となっていたはず。明白です。
ちょっと残念なところもありましたが、知らなかった面も見えてきて、もっと頻繁に来て欲しいですね。

ところで、一昨日聴いたザネッティ読響とティンパニを比べてみました。
2652- 第九、マッシモ・ザネッティ、読響、新国立劇場合唱団、2018.12.20

バスケスのティンパニはザネッティの十分の一ぐらいの強さ。といっても、たぶんこれが普通。ザネッティのほうが異常。異常な強さだった。これが第1楽章。
次の第2楽章は、バスケスのほうは、締まりっ気のあるバチに変えて、はじけるような鳴り。これが普通。ザネッティのほうは、第1楽章の締まりサウンドからバチ取り替えて、ガラリと音色変化、それがトローンととろみがついたような柔らかサウンドでバスケスと真逆。まあ、全体的に、ザネッティは確信犯的な演奏でしたね。くせ者ザネッティ。
それと、ザネッティ読響は3楽章のホルンソロを1番さんに吹かせてましたね。

最初に置かれた5分の作品、プラサのフーガ・クリオージャ。弦楽合奏、3拍子系の曲で、細かく刻む進行が美しい。バッハをもっと明るくしたような感じ、清涼感漂う佳作でした。こちらはいい演奏でしたね。

バスケスさん、次回もよろしく。
おわり


2652- 第九、マッシモ・ザネッティ、読響、新国立劇場合唱団、2018.12.20

2018-12-20 23:54:51 | コンサート

2652- 第九、マッシモ・ザネッティ、読響、新国立劇場合唱団、2018.12.20

2018年12月20日(木) 7pm サントリー

ベートーヴェン 交響曲第9番ニ短調op.125 14-14-14-21

ソプラノ、アガ・ミコライ
メッゾ、清水華澄
テノール、トム・ランドル
バス、妻屋秀和
合唱、新国立劇場合唱団

マッシモ・ザネッティ 指揮 読売日本交響楽団


年末恒例第九行事。ここにもいい指揮者が毎年登場する。だから何回かは足を運ぶ。結構な楽しみ。
ザネッティはお初です。もはや、やりたいことが明白、なにをどうしたいのかよく見える指揮で、オケもドライヴされることに快感を得ているのではないか。この一体感。

客演コンマスの日下さんが松葉づえで登場。なんでも別の演奏会でステージから落ちてけがをしたらしい。まあ、座ってしまえばこっちのもんなのだろうね。

細めのザネッティは跳ねるような棒使いで身体からエネルギーがみなぎる活力棒。オーケストラは完全に彼にドライヴされている。
横に刀を切るようなスウィング棒で読響の音の出はかなり遅れてザクーンと。それがまた、よくズレている。故意の流れと見た。これの繰り返しですから最後まで。つまり織り込み済みで、彼の視点は流れるフレージングの遠心力の強調に向かっている。長いフレージングでのグワグワ来る様は空中ブランコの雰囲気。短いフレージングでは頭のアタック、アタックよりやや長めでバシーンバシーンと、もはや、作為というか、こうゆう風に振りたいんだ第九を。っていう感じで明白すぎる。終楽章では合唱も同じ息づかい。これだけコントロールされてドライヴ感あると、なにやら、スッキリする。
意識された縦ズレなので、委細構わずという話しでは無くて、それも含めた横なで切り棒で、彼の言いたいことは両方なのだろうと思う。そう考えると、深いものがあり、一度立ち止まって彼のようなスタイルのタクトの事をあらためて考えてみる必要がありますね。

それからティンパニの強弱と音色変化、これも指揮者の意図がありあり、見事な叩きプレイでしたね。メリハリがよく効いていて、ザネッティの縦ズレをものの見事にすくい上げている。それと強弱ニュアンスがびっくりするほど濃い。このパースペクティヴ感。物言うティンパニの歌い口は大胆かつ繊細で素晴らしく雄弁なものでしたね。
第2楽章では撥を取り替えて叩いていました。全く別の音色になっていて二度びっくり。とろみがついた音になっていましたね。
第九はこの後も別オケで聴く予定なので、バチとっかえと音色激変、あらためて確かめてみるか。
楽しくて収穫も沢山、充実の第九でした。
ありがとうございました。
おわり


2651- 悲愴、月光、ワルトシュタイン、熱情、アブデル・ラーマン・エル=バシャ、2018.12.15

2018-12-15 19:10:13 | リサイタル

2018年12月15日(土) 1:30pm ミューザ川崎

オール・ベートーヴェン・プログラム

ピアノ・ソナタ第8番ハ短調op.13 悲愴  8-6-4

ピアノ・ソナタ第14番嬰ハ短調op.27-2 月光  8-2-7

Int

ピアノ・ソナタ第21番ハ長調op.53 ワルトシュタイン  11-5-9

ピアノ・ソナタ第23番ヘ短調op.57 熱情  10-8+8

(encore)
11のバガテルop.119より第3番   2

ピアノ、アブデル・ラーマン・エル=バシャ


昨晩、一昨日とビッグな企画。

2649- バッハ、ショパン、ラフマニノフ、24の調の前奏曲、第一夜、アブデル・ラーマン・エル=バシャ、60歳記念2夜連続ピアノ・リサイタル、72の前奏曲、第一夜、2018.1.13

