事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常〜ちょっとは仕事しろ。

「殿、利息でござる!」 (2016 松竹)

2016-05-24 | 邦画

このタイトルで、主演が阿部サダヲなのだから、歴然としたコメディだと誰だって予想する。イメージとしては「超高速!参勤交代」あたりかな。

でもちょっと肌合いは違った。いやもちろんコメディ色はかなり強いんだけど、実は感動大作でした。大作、は言いすぎか。でもわれらが庄内映画村、じゃなくて名前が変わってスタジオセディック庄内オープンセットで撮っているし、なにしろ超豪華キャストなのでそれくらいは(笑)。

おかげで領民は理不尽な賦役に苦しんでいた。そのため、一千両(現在の価値で3億円)の金を百姓たち(というか半農半商な感じ)は集め、藩に貸し出して苦役から脱しようとする。

これがメインのストーリーなんだけど、味わい深いのはむしろ金を集めてからのほうで、出資者たちはルールをつくって自らを律しようとするのだ。けんかや言い争いを慎み、寄付するときに名前を出すことを慎み、道を歩くときはすみっこを歩き、飲み会では下座に座る……そしてこれらを子々孫々にまで守らせようと決める。

だからこのお話は、寺の和尚が書き残していなければ、誰も知らないままになっていたことになる。なんという謙虚さ!

監督は伊坂幸太郎原作ものでおなじみの中村義洋。彼と「奇跡のリンゴ」で組んだ阿部サダヲ、「アヒルと鴨のコインロッカー」で組んだ瑛太(濱田岳がナレーションで参加)、「ゴールデンスランバー」やチームバチスタのシリーズ(もう新作つくらないのかなあ)の竹内結子が結集していい感じ。

そしてそして、最後に“あの人”が出てきたのでびっくり!他のお客さんたちは驚いていなかったようなので、みんな知ってたんですか。いやー驚いた。

実在する人々のお話なので、ラストに子孫が営むお店が出てくる。小さくて、つつしみ深い店構え。彼らの謙虚さは、まだちゃんと生き残っていたのだ。いい話だったなあ。

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真田丸 第二十回「前兆」

2016-05-22 | 大河ドラマ

第十九回「恋路」はこちら

前回の視聴率は17.0%と後退。裏のイッテQも下がっているので、わたしなどにはうかがいしれない視聴率の神様の差配があったのでしょう。

さて本日は、むごい話を前半はコント風に、後半は推理劇で描いて見せた三谷幸喜らしい回。

まず、本多忠勝(藤岡弘、身体の震わせかたですぐわかっちゃいました)が娘の嫁入りに家来のふりをしてついてくるあたりの親ばかっぷり、見ぬふりをする草刈パパの温情で笑わせ、そしてなにより、最初から死亡フラッグ立ちまくりで、そうか死んじゃったから後添えとして吉田羊を迎えるんだなと思ったら、なんとその前妻になっちゃった長野里美が大泉洋のおそばにひきつづきいることになる驚愕の展開。誰もが彼女を好きになっていたので、しんどい話になると思ったらこう来たかー。

「まだあなたをよく思い出せないんだけど」

松(木村佳乃)、そこまで言うか。いやー笑った。

で、後半はいかにも古畑任三郎を書いた作家らしく、淀君の懐妊に茶々を入れる(わたしだって笑点ふうのギャグをたまにはいれたい)落首の犯人捜し。

アリバイ(門番は小半時ごとに見回っていた)、方法(消し炭を使い、ハシゴが必要だった)からある人物が浮かび上がるが、彼は文字を書くことができなかった……

文盲であることで犯人ではないとするのはミステリの常道。逆に、文盲であるために惨劇を呼ぶミステリもありますけどね。戦国の古畑であるはずの信繁は、門番全員を磔にするという狂気の裁判官(秀吉)をおさえるために、しかたなく最初の容疑者を犯人にする。名探偵失格。そして、真犯人を言い当てた真の名探偵は石田三成(山本耕史)だったという、古畑ファンの期待を裏切りながらうならせるみごとな回でした。

歴史ファンの期待のほうはどうだったんだって?北政所(鈴木京香)が告白した「秀吉は子ができたから狂ったのではなく、昔から、それこそ信長よりも怖い人だった」的なセリフに震えたのでは。

今日は笑点がらみで日テレがえらいことになっているので、視聴率は16%台に後退かな。鈴木京香、竹内結子、斉藤由貴、長澤まさみの思惑バチバチなシーンだけでわたしはお腹いっぱいでした。今日はすべてが屋内シーン!満足。

