2019年7月31日(水) 7:10pm ミューザ川崎
ブルックナー 交響曲第8番ハ短調WAB.108 (ノヴァーク版第2稿 1890年版)
18-15-26-27
井上道義 指揮 読売日本交響楽団
●
3-2-2-4-2-2-2-c1
5-5-5
2-2-3-3-13-c3
2-4-2-8-4-2-3-c2
フェスタサマーミューザ2019、井上、渾身、会心、全身身もだえの圧倒的なブル8。
ブルックナー慣れしている重厚パワフルオーケストラと井上の明るく輝くテンペラメントが最高の形でミックスブレンド。運命の出会いのような演奏でした。びっしりと敷き詰められたペイブメントサウンド。緩みを排したストレートな石畳。この充実サウンド。瞠目すべきビッグな演奏に心からうなるばかりなり。オーケストラの自主機動性は指揮者によりもたらされたと言えよう。だから、一筆書きの棒がこういったときは恐ろしいほどによく決まる。冴え冴えとした響き、圧巻の美しさでしたね。
各主題独立型できっちりきっちり頭をひとつずつ決めていく。だいたいスローな運び、特に第3主題が入念に奏でられる。終楽章の敷き詰められたパワフル石畳音響で作品の内面が照らされる。この終楽章の展開部、まれにみる圧倒的な力演でした。次々と迫りくる音響構築美。めったに聴くことのない立体的で集中度最高度の奇跡的演奏でした。
再現部第3主題に被さる初楽章第1主題の強奏、形を変えず史上最強音で突き刺さる。あの息の合い具合、見事というしかないもの。であればこそのコーダ進行一斉強奏の凄まじいまでの縦筋の合いかた。全主題咆哮の中、トランペットが空中浮遊するような輝き、下降を繰り返すメロディーラインが地に突き刺さり終止。このプリサイスパワーメリハリ。
拍手は出ない。理想的な間でアプローズ。気持ちよし。ミューザの音響を満喫。オーケストラを聴く醍醐味にひたひたと浸る。
井上さんの一般参賀。そういう内容の演奏でしたね。ありがとうブル8。
おわり
2019年7月18日(木) 7pm サントリー
シベリウス ヴァイオリン協奏曲ニ短調op.47 18-9-8
ヴァイオリン、クリステル・リー
(encore)
バッハ 無伴奏パルティータ第3番より ガヴォット 3
Int
ドヴォルザーク 交響曲第9番ホ短調op.95 新世界より 10-13-7+11
(encore)
ブラームス ハンガリー舞曲第1番 3
チョン・ミョンフン 指揮 東京フィルハーモニー交響楽団
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大好きなシベリウスのコンチェルト、演奏はいまひとつでした。譜面の音符位置を踏み外しているところが結構あって、音の移りが不明確になりメロディーラインが丸みを帯びてしまう。不正確多々だとこのような印象となるのかなあと。それに高音がギスギスしていて感興がいまひとつわかない。コンマスの三浦さんが上半身を目一杯動かしてサポートしている。
14-14-12-10型のユラユラと揺れ動くオーケストラ伴奏は奥行き、スケール大きく大したもの。そのなかくっきりと浮かぶソロはやや緊張気味だったか。
後半の新世界、16-16-14-12-10型のド迫力サウンド、切れ味は少し横に置き、とろみ成分全開でヘビー。細やかな表現の機微とあわさり、絶妙なハイブリッドワールドでした。チョンさんの意図通りの演奏と思われ、ベストなパフォーマンスに大満足の様子。最後のユニゾンは天上に吸い込まれるようにフィニッシュ、空白、拍手、ブラボー、と。
1楽章リピートなし。
おわり
2019年7月14日(日) 2pm-5pm 東京文化会館
オペラ夏の祭典2019-2020 プレゼンツ
プッチーニ 作曲
アレックス・オリエ プロダクション・ニュー
トゥーランドット (日本語と英語の字幕付き) 32-43-36
キャスト(in order of appearance)
1.官吏、豊島祐壹(Br)
2.ペルシアの王子、真野郁夫(黙役)
3.カラフ、テオドール・イリンカイ(T)
3.リュー、中村恵理(S)
3.ティムール、リッカルド・ザネッラート(Bs)