2650- バッハ、ショパン、ラフマニノフ、24の調の前奏曲、第二夜、アブデル・ラーマン・エル=バシャ、60歳記念2夜連続ピアノ・リサイタル、72の前奏曲、第二夜、2018.1.14


今日はそれとは別の企画もの。ベトソナ有名どころを4曲。
響きファースト。それを壊すものはあってはならない。縦ラインは完全一致。出は一つしかない。だから、きれいな響きになる。
弾き始めのコンセントレーションが最高潮に達したところで、指が鍵盤に落ちる。寸分の狂いもなくどの指も同じタイミング。


沢山入ったほぼ満員のホールに悲愴の第一音が響き渡る。ああ、なんて素晴らしいんだ。下降しながら上昇するライン、諦めの中の光なのか。
ゆったりとすすむ中間楽章。どのような思いで作られたのか、天才のインスピレーション、これを聴いて楽譜屋に飛んで行ったピアノ愛好家はたくさんいたことだろうね。メロディーメーカーとしてのベートーヴェンを強く感じる。
メロディーラインのエンドフレーズはわりと間を作りながら進む。ドラマの事はベートーヴェンに任せているのかもしれない。タッチはむしろ軽い。激烈なベートーヴェンではない。響きが他のものでかき消されてはいけないのである。

ひたすら沈殿していく月光第1楽章。正確なタッチで弾かれる3連符は実に清らかだ。心が落ち着き鎮まっていく、大変にゆっくりした楽章が済んで、インディアンサマーのような光が短く有って終楽章へ。全く激しくないし揺れない。ひたすらタッチへの固執なのだろうか、そこから湧き出るものがあるとピアニストは確信があるのだろう。瑞々しい響きに感服するのみ。

大きな2作品という手応えを感じながら休憩。

後半まずはワルトシュタイン。
音の粒がひとつずつ克明に見える。シンフォニストの面目躍如たる第1楽章は、何度聴いても交響曲のようだ。それがエル=バシャの鮮やかなタッチで濁りが消えて美しく響く。メロディーランが浮き彫りになって、蛇腹が一つずつくっきりと見える演奏。それぞれのラインが別の強弱を作りながら進行。見事なもんですな。
中間楽章は前出し的な雰囲気はサラサラなくて本当にコクのあるもので、なにか夢でも見ているよう。憧憬。
終楽章は川面投げる水切りのタッチ。石が飛んで行った後に残る点々とした水面(みなも)の模様、あのような模様が音になって次々と湧いてくる。なんて美しいんだ。

熱情に文字のような激烈さは無い。ピアニストが求めているものではない。運命動機のあとのフレーズの流れが心地よい。ツボですね。
シンプルな和音がただ連続する中間楽章、もしかすると、こういったところがエル=バシャの真骨頂なのではないかと思わず構えてしまう。深い。あのタッチでこう弾かれるとグイッと、ドンドン惹かれていく。素朴とかシンプルとか、そういった世界ではないのですね本当に。


以上の4曲にアンコールひとつで休憩入れて2時間少しオーバー。作品が一層大きく見えた内容でした。これで、テンペストも聴きたかったなどと言いたくなるから、客のわがままはキリがない。
充実のリサイタル、ありがとうございました。
おわり















2650- バッハ、ショパン、ラフマニノフ、24の調の前奏曲、第二夜、アブデル・ラーマン・エル=バシャ、60歳記念2夜連続ピアノ・リサイタル、72の前奏曲、第二夜、2018.12.14

2018-12-14 23:05:59 | リサイタル

2018年12月14日(金) 7pm 小ホール、武蔵野市民文化会館


(演奏順)
 嬰ヘ長調、変ト長調の3つの前奏曲
1  バッハ:平均律クラヴィア曲集第巻より第13番前奏曲BWV 882  4
2  ショパン:24の前奏曲より第13番Op.28-13  3
3  ラフマニノフ:10の前奏曲より第10番Op.23-10  4

嬰へ短調の3つの前奏曲
4  バッハ:平均律クラヴィア曲集第2巻より第14番前奏曲BWV 883    4
5  ショパン:24の前奏曲より第8番Op.28-8    2
6  ラフマニノフ:10の前奏曲より第1番Op.23-1    3

ト長調の3つの前奏曲
7  バッハ:平均律クラヴィア曲集第2巻より第15番前奏曲BWV 884    2
8  ショパン:24の前奏曲より第3番Op.28-3    2
9  ラフマニノフ:13の前奏曲より第5番Op.32-5    2

ト短調の3つの前奏曲
10 バッハ:平均律クラヴィア曲集第2巻より第16番前奏曲BWV 885    4
11 ショパン:24の前奏曲より第22番Op.28-22    1
12 ラフマニノフ:10の前奏曲より第5番Op.23-5    4

変イ長調の3つの前奏曲
13 バッハ:平均律クラヴィア曲集第1巻より第17番前奏曲BWV 862    2
14ショパン:24の前奏曲より第17番Op.28-17     3
15ラフマニノフ:10の前奏曲より第8番Op.23-8    4

嬰ト短調の3つの前奏曲
16 バッハ:平均律クラヴィア曲集第1巻より第18番前奏曲BWV 863    2
17ショパン:24の前奏曲より第12番Op.28-12    1
18ラフマニノフ:13の前奏曲より第12番Op.32-12    1
Int