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日本の警察 その84 「64(ロクヨン) 前編」(2016 東宝=TBS)

2016-05-21 | 日本の警察

その83「松谷警部と三ノ輪の鏡」はこちら

原作の、あの謎がすばらしかったのは、わずか7日間しか存在しなかった昭和64年の世相と分かちがたく結びついていたことだ。

現代のわたしたちにとってすっかりおなじみの“あれ”がまだ一般的ではなかったことと、天皇崩御という一大イベントのために、他の事件がほとんど報道されなかったこと。

読み終えて感動。多くのミステリベストでトップをとったのもうなずける。よく考えてみれば、娘を失い、あるいは失いそうになっている二人の(実は三人の)父親のお話なので、図式的すぎるという指摘があってもよさそうだったが、横山秀夫の筆力がすべてをなぎ倒した。

このすばらしい原作が、まずはテレビでドラマ化。NHKで横山秀夫原作とくればあの「クライマーズ・ハイ」だけれども「64」も脚本大森寿美男。主人公のピエール瀧がとにかくすばらしくて、妻と呆然としながら見ていたものでした。

そして今度は東宝で映画化。長大な物語(長大であることも小説的目くらまし)なので、前後編の二部作。監督は瀬々敬久。あの「ヘヴンズストーリー」で4時間38分という、わたしが見た映画のなかでいちばん長い上映時間の作品を構築した人。64をどう料理するのかしら。

昭和64年正月。ひとりの少女が誘拐され、身代金が要求される。犯人は少女の父親をさんざん公衆電話で移動させ、スーツケースに入った金の奪取に成功する。少女は死体で発見される。警察にとって屈辱の事態。しかしこのとき、警察はある事実を隠蔽していた……

ついていけるかな、と思うぐらいの暗いオープニング。しかし、県警内部の権力抗争が露わになったあたりからむやみに面白くなる。

主人公の三上(佐藤浩市)の娘は家出中。原作とドラマは“いかつい顔をした刑事がミス県警と結婚し、その娘は容貌にコンプレックスをもっていた”という、これまたきつい設定。ピエール瀧だと納得できても(笑)、佐藤浩市ではそうもいかない。そのあたりのアレンジも妙味ですかね。

瀬々の人脈からか、バーの従業員に山崎ハコ、ある事情でひきこもりになった青年の母親に烏丸せつこ。中年男が後編を見ずに死ねないと誓う、必殺のキャスティングでした。もちろん後編につづく

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明細書を見ろ!2016年5月号 服務事故その1

2016-05-20 | 明細書を見ろ!(事務だより)

2016年4月号「事務連絡つるべ打ち」はこちら

「教職員の服務事故について」

このことについて、下記のとおり発令したのでお知らせします。

1 教職員に関する事項
(1)校種 高等学校(区部)
(2)職名 主任教諭
(3)年齢 59歳
(4)性別 男

2 処分の程度  戒告

3 発令年月日  平成28年5月16日

4 処分理由

平成25年4月1日から平成27年7月28日までの間、勤務校校長に届け出た通勤届と異なる通勤経路及び方法である自転車による通勤を行い、通勤手当394,892円を不正に受給した。

……東京都教育委員会が発表した服務事故。ネット上でこれを読んだとき、ドキッとしました。おれは大丈夫かと。

なぜなら、わたしの通勤届は

「自家用車使用」

「通勤距離4.4キロ」

「所要時間10分」

で提出していますが、お天気のいい、風の穏やかな日は

「自転車(息子のお下がり)使用」

「通勤距離4.2キロ(田んぼ道のショートカット発見)」

「所要時間20分」

になったりするからです。戒告かしらわたしも。

気になって条例を読んでみたら「常例とする」という聞きなれない用語が使われていたりするので、あまりひんぱんだと危ない気がする。気をつけよう。

にしても、この職員の場合はやけに額がでかい。実は東京都と山形県の通勤については、大きな違いがあります。

都立学校の自家用自動車通勤に関する取扱要領にはこうあります。

「職員の自家用車通勤は、原則禁止とする。」

もちろん例外はあって、

島しょ地域に在勤(東京都は伊豆諸島、小笠原諸島など島がたくさんあり、日本の最南端と最東端はともに東京都小笠原村)

・公共交通機関を利用した自宅から勤務校までの通勤時間が1時間30分を超える者が、自家用自動車で通勤することにより、当該通勤時間を半分以下の時間に短縮できる場合

身体に障がいを抱える場合

……つまりは、よほどのことがないかぎり交通機関を使いなさい、使えるのは“不便公署”だけだというのです。この職員の場合は特別区に存する学校に勤務していたようなので、定期代で通勤手当を受給していたのでしょう。

