事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

「永い言い訳」 (2016 アスミックエース)

2016-12-05 | 邦画

およそ一筋縄ではいかない映画でした。「ゆれる」「ディア・ドクター」「夢売るふたり」などの西川美和監督は小説家としても有望株で、この作品の原作で直木賞候補になっている。その先入観があるからか、画面の隅々にまで彼女の意思がきっちりつまっているのがひしひしと。

たとえばオープニング。美容院を経営している妻(深津絵里)に、自宅で髪を切ってもらっている小説家キヌガササチオ(本木雅弘)。夫のスマホに不倫相手からメールが入る。横目で見る夫。妻はそのまま友人とバス旅行に出かける。急いでスマホを手に取る夫。そこへ急にもどってくる妻。スマホを放り投げる夫。テーブルの上でストラップだけが揺れている……妻はそれを見ているのか見ていないのかも判然としない。夫婦の微妙な関係がこのシーン一発で理解できる。

たとえば髪の毛。山形でのバス転落事故で妻を亡くし、妻以外にしばらく切ってもらっていない夫の髪の毛は、ラストに向かってどんどん伸びていく。彼だけでなく、面倒をみることになった妻の友人の子どもたちの髪の毛も、彼らの心象風景のように描かれる。

妻の死に泣けない、うすっぺらいことしか言えない小説家を、本木雅弘はあいかわらず達者に演ずる。意外なほどゆるんでいる身体がどんどん締まっていくのも計算だろうか。苦手な深津絵里も、腹にいちもつ抱えた妻の役にぴたりとはまっている。

しかしそれだけだと観客はしんどいので、そら恐ろしいほどに自然な演技の兄妹の存在が画面を救う。とにかくめちゃめちゃにかわいいのだ。そんな兄妹を助けることで、小説家も次第に救われていく……という展開にもならないあたりがこの映画の意地の悪さ。でもラストは感動につつまれる。やるなあ。

どんな登場人物も正解にたどりつけないなかで、あの池松壮亮が生活者としてしっかりしていたり、黒木華が不倫相手として淫らだったりする展開もおみごと。人間のもろさと地震を関連づけるなど、うなる。ところで、マキタスポーツ木村多江はいったいどこに出てたんですかっ!

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真田丸 第四十八回「引鉄」

2016-12-04 | 大河ドラマ

第四十七回「反撃」はこちら

前回の視聴率は意外なほど回復して15.3%。BSで見ている人も異様に多いそうなので人気がないわけでもないんだな。今日もその面白さを痛感した夜。

裸城になってしまい、正面から戦っては勝ち目がなくなった豊臣勢。となればやることはひとつ、テロだということで佐助の出番。暗殺に成功したかに見えたのに家康お得意の影武者だったと。

ここで本物と影武者が入れ替わったりすればそれは隆慶一郎の「影武者徳川家康」の世界で秀忠と激突することになるんだけど、大河ではもちろんそうはなりません。

今回のタイトルは「引鉄(ひきがね)」。まさしく銃の性格を象徴している。「銃爪」でもいいんだけどそれは世良公則。今夜こそー、お前をぉ落として見せぇる!って歌だったんだけど、そこまで露骨だと銃爪ってなんのシンボルだったんですか(笑)

千利休の茶室跡から、騎馬武者用の新式銃が出てくる。利休がはたして何を考えていたものだか。標的は秀吉か、あるいは夏の陣を予想していたか。

つくづく、面白い回でした。戦勝を経験した幸村が、真の意味で智将として動く。まわりも幸村を知将として遇する。こういう場面をもっともっとやってくれればうれしかったんだけど、さすがに史実がそれを邪魔する。

父の昌幸が魅力的だったのは、失うものがあったからなのね。ようやく、幸村にも命をかけて守るものができてきた。死に急ぐだけの若僧には大河は背負えないもんなあ。来週は死を覚悟した幸村の回になるらしいけど(T_T)

一週ごとにメイクがお年寄りになっていく家康の凄み。だんだん本多正信(近藤正臣)とキャラがかぶってます。今回も視聴率は15%台キープかと。

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「君がいない夜のごはん」 穂村弘著 NHK出版

2016-12-04 | 食・レシピ

あの穂村が食についてのエッセイを。自分が他人とどれだけ違っているのか確信がもてずにいつもおびえているあの人が(笑)。

もっとも個的な行為である食事(セックスはきわめて対人的行為ですもんね)のことなので、その怯えは絶好調。ファンにはたまらない一冊となっております。

にしても、文士が傲岸に食について断定していたころから幾星霜。日本の食エッセイはここまで進化(退化?)しました。大好き。

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「穂村弘の、こんなところで」 穂村弘著 KADOKAWA