イ長調の3つの前奏曲
19 バッハ:平均律クラヴィア曲集第2巻より第19番前奏曲BWV 888    2
20 ショパン:24の前奏曲より第7番Op.28-7    1
21 ラフマニノフ:13の前奏曲より第9番Op.32-9    4

イ短調の3つの前奏曲
22 バッハ:平均律クラヴィア曲集第2巻より第20番前奏曲BWV 889    3
23 ショパン:24の前奏曲より第2番Op.28-2    4
24 ラフマニノフ:13の前奏曲より第8番Op.32-8    1

変ロ長調の3つの前奏曲
25 バッハ:平均律クラヴィア曲集第1巻より第21番前奏曲BWV 866    2
26 ショパン:24の前奏曲より第21番Op.28-21    2
27 ラフマニノフ:10の前奏曲より第2番Op.23-2    4

変ロ短調の3つの前奏曲
28 バッハ:平均律クラヴィア曲集第1巻より第22番前奏曲BWV 867    2
29 ショパン:24の前奏曲より第16番Op.28-16    1
30 ラフマニノフ:13の前奏曲より第2番Op. 32-2    4

ロ長調の3つの前奏曲
31 バッハ:平均律クラヴィア曲集第2巻より第23番前奏曲BWV 892    2
32 ショパン:24の前奏曲より第11番Op.28-11    1
33 ラフマニノフ:13の前奏曲より第11番Op.32-11    2

ロ短調の3つの前奏曲
34 バッハ:平均律クラヴィア曲集第1巻より第24番前奏曲BWV 869    5
35 ショパン:24の前奏曲より第6番Op.28-6    3
36 ラフマニノフ:13の前奏曲より第10番Op.32-10    6

ピアノ、アブデル・ラーマン・エル=バシャ

同企画、前夜に続き二日目。

2649- バッハ、ショパン、ラフマニノフ、24の調の前奏曲、第一夜、アブデル・ラーマン・エル=バシャ、60歳記念2夜連続ピアノ・リサイタル、72の前奏曲、第一夜、2018.1.13

昨晩からの永遠の繋がり。聴くほうの位相の具合がさらに深まり、バッハとショパンはもはや溶解して一つのようだ。ラフマニノフはやっぱり先をみている。不思議な引力があちこちに感じられる3ピースずつのセット。

綺麗な音は昨晩と変わらない。二日あわせて72曲、全部暗譜弾き、作品を暗譜で弾く、それにもまして、弾く順番を記憶するほうが大変なのではないかと余計な心配をしたくなる。ストーリーが出来上がっているのだろう。物語のようなものかもしれない。いずれにしても、離れ業。永遠の普遍のドラマが極めてまれな形で表現されることになった。ひとつの作品を二日かけて聴いた聴後感もある。満足感が大きい。ライヴ・パフォーマンスでの幸せな遭遇。
浄められた二日間でした。
ありがとうございました。
おわり














2649- バッハ、ショパン、ラフマニノフ、24の調の前奏曲、第一夜、アブデル・ラーマン・エル=バシャ、60歳記念2夜連続ピアノ・リサイタル、72の前奏曲、第一夜、2018.12.13

2018-12-13 23:00:17 | リサイタル

2018年12月13日(木) 7pm 小ホール、武蔵野市民文化会館

(演奏順)
 ハ長調の3つの前奏曲
1  バッハ:平均律クラヴィア曲集第1巻より第1番前奏曲BWV846  3
2  ショパン:24の前奏曲より第1番Op.28-1  1
3  ラフマニノフ:13の前奏曲より第1番Op. 32-1  1

ハ短調の3つの前奏曲
4  バッハ:平均律クラヴィア曲集第1巻より第2番前奏曲BWV 847  1
5  ショパン:24の前奏曲より第20番Op.28-20  2
6  ラフマニノフ:10の前奏曲より第7番Op.23-7  2

嬰ハ長調、変ニ長調の3つの前奏曲
7  バッハ:平均律クラヴィア曲集第2巻より第3番前奏曲BWV 872  2
8  ショパン:24の前奏曲より第15番Op.28-15「雨だれ」  5
9ラフマニノフ:13の前奏曲より第13番Op.32-13  6

嬰ハ短調の3つの前奏曲
10 バッハ:平均律クラヴィア曲集第2巻より第4番前奏曲BWV 873  6
11 ショパン:24の前奏曲より第10番Op.28-10  3
12 ラフマニノフ:幻想的小品集より第2曲前奏曲「鐘」Op.3-2  3

ニ長調の3つの前奏曲
13 バッハ:平均律クラヴィア曲集第1巻より第5番前奏曲BWV 850  1
14 ショパン:24の前奏曲より第5番Op.28-5  1
15 ラフマニノフ:10の前奏曲より第4番Op.23-4  5

ニ短調の3つの前奏曲
16 バッハ:平均律クラヴィア曲集第1巻より第6番前奏曲BWV 851  1
17ショパン:24の前奏曲より第24番Op.28-24  3
18ラフマニノフ:10の前奏曲より第3番Op.23-3  3

Int

変ホ長調の3つの前奏曲
19 バッハ:平均律クラヴィア曲集第2巻より第7番前奏曲BWV 876  2
20 ショパン:24の前奏曲より第19番Op.28-19  2
21 ラフマニノフ:10の前奏曲より第6番Op.23-6  4