実は山形県だって基本は交通機関利用。しかし、ほぼ全県が不便公署なので、こういう事例をあまり聞かないのも道理かと。明細の通勤手当の額を、しみじみとご覧ください。あ、さみしい結論になってしまった。

画像は「アイアムアヒーロー」(2016 東宝)

曜日感覚がマヒするGW。振替休日がしこまれているのは家族にもないしょ。さあ、映画館だ。

先月号が成人映画だったのに今月はR-15。そんなのしか見てません。

大泉洋と長澤まさみの真田丸コンビに有村架純がからんだゾンビ映画。いやー日本でもここまでの恐怖映画がつくられるようになったか。キャストはその代償としてお笑い要素が強く、大泉と塚地武雅とマキタスポーツがいっしょの画面に登場。笑えます。

その日がお休みだったのは、すぐに妻にばれました。笑えない。

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「スウェーデン館の謎」 有栖川有栖著 講談社文庫

2016-05-18 | ミステリ

Aという家とBという家がすこし離れて隣り合っている。近くには川が流れている。Bの家から火が出た。バケツはAの家にしかなく、消火に向かわなければならない。さて、あなたはどのようなコースがもっとも的確だと思うだろうか。

図にしてみるとわかりやすい。ネットからいただきました。


 
こんな感じ。わたしはひねくれ者なので

「消防署に電話するのがもっとも的確」

とか考えたんだけど、そういうトンチ問題じゃない。あくまで、実際に即したクイズなのだ。大人の多くはAの家からまっすぐ川に向かい、そのままBに向かう二等辺三角形を考える。でもね……

登場人物が出したこのクイズに、一瞬で正解したのがおなじみの火村助教授(いまは准教授ですか)だった。

「スウェーデン館の謎」は、典型的な雪の山荘もの。犯人の足跡がないことにどのような合理的な解決を提示できるかが勝負の本格ミステリ。わたし、上の問題と同じように唖然とするほど納得。国名シリーズのなかでも上位の出来だと思います。ドラマ化はいろいろと言われているようだけど、こうやって原作がどんどん重版してるのだからありがたい話だ。

え?上の答はなんだって?

あなたもきっと実際にその場に行けば正解できるはず。問題は、走る総距離ではなく、バケツを持って走る距離なんです。このような実質に裏打ちされた推理。さすが有栖川。さすが火村。

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「ジャック・リッチーのびっくりパレード」 ジャック・リッチー著 ハヤカワ・ミステリ

2016-05-17 | ミステリ

午前1時半から読み始め(これもしかしどうかと思う)、短編を2、3読んでから寝ようと思ったけれど大失敗。明け方までかかって25編ぜんぶ読んでしまいました。

すべて初訳。まだこんなに面白いのが残ってたのか。というかわたし、これまでの「クライム・マシン」をはじめとしたアンソロジーのなかで、これがいちばん好きかも。艶笑譚が多いし(笑)、おなじみのキャラ、ターンバックル刑事の迷推理と探偵カーギュラ(ドラキュラなんですけどね)の超人っぷりも快調だ。

積極的にリッチーを紹介し続けてくれた小鷹信光さん(去年の12月に亡くなった)の、ほとんど最後の仕事。作者も訳者も亡くなってはいるけれど、作品はこうやって残る。それどころか、リッチーにはもっともっとあふれるほどの短編が残っているわけで、誰か早くまとめてくれないですか。ああ面白かったあ。

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「戦場のコックたち」 深緑野分著 東京創元社

2016-05-16 | ミステリ

前作「オーブランの少女」(東京創元社)を読んだときに、なんとまあ不思議なことを考える作家がいるものだと思った。美しい庭園における、老婦人たちの殺人劇。その背景には、彼女たちが少女だった時代のある出来事が影響していた。当時、その“施設”では障害をもつ少女たちが、お互いを花の名で呼び合うことで生活している……

ある特定の時代の、ある特定の事件を思い起こせば「なるほどなあ」と納得できるオチ。しかしそこに持っていくまでの描写がとにかくうまい。

同じことが、この「戦場のコックたち」にも言える。というか、数段スケールアップしています。

19歳のキッド(無垢なる精神を象徴させたのだろう)と呼ばれる雑貨屋の息子が第二次世界大戦に従軍、ヨーロッパ戦線に配属される。兵隊たちにはそれなりのヒエラルキーがあって、やはりいちばん威張っているのは最前線で殺し合う連中。彼らは、兵站や調理を担う後方部隊を軽んじている(衛生兵は微妙)。しかしキッドは、料理自慢の祖母や、冷静な判断で調理と配給を行う先輩エドに影響を受けて戦場のコックとなる。