2016-12-03 | 本と雑誌

資生堂のPR誌(の範疇を大きく逸脱しているけれど)「花椿」に連載された、穂村弘がホスト、撮影が荒木経惟というとてつもなく贅沢な対談集。

花椿かあ、むかし母親も化粧品を買ったときにもらってきていたような。まだ出ているんだな。なんと全盛期には680万部も発行していたという。へー。

この、41人というこれまたとんでもない数の対談相手のなかには、“わたしの範疇”ではない人も多く、漫画家の渡辺ペコ、瀧波ユカリ、エッセイストの平松洋子、メレ山メレ子など、ひょっとして知らないでいたことが損なのでは、と思わされた。なにしろ穂村作品への彼女たちのつっこみがみごとだし。

それにね、荒木経惟(最後の対談相手でもある)の写真がいつもながらすばらしいんですよ。女優は女優として美しいのはもちろん、被写体として慣れていないはずの女性たちが激しく魅力的。これはもう、よほど被写体を、そして写真を撮るという行為を愛していないとこうはいかない。

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さらばカリスマ PART2

2016-12-03 | 社会・経済

PART1はこちら

鈴木氏がセブンイレブンにおいてやってきたのは、まさに“絶対に無理”と言われていたことの連続。

コンビニという業態自体が日本に合うはずがないと思われていたし、きわだっていたのはセブン銀行だ。当初は既存の銀行との連携を(当然)模索したわけだが、紆余曲折があって(時代もセブン銀行に追い風となっていた)自前の銀行を立ち上げることになった。コンビニの顧客拡大にどれだけ貢献したか。

他にも、有名なのが役員試食というやつで、鈴木会長はいっさい妥協しなかった。冷やし中華は11回キャンセルされたというし、チャーハンも1年8か月のあいだ店頭から消えたこともあったとか。

そんな鈴木会長が後継者として指名したのが井阪隆一氏。その井阪氏の社長在任の7年間、セブンイレブンは拡大を続け、利益も最高益を更新し続けた。しかし、鈴木会長は井阪氏に「退け」と命ずる。驚くようなイノベーションを実現できなかったではないかと。納得できなかった井阪氏は……

取締役会で決をとった結果、鈴木氏の人事案は否決され、彼はさっさと辞任を決める。日経の考察は

・イトーヨーカ堂創業家が代替わりし、鈴木会長との関係が微妙になっていた。

・鈴木会長の息子が(実績もないのに)取締役となっていたことで、世襲をねらっているとまわりが感じた。あるいは、そう指摘してセブン&アイの経営に介入したいアメリカのヘッジファンド、サードポイントを煽った人物がいた。

・鈴木氏が強力に推し進めるオムニチャネル(いま、ばりばりPRしてます)に、まわりが懐疑的だった

……いけいけどんどんの時代には、鈴木氏のようなカリスマは確かに必要だったかもしれない。しかしその成功体験が企業を次第に苦しめていく。部下も、カリスマの顔をうかがうことに懸命になる。

ダイエーがそうだったし、後継者を見限って自ら現役復帰した衣料品関係のあの経営者も油断はできない。IT関連なんかそんなのばっかりですもんね。引き際……誰にとっても、いちばん難しいところなのかも。

わたし?石にかじりついてでも働きつづけますよー(若手の「えーっ!」という声が聞こえる)。さて、イノベートはしなかったかもしれないが人柄はいいという井阪氏率いるセブン&アイの将来は?

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「さらばカリスマ セブン&アイ 鈴木王国の終焉」 日本経済新聞社

2016-12-02 | 社会・経済

春の転勤で、職場から自宅までに存在するスーパーはなくなった。おつまみを買うのにえらく苦労する。あるのはコンビニが一軒だけ。まあ、ないよりははるかに助かる。だってそのコンビニはセブンイレブンだから。なぜひいきにしているかというと

・労働金庫とセブン銀行が提携しているので、手数料ゼロで給与が引き出せる。

・わらび餅やおでんなど、他のコンビニよりも上質な商品が提供されている。

・700円ごとのくじがやたらに当たる(チャリ通のときに綾鷹の2リットルが当たったときは泣いた)。

・おにぎりに山形県産の「はえぬき」が使用してあるので美味しい(地元愛)。

・ひとり、やたらに綺麗な店員がいる。

……ということで、ご存知のようにコンビニ業界はファミマ、ローソン、セブンイレブンの三強時代。なかでも一店舗あたりの売り上げはセブンがダントツ。文句なく業界のトップ。