変ホ短調の3つの前奏曲
22 バッハ:平均律クラヴィア曲集第1巻より第8番前奏曲BWV 853  4
23 ショパン:24の前奏曲より第14番Op.28-14  1
24 ラフマニノフ:10の前奏曲より第9番Op. 23-9  2

ホ長調の3つの前奏曲
25 バッハ:平均律クラヴィア曲集第1巻より第9番前奏曲BWV 854  4
26 ショパン:24の前奏曲より第9番Op.28-9  1
27 ラフマニノフ:13の前奏曲より第3番Op.32-3  2

ホ短調の3つの前奏曲
28 バッハ:平均律クラヴィア曲集第1巻より第10番前奏曲BWV 855  3
29 ショパン:24の前奏曲より第4番Op.28-4  3
30 ラフマニノフ:13の前奏曲より第4番Op.32-4  5

ヘ長調の3つの前奏曲
31 バッハ:平均律クラヴィア曲集第1巻より第11番前奏曲BWV 856  1
32 ショパン:24の前奏曲より第23番Op.28-23  1
33 ラフマニノフ:13の前奏曲より第7番Op.32-7  3

ヘ短調の3つの前奏曲
34 バッハ:平均律クラヴィア曲集第1巻より第12番前奏曲BWV 857  3
35 ショパン:24の前奏曲より第18番Op.28-18  1
36 ラフマニノフ:13の前奏曲より第6番Op.32-6  1


ピアノ、アブデル・ラーマン・エル=バシャ


今日と明日は表題のリサイタル二夜連続、その翌日は別の主催でベトソナ・リサイタル、あわせて三日連続でエル=バシャのプレイを聴くことに。

今日と明日の公演は、バッハの平均律クラヴィア曲集の第1巻と第2巻から24曲、ショパンの24の前奏曲、ラフマニノフの前奏曲13曲と幻想小作品集より第2曲前奏曲「鐘」、
以上の24+24+(23+1)を二夜で演奏。作曲者の束で弾くのではなく、同一調の束で弾く。1曲ずつ、バッハ→ショパン→ラフマニノフ、といった具合でこれの繰り返し。
他所でも試みられたものであるらしいが、まことにレアで画期的なものと言えよう。

5月のLFJでショパンの2番コンチェルトを弾いたエル=バシャさん、有楽町の国際フォーラムの一番デカいホールで、いやはやなんともはや最悪の場所。今回はコンパクトなホールで落ち着いた演奏、聴くほうも同じ。


3個で一つの交錯が永遠に続く様な雰囲気で、その束ごとの色模様の変化、というよりもありようが独立した色彩、三つの中で作品の引力を感じる。バッハ、ショパンは清く静謐、ラフマニノフは前を見ている。バッハの引力が強い。リセットボタンを押されるような趣きもある。
半音ずつずれていくことに敏感ではなくて、むしろ、気持ちやテンションの高まりの傾斜が音調の上り具合と同じなのかもしれない。つまり、全部同じ調に聴こえる。というのは言葉のアヤが過ぎるが、受け入れて享受するとはそんなことかなとも思う。

エル=バシャの縦ラインの合い具合は異常とも思えるほど潔癖、緊張が最高潮に達したところで、弾きおろす縦ラインは一つしかない。全てのハーモニーがそうだった。このたった一つの縦ライン、ザッツ、これだから、あのような透明で清らかな響きになるのだろう。もう、答えはそれしかない。見ていても明らかにタッチへの集中度が桁外れだし、揃い切った音の美しさはパーフェクト。彼が求めて表現するものは、一種、別のドラマ性、このようなプレイで、ドラマを魅せる。いや、こうゆう表現はいわゆるドラマ、ドラマチックなもの、そういったものとは違うんだよ、と言われれば、そうだと納得するしかないのだが、なにやら、普遍的であることのドラマ性を考えさせてくれる。普遍ということへの気づきをさせてくれる。音楽に共通するもの、この三つの作品のなかに一筋共通して響き合うものがあって、それが永遠の先を見据えながら進んで行く。普遍的なものが永遠を魅せてくれる。このドラマ。


このような順序での聴き方はCDをパソコンに取り込んで編集すればいとも簡単にできるだろう。ただ、そこまでの思いつきは閃きかも知れないし、経験の賜物なのかもしれない。バッハ48曲から24曲ピックアップについては、まあ、素人にはわからないもので、そういったこともあれこれ含めて、生でエル=バシャの創造プログラミングを感じ、再創造に感嘆するしかないのである。

長くなるかと思ったが、休憩入れて2時間に収まるリサイタル。永遠とは短いものかもしれない。
明日は第二夜。
おわり















2648- くるみ割り人形 全曲、ウラディーミル・フェドセーエフ、N響、2018.12.12

2018-12-12 23:08:48 | コンサート

2018年12月12日(水) 7:00-9:15pm サントリー

チャイコフスキー くるみ割り人形 全曲 op.71   30-25、50

合唱、NHK東京児童合唱団

ウラディーミル・フェドセーエフ 指揮 NHK交響楽団

第1幕第1場 30
第1幕第2場 25
Int
第2幕 50


第1幕1場、二三曲すすんだあたりで、何かとんでもない演奏になりそうな気配がフツフツと湧いてきて、座りなおしてグッと気持ちを引き締めなおして集中。恒例演目などという生易しい雰囲気は完全に吹っ飛び、結局、あまりのお見事な演奏にぶっ飛びました。