ノルマンディー上陸作戦(「史上最大の作戦」)、マーケット・ガーデン作戦(「遠すぎた橋」)など、戦争映画でおなじみの場面に遭遇しながら……あ、これっておぼえがあるぞ。そうだスピルバーグが製作した「バンド・オブ・ブラザース」じゃん!深緑は巻末でこのTVシリーズを参考にしたと宣言しているので、これを見てから読むと世界観ばっちりかも。

深緑の勝利は、徹底して細かいディテールを積み重ねた戦闘描写のなかに、なんと日常の謎ともいうべきミステリをしこんだこと。異様なシチュエーションにおける日常のミステリ。これはもう、描写がうまくないと成立しない。

なぜパラシュートの帆布をある兵士はひたすら集めるのか、一瞬で600箱の食料を消し去る手段とは……

ちょっとネタばれだけど、名探偵エドを途中で退場させ、結末で感動にもっていく手管も憎いくらいだ。しかもコックらしい解決まで提示して見せるんだよ。おまけに出てくる料理が(戦場だからありえないはずなのに)おいしそうなんだよなあ。深緑野分(英訳すればディープ・グリーン・タイフーンですか)おそるべし。買ってね。わたしは勤務校の図書館から借りたのでえらいことは言えません(笑)。

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真田丸 第十九回「恋路」

2016-05-15 | 大河ドラマ

第十八回「上洛」はこちら

前回の視聴率は予想よりも上がって19.1%。BSもひきつづき5%超え。地上波のゴールデンでもこのBSの数字を下回っている番組が多いというのに。

でも、わたしが視聴率を毎回気にするのは、ドラマの評価とは別ですからね。どれだけ、世間に受けいれられているかの指標。めずらしく他のドラマも見ていて「ゆとりですがなにか」(日テレ)や「トットてれび」(NHK)など、今期はいい感じ。

でもドラマの出来と視聴率は決してシンクロしない。視聴率とはそういうものなのであり、それでけっこうだと思っている。宮藤官九郎が低視聴率なのはいつものことだし(「あまちゃん」が異常だったのだ)、満島ひかりの黒柳徹子と錦戸亮の坂本九っぷりは、もっと多くの人たちに見てほしいけどね。中村獅童が渥美清ってのは、さすがに無理があるけど。

さて「恋路」。こういう直球なタイトルなときはそれなりに三谷幸喜はひねる。信繁(堺雅人)と茶々(中村獅童とはもう共演しない竹内結子)の微妙な関係を象徴しながら、同時に秀吉のコンプレックスむき出しの支配欲と、信幸(大泉洋)と稲(吉田羊)の政略婚まで一気呵成。

秀吉が絶対に茶々に見せなかった蔵にあったものとは……このあたりは恐怖映画の手法ありあり。ヒロインがとてつもないトラウマを抱えていることを視聴者は恐怖とともに納得。だからこそ、ラストで毅然として秀吉のもとに赴く姿が納得できる。茶々が淀君になった瞬間。恋愛劇なのに、誰も真の意味で恋に落ちていないのがすごい。

いけすかない中年男としては、本妻に若い女をどう側室に迎えるかを、城を落とすのと同じように相談する秀吉と、それを受けいれる北政所(寧々だけど)に羨望、じゃなくて苦笑。信繁の方は、きり(長澤まさみ)がいかにも本妻っぽいのがいい。

わたし、三谷幸喜の作品でいつも不満に思うことがあります。ヒロインはどうしたって竹内結子のほうが適役なのに、なぜか他の女優を使うことが多いんですよね。

まあ、遠回しに深津絵里はいかがなものかということなんですけど。あ、言っちゃった。

竹内結子ほど、意識的なコメディエンヌはいないはず。もっとどんどん使ってほしいな。たとえばこの真田丸における茶々が深津(うまいし、魅力的だけれど)によって演じられていたとしたら、そりゃー陰惨なお話に思えるはずだ。