4.トゥーランドット、イレーネ・テオリン(黙役)
5.ピン、桝貴志(Br)
5.パン、与儀巧(T)
5.ポン、村上敏明(T)
6.アルトゥム皇帝、持木弘(T)
7.トゥーランドット、イレーネ・テオリン(S)
他
新国立劇場合唱団
藤原歌劇団合唱部
びわ湖ホール声楽アンサンブル
TOKYO FM 少年合唱団
大野和士 指揮 バルセロナ交響楽団
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ActⅠ 32
ActⅡ 46
ActⅢ 36
衝撃の結末にいまだ興奮冷めやらぬ。
ミラキュラス・ビューティーの氷の声。最後の一声。それは愛。と、抱き合うと上から真っ赤な花びらがパラパラと。なんでこんな野暮なことするのかなあ、と。でも、あれ、最後の一瞬技で飛び散るであろうものの前触れなんだよね。色々と後戻りしたくなる壮絶な結末は良し悪しはどうであれ、舞台演出を観る醍醐味に違いない。
衝撃の結末をたどっていくと、最初にあった1分にわたる前出しのパントマイムは祖母が襲われる姿だったのだろうかと思いを巡らす。
字幕は日本語と英語。これがなかなかいい。
全体印象は、白装束、黒装束、階段工場、等々、色々と意味深ですな。場面が次々と変わっていく毎にそれまでのことを思う。記憶力を試されているようだ。
上から天井が下りてくる。そこにはテオリンが乗っている。
ピットのオケサウンドが上に向かい天井にぶつかり跳ね返って下りてくる、その最中の音を耳が鷲づかみ。バルセロナのでかい音。ミラキュラス・ビューティー(英語字幕のほう)のテオリンの声がまたでかい。この演出、ドツボにはまりそうな適役。鮮やかな歌いっぷり。
イン クエスタ レッジャ 唸るばかりなり。調性を取り戻し氷のようなうねりの音楽が最初からクライマックス。空気を吸い込むような空間、強烈な押しでひずむ空気。双方すみずみまで冴えわたる美唱。テオリンの絶唱でした。
それから、中村さんのリュー。芯のある透き通る声、上に登り詰めるほどに抑制の美。一瞬、ここで終わってもいいかな、と、あらぬことがよぎった。お見事でした。
初めの音が出る前の前出し1分パントマイム、それと対をなすような最後の一瞬技。やっぱり、ここは演出家に語ってほしかった気もするが、まあ、彼らにとって舞台で起きることが全て、ということなんだろうね。演出という作品を投げ渡し、聴衆に任せる。それはそれで大いに納得できること。これもオペラ演出を観る醍醐味。
ありがとうございました。
おわり
2019年7月13日(土) 2pm サントリー
ラター 弦楽のための組曲 3-3-3-3
バッハ ピアノ協奏曲第3番ニ長調BWV1054 8-6-2
ピアノ、小山実稚恵
フィンジ エクローグ ~ ピアノと弦楽のためのop.10 11
ピアノ、小山実稚恵
Int
ハイドン 交響曲第104番ニ長調 ロンドン 10-8-6-6
バターワース 2つのイギリス田園詩曲 5-4
広上淳一 指揮 日本フィルハーモニー交響楽団
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エルガーやRVWはもとよりときにデリアスなんかでもブラバン風味のデカいブラスセクションの鳴りが有ったりして、歌い口が鮮やかであったバルビローリなんかも結構、力任せのサウンドを出させたりするイギリス音楽の多様な作品や演奏に興味は尽きないのである。それはそれとして、今日の広上が選集したピースは愛しむような演奏が映える作品の集合体であった。
素晴らしい作品、そして時にその上を行く極上の演奏。この日の極上演奏のポイントは弦だと思うし、それをねらった指揮者の意図が満遍なくプレイヤーに浸透、そしてよく表出されていた内容でしたね。
音響バランスが広げて見る完成された図面全体図のようでもあり、時間の流れを忘れさせてくれる絵の様な鮮やかに滴る音楽。このバランス感、そして各フレーズのアンサンブル・エッジの角度まで悉く配慮された、いわば計算され尽くしたフレームがごく自然に流れだしてくる。