ユルリとした進行、オネーギン越えの緻密で精緻、場の空気が静謐の限界を越える、この肌ざわり。なんというN響の演奏だろう、驚くべきパフォーマンスだ。
1場の情景は区切りを持たずシームレスに流れていく。情景が巧みに表情を変えていく。なんだろう、この肌ざわりと居心地の良さは!
1932年生まれ86才の棒さばきは見事だ。ほぼ小振りに終始し、テンポ設定が的確。ゆっくりとした進行なのだが、切れ味がものすごく鋭い棒回しで鮮やか。枯れたエキス振り。圧巻のフォーメーション。ついていくオケが驚天動地の合体プレイ。凄いわ。

この1場は流れを止めることなく滑るように進む。素晴らしく緻密なN響。フェドセーエフの小振りで若々しいシャープな振り、全く弛緩しない緊張納得の棒、テンポの正確なタクト。
ここまでで、もはや悶絶。

フェドセーエフはN響を初振りしたのが2013年。その時、既に80を越えていた。よっぽど意気投合した、というか、フェドセーエフは、こうゆうオーケストラでこうゆうことをやってみたかった、それが叶った。それに尽きるのではないか。N響とは相思相愛、この言葉以外見あたらない。双方、共感の沸点。その沸点演奏が聴けるわけだ。この幸せを聴衆が共同体としてアクティヴな受けとめ行為を営む。最高ですな。

ここで一服おいて第2場、大きいフレージングに変わる。大きい曲線がまるで噴水のような沸き立ちストリーム、見事な形でバランスする。スケールの大きな音楽づくりに惚れ惚れ、唖然茫然。チャイコフスキーの大傑作が花開く。凄いな、フェドセーエフ。

あっというまの1幕、ここまでで約1時間。心身虚脱状態。このような大きな演奏はしばらくぶりだ。

休憩後の2幕、これがまたデカかった。圧巻の50分。
ここも、ユルリと始まる。1幕と異なり各シーンごとにきっちりと区切りをつけて音楽の表情を変える。踊りは陰と陽、光と影。めくるめく音楽が次々と披露される。テンポを落とし、正確な刻みのタクト。デリカシーの極み。花のワルツを経てコーダ。声にならない。富士山の裾野からてっぺんを睥睨する様な音楽はひたすら下降を繰り返す。あまりに大きな峰、裾野。高性能、高精度のN響の腕が冴えまくる。まあ、凄すぎて気絶しそう。
コジャレた締めからフィニッシュに向かう。パーフェクトなパフォーマンス。未曾有の演奏だ。チャイコフスキー大詰めの至芸作品この手応え感。凄いな、フェドセーエフ。あまりに巨大すぎて息もできない。


フェドセーエフは若いときは、指揮台にマイクを持ってきて、ひとつ、説明、お説教してから演奏を始めたものだ。このお説教が割と長めで、はやく演奏はじめてくれないかな、などと思ったこともあったが、昨今、スヴェトラーノフの映像など見ると同じような事をしているので、あちらの慣わしだったのかもしれない。
まあ、そういったことの印象があって今一つ前のめりになれなかったのだが、それはこちらの間違い。もっと早く沢山聴いておくべきでしたね。CDはそこそこ持ってるが。

いずれにしても、今日の演奏はなかなか言葉にならない。この演奏を今はコッテリと思い出す。それも楽しい。
7時から始まった演奏、正味105分。演奏会終ったのが9時10分前。生中継、本来9時スタートの年末恒例バイロイト放送はどうなったんだろうと、余計な心配をしてみて、ネットで番組表見たら9時10分スタートでしたね。取り越し苦労でした。

素晴らしい演奏会でした。
ありがとうございました。
おわり
















2647- フィンガルの洞窟、シュマ1春、ハルサイ、アラン・ギルバート、都響、2018.12.10

2018-12-10 23:39:01 | コンサート

2018年12月10日(月) 7pm サントリー

メンデルスゾーン 序曲 フィンガルの洞窟 op.26  10

シューマン 交響曲第1番変ロ長調 op.38 春  11-6+6+9

Int

ストラヴィンスキー 春の祭典  15-18


アラン・ギルバート 指揮 東京都交響楽団


シューマンは生はありそうで、そうでもない。鳴らし切る演奏は日本のオケではあまりお目にかからない。序奏のファンファーレをこぢんまりとやってしまう傾向が強く、その流れで進んでしまうのが多い。

一か月半前に聴いたティーレマンは不発の部類だったと思うが、その演奏とはそもそも方針が違うようなアランの棒はなかなかのものだった。オーベー系のうちべー系に近いものでしたなあ、あえて言うならば。