今回はウェルメイドなハリウッド調を意識していたので、なおさら竹内結子のキャラが生きた回。すばらしい。視聴率は18%台かな。

第二十回「前兆」につづく

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「流(りゅう)」 東山彰良著 講談社

2016-05-14 | ミステリ

冒頭がなにしろすごい。

台湾出身者が大陸を訪れる。祖父の故郷。そこには石碑が建っていて、祖父が戦中に、日本人に協力していた村民のことごとくを殺したと刻まれている。いったいどれだけ血なまぐさい展開になるのだろう……と読者に予想させて、しかし作者はここでツイストを入れる。物語の語り手である主人公に、便秘で悪戦苦闘させるのだ。

このギャップ。「流(りゅう)」が直木賞を受賞し、かつ二十年に一度の傑作とまで持ち上げられる(by北方謙三)のは、このギャップによるところも大きいと思う。意外なことに全篇に破天荒なギャグが仕込んであるのだった。

1975年。蒋介石が亡くなったその年に、主人公の祖父が何者かに殺される。頭はいいが素行に問題のある主人公は、それから、常にその謎とともに生きることになる。

物語と常に並走する台湾の近現代史がめちゃめちゃに面白い。五十年におよぶ日本統治から国共内戦、そして外省人(中国本土からの移住者)と本省人の対立。1987年(ついこの間じゃないか)まで、台湾には戒厳令が布かれていたなんて知らなかったし、本省人と外省人では言語まで違っているだなんて(主人公は外省人の子孫なので、生意気な言語を使うと思われている)。

ベタな恋愛小説でもありながら、そちらにも謎をふりまき、最後までミステリの骨格はしっかり守っている。犯人は意外ではない。でもその動機と、被害者の祖父の気持ちには驚かされる。じいさんはなぜ抵抗せずに死んだのか。こちらで意表をつきます。感動。

台湾版「血と骨」だから読むのにかなり体力は要るけれども、満足感は保証します。作者も主人公もわたしとほぼ同世代なので、ブルース・リーと中森明菜に影響を受けるあたりの描写にはまいった。映画化は絶対無理だろうけど(理由はいろいろあります)、可能ならハオ・シャオシェンか崔洋一でお願いします。主演は……長谷川博己あたりはどうでしょう。うん、いいと思う。

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コンダクト・オブ・ザ・ゲーム〜コリジョン・ルールをめぐって。

2016-05-13 | スポーツ

コンダクト・オブ・ザ・ゲーム」(ジョン・ハフ・ジュニア)は、ずいぶんと若いころに読んだ野球小説だ。主人公は兄によって野球に目覚めるが、その兄は交通事故で亡くなってしまう。ひょんなことからジュニア・チームの審判をすることになった彼は、次第に“試合を指揮する”審判という存在にのめり込んでいく……

わたし、この小説を読んだときに、実は号泣してしまいました。第一章が、まるで自分の体験といっしょだったこともあって。

兄が願っていたことを、弟がどう実現するかという物語であり、野球だけでなく、偏見や差別にどう正確なジャッジを示せるかというお話でもあったのだ。いまでも読めるのだろうか。

野球の審判はそれほどに大切な存在だ。今日の巨人VSヤクルト(すげー試合でしたねえ)で解説をしていた桑田はいみじくも「審判が試合をつくるんですよね。だからビデオ判定とかは実はあまり好きじゃないんです」と語っていて、まったくそのとおりだと思った。

しかし。

コリジョン・ルールに関して、特におとといの阪神VS巨人における、小林の走塁を原口がブロックした捕手対捕手のシーンに、このルールが適用されたことに多くの批判が寄せられている。

わたしは納得できない。朝日放送のアナウンサーの言う、これが認められないんならバックホームの醍醐味が失せる、という考え方にわたしは反対だ。

野球は肉弾戦じゃない。肉弾戦を求める人たちが多いのは承知しているけれども、そこは考え方を改めるべきだと思う。元ロッテの里崎、鉄人衣笠など、わたしが尊敬するプレイヤーもいっせいにこのジャッジに異を唱えているが、成功体験がある人たちの言い分ではないかと不満。もっと審判を尊重しよう。

トレーニング法の改良などによって選手生命はずいぶんと長くなった。球団も“故障者が出るのは当然”という形でチームメイクをするようになってはいる。でも、やはり理不尽(わたしにはそう思える)な走塁を“醍醐味”と片付ける気持ちにはわたしはなれない。スーパープレイが生まれる要素は、もっと他に存在するはずだ。

おそらく、ルール改正したばかりだから過剰に厳格なのだというまとめにマスコミは入るだろう。でも、わたしはやはり捕手を守りたい。あのポジションは消耗品じゃない。ゲームをコンダクトしているのは審判だが、チームをコンダクトしているのはまさしく捕手ではないか。

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