その1はこちら。
当時はその商売が前面に出ていたけれど、むしろ今ではオーソドックスな日本映画の豊潤さに溢れていることに気づかされる。金田一耕助役の石坂浩二と小沢栄太郎が、終戦直後の信州の街を二人で歩いている画など、おー、とうなるぐらいに良い。
それに犬神家の三姉妹、松子(高峰三枝子)、竹子(三条美紀)、梅子(草笛光子)……この三姉妹の名前はわかりやすっ!……それぞれの演技も、やるなーと思わせる。三人の着物の着方だけで性格がわかるようになっているのだ。これ、伝統のなせる技だろう。
他にも、この頃は大作といえば島田陽子だったよなーとか、旅館の女中役の坂口良子がちょっとびっくりするぐらいに可愛いとか、結局あおい輝彦は号泣するしかしどころが無かったんだなあとか、今だからわかるお楽しみが満載。市川昆の演出もシャープだ。
ところが、ミステリ映画としてみると突っ込みどころも満載だった。えー犯人を知らない人はいないと思うけれど一応断っておきます。ここからはネタバレ。
・島田陽子が乗ったボートに穴を開けた犯人の意図するものって?だってそんなことしたら……
・本物の佐清(すけきよ)が、復員してきて偽物の佐清が犬神家にいることに気づき、何を考えたかというと、“穏便に”入れ替わることだって。そんなの物理的に無理に決まってるじゃないかー。
・その偽の佐清、「わはははオレが犬神家を乗っ取ってやるんだー」と能天気に笑いながら犯人にずーっと背中を向けてるって、油断しまくりもいいところじゃないか?
・この犯罪のキモは、“事後共犯”ってヤツだけれど、自分が殺した相手が次々に変死体に変わっていくのを、その犯人が「どうでもいいと思っていた」(笑)って金田一、それはねーだろが。
ま、このように穴だらけの犯罪だけれど、よくよく考えてみると連続殺人をふせげない金田一耕助はつくづく情けない。でも、そこは無色透明な石坂浩二をキャスティングした妙と、怨念怨念と映画全体が訴えることで、なんとか観客をねじ伏せている。
なによりも、例の足二本とゴムマスクの佐清の不気味さはつくづくと映画向きの題材だったと思う。原作の選択は、間違っていなかったのだ。角川春樹のプロデューサーとしての才能をみる思い。でも、この犯罪の陰に麻薬があったことを考えると、因果はめぐるというか……
リメイク版の特集はこちら。
「港座再建計画~犬神家の一族」はこちら。
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