2630- シューマン1番、2番、クリスティアン・ティーレマン、ドレスデン国立歌劇場管弦楽団、2018.10.31

大胆な響きが要る。大きく構えて、ファンファーレモードで最後まで突き進む。アランの春は概ねその方針。ただ、その騒ぎを押しとどめる抑制配慮も。聴き進めるうちに、最初のフィンガルで感じたことがもっと如実にフレーヴァーされたテイストで、ふむふむなるほどと。
ディテールの味付けが濃い。余裕を持った濃さで輪郭を縁取る。細部に光をあてている様子がよくわかるもの。それとブレンド合奏時のブラスセクションのバランスに最大配慮。この鉄板に壁ドンのブラスオケを丁寧にコントロール制御。
つまり、大胆な響きときめの細やかさが同居。作品の彫りの深さを垣間見せてくれた。それが原因なのか、求めていないのか、その割に、流れが出て来ない。やっぱり、この秀逸なパースペクティヴ感に欲しいのはシューマンの刻み節進行で魅せるリズミックな前進する流れと躍動感。結構なスピード感で入念な彫り込みをしているわりには流れない。エネルギッシュなキシキシする弦のきしみのような鳴りを聴きたい。
いずれにしても、アランの棒には確実に余裕というか、色々なものを見渡せるようになった一段上の力を感じさせる演奏でした。ニューヨーク・フィルを経て得たものは大きい。

後半プロのハルサイはシューマンの印象をそれぞれもっと濃くしたような話で。
2部より1部のパワーが上回ると普段は感じるハルサイ。今日のアランの棒では1部2部同等。2部冒頭のロングな細部ディテールの練り込み、魅惑的な響きを加味すると2部の聴きごたえ感が大きい、終場に向かう盛り上がりはなかなかのもの。これに勢いがもっとあればさらにテンションも上がっていたと思う。スピード感がある割に流れが出ない。繰り返しの話だが。
8ホルンの咆哮は妥当なもの。むしろミュート有り無しを問わず、相応なコントロール鳴りに制御していたトランペット、トロンボーン等のいつになく五月蠅くないプレイに引き込まれた。これに弦の地鳴りが有れば、驚天動地のハルサイになっていたことだろう。

アランがこのオケの音楽監督になってじっくりと音楽づくりをしていったら硬いオケを変えられそうな気がする。
おわり





2646- ヴォツェック、エディット・ハラー、マーラー1番、沼尻、日フィル、2018.12.8

2018-12-08 22:28:58 | コンサート

2018年12月8日(土) 2pm サントリー

ベルク ヴォツェック 3つの断章  7-6-7
 ソプラノ、エディット・ハラー

Int

マーラー 交響曲第1番ニ長調  15-7-10+19

沼尻竜典 指揮 日本フィルハーモニー交響楽団


沼尻さんの棒を持たない指揮ぶりはどうも弾き振りの延長のように見えてしまうところがあって腕技がいまひとつ。バレンボイムみたいに指揮の時と弾き振りの時とメリハリつける意味合いも併せてタクト持ったらどうだろう、などと、オペラばかりが多くてオンステージではあまり見ることの無い沼尻さへの贅沢な感想ではある。

後半のGM1はオケが怪しいところもあったけれども、どのインストゥルメントも妙に縮こまらず大きく弾かせた吹かせた叩かせたもので、全体としては殊の外、軽い感じに聴こえてきましたね。
彼にとってGM1はせわしない作品かもね。もっとじっくりと聴きこませるもののほうがマッチベターと思う。
前半のヴォツェックは彼にピッタリの音楽で、シャープな切れ味がよくて、フレーズの膨らみがあり、そういったものがよくブレンドされたもので生きた音楽になっている。短いものでハラーも歌い足りないだろうね。堂々とした歌いっぷりはさすがですわ。

ヴォツェック
第1幕第3場 7
第2幕第1場 6
第3幕第3,4場 7

おわり


2645- バッハ、組曲第4番、聖アン、マニフィカト、ヘンゲルブロック、バルタザール・ノイマン、N響、2018.12.7

2018-12-07 23:48:14 | コンサート

2018年12月7日(金) 7pm NHKホール

バッハ 組曲第4番ニ長調BWV1069  18

バッハ(シェーンベルク編) 前奏曲とフーガ変ホ長調BWV552聖アン  14

Int

バッハ マニフィカト ニ長調BWV243(クリスマス用挿入曲つき) 33
バッハ クリスマス・オラトリオBWV248より
    第59曲 コラール「われらはここ馬槽のかたえ 汝がみ側に立つ」 3
合唱、バルタザール・ノイマン合唱団、ソリスト含む

(encore)
15世紀フランス(ヒッレルード編) 久しく待ちにし主よとく来たりて 2
無伴奏合唱、バルタザール・ノイマン合唱団


トーマス・ヘンゲルブロック 指揮 NHK交響楽団


ヘンゲルブロック、お初で拝見しました。Step to the podium、あまりの長身痩躯に吃驚。コンマスマロより頭一個分ほどの高身長。知らなかったこととはいえ、この衝撃度は、エリザベート・コンネルが、デュトワN響のもとエレクトラ入場した時と同じようなインパクト。背丈の話では無いが。