練られたイギリスプロ。珠玉の様なラター、フィンジ、バターワース。そこにバッハとハイドンが入念に挟み込まれている。作曲家たちの時代性の広がりも感じさせてくれるが大いなる強調はさてと横に置き、シルキーサウンドに存分に浸る。エクローグは心情告白の様な趣き、小山のピアノの揺れ具合も心がこもったもので魅了された。
今日はいつもの席をP席に変えて座る。広上さんの凄味がよくわかる。的確な両腕での指示、正確なリズム取り、先の事と今の事が同時にわかっているような振りだ。だからテンションが連続していくのだろう。鮮やかな演奏になって当然のような納得の棒ですね。
5作品、ツボにはまった実にいい内容の快演でした。ありがとうございました。
おわり
2019年7月12日(金) 2pm トリフォニー
ニーノ・ロータ 組曲 道 より抜粋 21
ヒナステラ ハープ協奏曲op.25 9-11+5
ハープ、吉野直子
(encore)
マルセル・トゥルニエ 朝に 3
Int
ファリャ 三角帽子 全曲 16-25
メッゾ、池田香織
(encore)
プッチーニ 妖精ヴィッリ より 間奏曲 3
ベアトリーチェ・ヴェネツィ 指揮 新日本フィルハーモニー交響楽団
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お初の指揮者です。
ニーノ・ロータの第4曲目のザンパノの怒りは割愛、5ピースで約20分。今日のNJPはその昔を思い出させるようなビャー・バシャー・ブンブンのチューニングでどうしちゃったんだろうと、ルビコンもずっといい内容が続いているので油断大敵、褌の締め直しでお願いします。まあ、どうなることかと思ったが、そのまま道へ。やっぱりちょっとブラスセクションのピッチに問題ありで、少しずつ持ち直し、最後は軽くなった。この最後の部分のあたりのコンディションに初めからなっていなければならない。ルーチンワーク定期の日常の姿も垣間見えた感じで、これはどこのオケでも見られますね。普段の日常の営み、これはこれでいいものです、のアフタヌーン。
ヴェネツィさんはブロンドのロングヘア、それを薄めた色のノースリーブロングドレス。かなり鍛えこんでいる感じ。
今日はハープの吉野さん、後半出演の池田さん、指揮のヴェネツィさんと、女性陣ワールド。
ヒナステラのハープ協は、1,2楽章がともに10分ほどで結構な大きさ。、聴きもののカデンツァでつなぎ、5分ほどの終楽章が面白い。パーカッションがポッコンポッコンと踊り、ハープは高音で歌う、これも踊る感じ。オーケストラの色彩がハープと似ている。
ルビコンではエンプティーシート目立つ1階の後方席、今日は学生達で全部埋まっていて賑やか。例えば、ペイを考えずに、とにかくこのトリフォニーを満席にする、という目の前の目標を一度立てそれをクリアする、クリアするには何をどうしなければならないか、その試みが新たな企画の発見につながるかもしれない。ふと思った。
メインディッシュのスリー・コーナード・ハット。お仕舞の熱狂がローマの祭り風な所があるもののあすこまではいかない。ヴェネツィさんは過度な歌い節はせず丁寧に進める。オケがもっとシャープに鳴れば丸ごとスケールデカく動き回る総動員演奏となっていたことだろうが、まあ、別の追い込みかもしれない。池田さんは少しだけの出番でa piece of cake。
コンマスの崔さん、一人で5人分ぐらいの音出してますよね。オケメン達ようやく目覚めてきたところかな。
おわり
2019年7月11日(木) 7pm
コダーイ ガランタ舞曲 16
サン=サーンス ピアノ協奏曲第5番ヘ長調op.103 エジプト風 10-10+6
ピアノ、リュカ・ドゥバルグ
(encore)
サティ グノシエンヌ第1番 3
Int
バルトーク 管弦楽のための協奏曲 9+6-7-4-10
ヘンリク・ナナシ 指揮 読売日本交響楽団
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3品、聴きごたえありました。
ガランタは出だしが難しいと思うが、果たして証明した感じ、案の定。
ナナシは時折ショルティばりのどぎつい振りになるところがあって面白いが、出てくる音は読響の正三角錐音場がいつにもましてよく動くもので、この機動性にバルトークもびっくりだろうね。