アメリカで生まれたセブンイレブンを、日本で展開し、本家が危なくなったのでなんとセブンイレブンジャパンが買収して救済。コンビニという存在を事実上定着させたのは、セブン&アイ・ホールディングスの前社長、鈴木敏文氏だったのだ。

彼はイトーヨーカ堂に入社し、たちまち頭角をあらわす。そして、まわりの反対を押し切ってアメリカの氷屋が経営していたセブンイレブンのライセンスを取得。日本の実態にアレンジしてどんどん規模を拡大していった。

1号店はいま話題の豊洲に開店。1974年のことだった。まもなくわたしが学生時代に住んでいた狛江にも出店。わずか5、6年で全国に1000店舗も展開していたのだ。

このころの狛江店は、店名通り午前7時から午後11時までの営業。それでも画期的な業態ではあった。めちゃめちゃな生活を送っていた貧乏学生にとってはまさしく「あいててよかった!」な存在。以下次号

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「御松茸騒動」 朝井まかて著 徳間書店

2016-12-02 | 本と雑誌


頭が切れ、出世欲のかたまりの青年が主人公。もちろんこの高慢ちきな小僧がどう変貌していくかの成長物語。だからおそろしく気持ちがいい。

尾張藩の名物が松茸だったとは知らなかった。前藩主の浪費によって財政が傾いた尾張は、本来御三家筆頭のはずなのに八代将軍の座を紀州の吉宗にうばわれるなど……おお、この前藩主とは清水義範が「尾張春風伝」で描いた徳川宗春ではないですか!とくれば彼が散財したのは浪費ではない。領民から今もなお慕われる彼と主人公のからみもいい。

もっといいのは、どう考えても結ばれるに決まっているヒロインに、主人公がその気持ちを最終章まで見せないあたりですかね。男ツンデレ

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今月の名言 2016年11月号PART3 大人のたしなみ

2016-12-01 | 社会・経済

PART2「田舎のプロレス」はこちら

「おいしい生活。」の決裁者は、当時の西武百貨店社長の堤清二さんという人だったんですが、このことばに決まった場合、それこそ女性問題とかが出たとき、週刊誌とかに『堤清二のおいしい生活』って書かれますよ。それでもいいですか?といったことは確認しています。そこは覚悟しておいてもらう必要があるから。そのとき堤さんからは、「それはもう結構ですよ」と言ってもらったんですけど。

……ほぼ日刊イトイ新聞から。あの名コピーの誕生裏話。ネットで調べたら、それどころかCMの出演を断ったウディ・アレンの映画を、セゾン系の映画館で公開するという条件まで出して承諾させたらしい。

2013年に亡くなった堤清二氏の、経営者としての才能には論議があるところだろう。でも父親との相克、弟との反目を経て(西友に就職した同級生は、清二には康次郎はデパートしか残さなかったと吐き捨ててました)、80年代の西武文化を花開かせた事実だけは確実に残る。

学生のころ、渋谷はすでに西武の街になっていて、西武のA館B館、そしてパルコはあまりにおしゃれで田舎者には敷居が高かったなあ。

堤清二は晩年、グローバリズムへの懸念を常に語っていたという。センスと経験が、そう言わせていたのかもしれない。

「どんなに高い壁を作って侵入者を避けようが、厳しく部外者を排除しようが、自分たちに都合のいいように歴史を書き直そうが、私たちを傷つけることになるだろう」

アンデルセン文学賞贈呈式での村上春樹のスピーチ。移民排除、歴史修正主義への警鐘だろう。イギリスのEU離脱、米大統領選におけるトランプの勝利、テロの頻発、極右的指向むき出しの日本の政治……2016年はとてつもなく暗いなかで暮れようとしている。

でも、ニヒらないでいきましょう。少しずつでも世の中のことにコミットして、若い世代のために、少なくとも今よりも悪くならないようにするのが大人のたしなみというものではないか。わたくししみじみそう考えております。

本日の一冊は「恩讐の鎮魂曲」 中山七里著 講談社
え、まさか続編が出るとは……だって前作で主人公があんなことになってしまうのに。まあ、そんなことで驚いていては、少年時代に快楽殺人を犯した弁護士なんてとんでもない設定を用意した中山七里をなめてることになるだろうか。