ということで、今日はコンパクトサイズの編成で、極悪ホールという事もあって前方席で拝聴。
オール・バッハ・プログラムの一曲目、管弦楽組曲第4番からスタート。指揮台無し、譜面台無し、指揮棒無し。構えてサッと始まる。
小ぶり編成のバッハで粛々と進む。ティンパニと3本のトランペットは下手サイドに一列配置。トランペットの高音頑張りが耳につく。
長身の指揮は迫力がありますね。その指示にプレイヤー達も、もう、従うしかない、っていう感じ。そんなに大きな指揮ではないがたっぱがたっぱなだけに。
縦ラインにはあまり頓着せず線を作っていく。流線形というわけでも無いと思わせるのはこのホールのちゃちな音響残響のせいかもしれない。至近な席で聴いてもやっぱり少人数パフォームにはある種、限界をあらためて感じるところでもあった。流線形というよりも一つずつの線を感じさせる演奏、指揮振り。
それが、ブーレの二つ目のところファゴットが忙しく技を仕掛けるところ、彼は棒立ちで振らないんですね。ソロが吹き始め、本人なりの調子で安定を得たあたりでおもむろに振り始める。ファゴットもこれだとやりやすいだろうね。
曲の表情はあっさり目とスッキリ目が相半ばしているもので、指揮者の十八番もの、居心地の良さがありましたね。妙なところに肩入れする指揮では、全く無い。

次の聖アン。シェーンベルク編曲ものはわりと耳にするものだが、こうやって16型の巨大編成になると、前の曲からの激変に、もはや、聴く前からブルブルする。あまりの水膨れに仰天。とはいえ、普段聴いているシンフォニックなオケ編成ゆえ、ゆとりを持って聴けるところもありますね。
ここでの指揮は、指揮台あり、譜面あり。指揮台上ると2メートル超える大巨匠ですな。
前の曲と同じくスッキリ目の解釈で進む。編成がデカすぎて少々埃っぽいところもあるけれど、そういったあたりへの関心はセカンド・プライオリティなのだろうと思う。
シェーンベルク聖アンの生演奏の手応え実感。何ものにも代えがたい。

休憩を挟んでマニフィカト。
最初の小ぶり編成に戻り、トランペットは3本指定のところアシ付きで4本だが、アシにとどまらない吹きもあったかに見受けられた。
今日の陣取り席は舞台の明かりが来るので、リブレットを見ながらのジックリ聴き。この対訳にはどの声種が歌うのか、ピース毎に書いてあるので、対訳を見失うことが無い。こうゆう工夫をしない演奏団体もあるのでそこは見習ってほしいもの。
マニフィカトにクリスマス挿入曲4個付き。さらに慣例に倣ってクリスマス・オラトリオ1曲が締めに歌われる。マニフィカトが終わり、拍手お辞儀退場、再登場でリスタートするので連続演奏というわけではない。

マニフィカト
Ⅰ  わが魂は主をあがめまつり
Ⅱ  わが心は喜びに耐えず
挿入曲A 高き天より
Ⅲ  それはおん召使の卑しさを
Ⅳ  見よ今からのち永遠に
Ⅴ  全能であられるおん方よ
挿入曲B 喜んで、声を上げよう
Ⅵ  そのあわれみは
Ⅶ  みずからおん腕の力を現し
挿入曲C いと高きところには栄光、神にあれ
Ⅷ  権力のあるものをその座からおろし
Ⅸ  飢えた人々を良いものに飽かせ
挿入曲D エッサイの若枝から
Ⅹ  そのしもべ、イスラエルを
Ⅺ  われらの先祖に言われたように
Ⅻ  父と子と精霊に栄光あれ
クリスマス・オラトリオ第59曲

Ⅵそのあわれみは、のソリストは、アルトが一人、テノールは二人で別パート歌唱。
Ⅸ飢えた人々を良いものに飽かせ、はリブレットにはアルトと記載されているが男声歌唱、見事でした。
なんだか、あっという間に終わったマニフィカト。ハイレヴェルのパフォーマンスに出くわすとこんな感じなのかもしれない。
合唱がメイン、通奏低音弾きのチェロ、芯があって強靭。バカでかいホールの一本弾き、前に座れば座るほど良い鳴りを享受できる。輝かしいトランペット、ウィンドの頑張りのもと、合唱が大人の音楽を奏でる。自分たちで聴き合いながら出し入れしている様子がよくわかる。普段からアンサンブルで歌いこなし尽しているからできるのだろうね。呼吸があっていて盛り上がりや引き際などがピタッとしている。生きた音楽になっている。本当に心地よい。
ヘンゲルブロックはここでもあまり縦は気にせず、それぞれのパートの線を浮き上がらせる。各ラインのバランスが良くて、ポリフォニックな分解ストリームが滲み出る。明快でわかりやすい音楽のつくり。
ソリストは合唱団メンバーで、アンサンブルの中から同じカラーの歌声がきれいに聴こえてきます。なんだか、和らぎますね。
伴奏オケに郷古廉さんがおりました。弾きのモーションは大きくないなか、素晴らしく切れ味がよくシャープで鋭い弾きですね。N響のメンバーもあれぐらいやればもっと前向きなバッハ演奏となっていたやに思われる。
ともあれ、指揮と合唱、存分に楽しめた一夜でした。

今日のN響定期はいつになく一階席からたくさんのブラボーが飛んでいました。このバッハ演奏、編成等を考えると至近席で聴くのは正解でしたね。なんでこのホールでやったんだろう。
おわり













2644- さすらう若人の歌、萩原潤、ブルックナー7番、紀尾井ホール室内管、2018.12.5

2018-12-05 23:14:48 | 室内楽

2018年12月5日(水) 7:00pm 紀尾井ホール

マーラー(シェーンベルク編曲) さすらう若人の歌  4-4-4-6
 バリトン、萩原潤
vn1, vn2, va, vc, cb, fl, cl, per, harm, pf