経歴見ると、コーミシェ・オーパーでコスキーと組んだりで5シーズン振ったりと、それやこれやでオペラ歴凄い。オペラ著名指揮者が来日してオーケストラル・コンサートのプログラムやっても、聴くほうは毎晩夜な夜な多数のオケ指揮者を見てしまって見慣れ聴きなれしてしまっている方々も少なからずいて、どうも、ふ~んてなもんで、オペラバックボーンを知りつつ聴くとまた別の音が聴こえてきそうなときもある。
オーケストラ・コンサート棒が余技的なオペラ指揮者も割といると思うの。
ピアノのドゥバルグはお初で聴きます。長身痩躯。スッと弾き始める肩ひじの張らないもの。サンサーンスの音がはっきりと聴こえてくる。理解が進む。叩きつけることのないピアノで、物凄く集中して弾いている。この曲に一歩近づいた。オーケストラの動きがこれほど面白かったかとちょっとびっくり実感。オケもピアノも明晰でわくわくな響きに満たされました。
アンコールのサティは空間に漂うようなところがあって、微妙に、こちらのピントが合うまで少し時間がかかった。集中した響きに支配された見事なものでした。
おわり
2019年7月4日(木) 7pm サントリー
ブラームス 運命の歌op.54 8-4-2
ブラームス 哀悼の歌op.82 13
Int
ブラームス ドイツ・レクイエムop.45 10-13-8-6-6-11-10
ソプラノ、高橋絵理
バリトン、与那城敬
ベルトラン・ド・ビリー 指揮 栗友会合唱団、新日本フィルハーモニー交響楽団
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ブラームスのオーケストラ伴奏による大規模合唱曲を一晩で三つ、充実した内容で大満足。
オペラオーソリティのド・ビリーはオーケストラのみならず合唱のコントロールにも長けている。冴えた棒には惚れ惚れする。運命の歌の後奏で魅せた味わい深いオケ、その前の合唱の波動をしっかりと受けとめた押しとどめるように深い呼吸の余韻。こういったことがいたるところにあらわれる。音の空気が全てに伝播していく。心地よい緊張感が全身を包む。実に気持ちの良い演奏。重くない演奏はむしろ爽やかな空気となり、いわゆるブラームス的な暗さは無くて、どういうマジックなんだろうと驚くばかりなり。
歌詞対訳を見ながら演奏を眺める。運命の歌の歌詞対訳は、ヘルダーリン配置を踏襲していて、原語、対訳日本語ともに一行ずつ行頭が下がっている。だからどうなんだ、という話しはあるかもしれないがこういった事のひとつひとつが歌へのこだわりを感じさせてくれるものだ。さりげなく充実感がそこはかとなく広がっていく。
次のネーニエは運命の歌と同規模で、これは昨年2018年に飯守、東京シティフィル&コアで接していて、聴くほうもなんだか余裕がある。リブレットをみながら味わい尽くす。ド・ビリー、特に左腕が段々と雄弁になってくる。
休憩を挟んで大曲のブラレク。
むしろさわやか。それはこの大作でも同じで、ブラームスの重力がなにやら空中浮遊でもしたかのような、ピッチが清涼に揃い一段持ち上げられたような合唱の美ニュアンスや力感の色々な表情が見事に冴える。しみじみとしたアトモスフィアから切れ良くピュアな森林浴の様まで、まあたしかに聴くほうは思いっきり浴びるだけで、もうなにも言う事はない。
歌詞対訳でさわりを見ながら聴く。ダーク透明、という響きの前進する力感。素晴らしい。ソリスト二人の歌唱もコーラスに溶け込んでいる。出番が沢山あるわけではないがナチュラルでシームレスに忍び寄るレクイエムの歌。
ド・ビリーのコントロールは抜群、限りなく素晴らしいもので、完璧な咀嚼と表現、きっとあの左腕にも魔法が漂っているのだろう。ド・ビリーのタクトはオペラ、オーケストラル演奏会で何度か観ている。この日の演奏も納得のもので大家と言うにふさわしい。と思うのだが、日本にたまにしか来ない指揮者だと、オペラビッグな指揮者来ても、ああこんな感じ、てなもんで、なんだかもったいない気もする。たびたび感じる。ちょっと残念。
充実の演奏会、大満足でした。ありがとうございました。
おわり