なにしろ主人公に感情移入するのがむずかしいので(わたしは好きですけど)、その分、展開は浪花節になってしまうのは仕方がない。ここまで来たらどこまでシリーズを続けられるのか、最後までつきあってみようと決心。

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今月の名言 2016年11月号PART2 田舎のプロレス

2016-11-30 | 国際・政治

PART1「TPP」はこちら

「強行採決なんてのは、世の中にあり得ない。審議が終わって、採決を強行的に邪魔をする人たちがいるだけでありまして。じゃあ、あの(野党の)人たちが本当に声を枯らせて質問書を破りながら腹の底から怒っているかといったら、『田舎のプロレス』と言ったらプロレスの人に怒られるが、ここでロープに投げたら返ってきて、空手チョップで一回倒れて、みたいなやりとりの中でやっている。ある意味、茶番だと思いまして、もうそろそろこういう政治のあり方は変えるべきだと思っている」

萩生田光一官房副長官が国家基本問題研究所で放った発言。この研究所の理事長は櫻井よしこ。名言シリーズでもうおわかりのように、“お仲間”の前だとこのように不用意な、サービス精神たっぷりの失言が発生してしまうようだ。

ところが、副長官が予想するよりもはるかに政治はプロレスと親和性が高く

「腹が立った。プロレスを知らないんじゃないか」

「プロレスは体を鍛えまくった人が相手の技をしっかり受けることが前提だ」

「存分に野党の言い分を聞く、それにきちっと答弁するのがストロングスタイルのプロレスだ。」

……めずらしく民進党の野田幹事長が気の利いたコメントを。それに、自民党にはあの人がいるのを忘れちゃいけない。

「俺と勝負するか?」

前文部科学大臣、馳浩氏の発言でした(笑)。彼が出てきたら、もうひとり、アントンの登場が待たれるところだけれどね。神取忍はどう思っているだろう。

もちろん、TPP参加を言い出したのは野田が首相だったときではないか、という自民党からの反撃もあるだろう。民進党も、その技をきちんと受けて立つことだ。それこそが、ストロングスタイルの政治。わたしはそういう政治を味わいたい。

本日の一冊は「深泥丘奇談・続々」綾辻行人著 KADOKAWA
ホラーの要素を慎重に取り去ってしまえば、ほとんど綾辻のエッセイ集と化す。だから謎の笑みをうかべる奥さんの描写が、小野不由美の日常であることがうかがえてファンとしてうれしい。ご近所に法月綸太郎もいるのね。にしても、同世代の綾辻が、健忘症、メタボなどに悩んでいる姿は、読んでいてとてもうれしい(笑)。

PART3「大人のたしなみ」につづく

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今月の名言 2016年11月号 TPP

2016-11-29 | 社会・経済

2016年10月号「オキナワ」はこちら

「もしここで賛成したらうそつきと言われても仕方ない。自民党議員が何でもかんでも安倍首相の言いなりではない。それを多くの人に伝えなければならないと感じている」

山形2区選出の鈴木憲和衆院議員(自民党)が、地元の国政報告会で放ったことば。彼はこの発言のとおり、TPP関連法案の採決がある本会議を退席している。

もちろん背景には、県内の農村部を基盤としている彼の選挙事情がある。今年の参院選では、TPPで攻めの農業に打って出ようとした自民党の候補が、反対を唱えた野党共闘の候補に大差をつけられて惨敗したことははっきりと影響しているだろう。

でも、安倍一強時代とされるなか、彼は筋を通した。これはお世辞でも皮肉でもなく立派だと思う。冷や飯を食らうことを覚悟でやったことだし、事実、彼は党農林部会長代理の職を辞している。

当然、自民党は党議拘束を破った若造を処分する……と思ったら

「処分に値しない。処分とはよほど立派な議員にすることだ」二階幹事長

と突き放している。処分しない、というかできないのだろう。鈴木議員にはこれからいばらの道が待っているわけだが、ここで処分するほうが自民党に損だという発想ぐらいはあるようだ。

自民党執行部だって忸怩たる思いはあるはず。TPPに反対することで議席を獲得したその政党(2012年のポスターがふるっている)が、手のひらを返すように、というかブレまくってTPP賛成に回るのを、少しは恥ずかしいと思っている……かなあ。

まもなく「永続敗戦論」を特集するけれど、アメリカの属国となっている日本が、米国次期大統領が就任初日に離脱を表明しているにもかかわらず、TPPに固執するのはいったいなぜなのだろう。以下次号

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