Int

ブルックナー(1,3アイスラー、2シュタイン、4ランクル編) 
交響曲第7番ホ長調  22-24-9-13
vn1, vn2, va, vc, cb, hrn, cl, per, harm, pf1, pf2


出演者

vnアントン・バラホフスキー

(バイエルン放送交響楽団メンバー)
vnダフィト・ファン・ダイク
vaベン・ヘイムズ
hrnカーステン・ダフィン

(紀尾井ホール室内管弦楽団メンバー)
vc伊東裕、cb吉田秀、fl野口みお、cl金子平、per武藤 厚志

(客演)
harm西沢央子、pf1北村朋幹、pf2中桐 望
br萩原潤


ブルックナー、交響曲第7番ホ長調
第1,3楽章 ハンス・アイスラー 編曲
第2楽章 エルヴィン・シュタイン 編曲
第4楽章 カール・ランクル 編曲

duration
1st mvt. 3-3-2-5-2-2-2-c3
2nd mvt. 4-4-6-1-7-c2
3rd mvt. 3-3-3
4th mvt. 1-2-2-2-1-2-2-c1

11人編成によるブルックナーの7番。このテンションの高さ。やっているほうも聴いているほうもこれ以上ないハイテンション。じっくりと構えて熟成のテンポ感。アンサンブルのポテンシャリティーの高さは個々の技量の見事なハイレヴェルリキからくるものだろう。それに、プレイヤー達が日常的にオーケストラル・パフォーマンスを夜な夜なやってる連中であり、シンフォニックな作品に対する絶対的強みがある。スキルと経験が万全。最高のブルックナーが奏でられました。

当時、小ぶり編成への編曲は手っ取り早く聴かせる等色々と理由があったのだろう。今やる意義、まあ、時代の多様性、求めるものがあればやるし、やってみたければ集まる。作品、演奏家、聴衆、それぞれの求心力のようなものが実現に向かわせる現代の波に乗ったのだろう。今この時代なら、聴くほうも半端ない連中と、やるほうも腹をくくるしかない。

前半のマーラーでは10人編成であったものが、フルートはホルンに替わって、ピアノは一人から連弾に。計11人の編成となった。
作品は一人の編曲ものでは無くて3人による編曲。まだら模様と言えなくもない。終楽章のクラリネットはやや安めの鳴りも耳に入ってくる。また、ブラスセクションの鳴りをピアノやハルモニウムでするだけではなくて割と低めの音域楽器をも代弁している音模様があったかと思います。
全体的にピアノは中桐さんがフメクラーで、弾くかめくるかの忙しさでしたね。

色々とそういったところもありましたが、作品全体の筋をきっちりと魅せてくれた最高のブルックナーで、これはここにいる演奏家たちのおかげ、様様、で間違いなし。

指揮者無しながらテンポが先走りしていく様子は無い。少しずつ速めになりそうな気が、最初はしたものの、こちらの杞憂。オーケストラに居る連中の凄さですな。つわもの達。
ゆっくりと始まったブルックナーは先を急がない。薄めの鳴りでも音楽の流れに隙間が出来ない。実音の余韻といった主題の変わり目の香りも香ばしい。透けて見えるディテールが一本ずつ波打つ。きれいだ。流れが美しい7番が一段と輝きを増す。転調で音色が変わらない味わいは、いつもオケでかぶれた身にはいいものかもしれない。味わい尽くしました。

70分に迫ろうという演奏、規模の大きな室内楽のイメージをはるかに越えたもので幽玄のブルックナー。いつもなら規模にアンバランス感が付きまとう終楽章なども惚れ惚れする造りと進行でしたね。あっという間のショートな展開部、そして3→2→1と出てくる再現部主題群。ここらあたり、展開部から再現部への動きは9番にみられる溶解の序奏か。明快な演奏に舌鼓を打ちながら改めて考えさせてくれる。

初楽章のソナタバランスと吹き上げるようなコーダと堂々とした余韻。丹念に掘り下げたため息のアダージョ楽章。きりりとしたスケルツォとトリオのメリハリの良さ。終楽章のコーダをむかえるところでフラッシュバックしましたね。お見事な演奏でした。堪能しました。

前半のさすらう若人の歌。
気張った力が見えない歌唱。素晴らしく滑らかな歌い口でコクがあり深みがある。一つ一つのワードがよくわかる。よく見える。
ゆっくりとした進行の中、マーラーの明るさと暗さが綯い交ぜになった複雑さ、23才頃の作品は触ればうずくデリカシーに富んだもの、萩原さんの歌唱で丹念に掘り尽される。
ワーグナーの響きを感じさせる3曲目の燃える刃、ドラマチックでスッと終わる。終曲は一段とテンポを落としピアニシモにこめた思い。滑らかな質感がツボにはまり、なにやら、複雑なマーラーも解決したような心地となる。若いマーラーが透けてみるような歌でしたね。スバラシイ。
紀尾井室内管の伴奏がキラキラと花を添える。ゴージャスな響きは少人数ながらも比重を感じさせるもので、この時代から先のマーラーの予兆も思わせてくれた。
噛み締めて聴くマーラー。

素敵な一夜でした。ありがとうございました。
おわり