事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

「張込み」(1958 松竹)

2011-11-09 | 港座

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張込み (新潮文庫―傑作短篇集) 張込み (新潮文庫―傑作短篇集)
価格:¥ 660(税込)
発売日:1965-12
先日もテレビ東京でドラマ化されたようだけれど、今回は1958年の映画版のお話。

松本清張の原作はわずか二十数ページにすぎない短篇(新潮文庫)。むかしつき合っていた女のもとへ、逃亡犯が訪れるのではないかと刑事が張り込む、それだけの話なのだ。

でも何度も何度も映画化されているのには理由がある。吝嗇な夫の後妻として、日々を憂鬱にすごす人妻が、昔の恋人、石井(田村高広)に会えたその一瞬だけ輝くという横川さだ子の設定は、女優なら誰だって演じてみたいはず。そして、シンプルなストーリーからどうドラマを構築するかは脚本家の腕の見せどころ。課題曲みたいなものだろうか。

松竹は、この映画化に脚本:橋本忍、監督:野村芳太郎というゴールデンコンビを用意した。というより、清張映画の名コンビはこの映画からスタートし、のちの「砂の器」や「影の車」につながったのである。

さて、原作をこのコンビはどう変えたかというと、

1.張り込む刑事を柚木(大木実)ひとりから、下岡(宮口精二)とのふたりにした。

2.原作では一瞬にしてさだ子の住む佐賀市(原作ではS市と表記)に到着するが、映画では過酷な暑さのなかを進む刑事ふたりの描写が延々とつづく(すばらしいシーンなのでこのオープニングだけでもぜひ)。

3.原作では石井が殺人の実行犯となっているが、映画では従犯のあつかい。

……刑事の複数化はおみごとだと思う。ただでさえ起伏のないストーリーなので、柚木の独白だけですすめるのはしんどい。人生の先輩である下岡との会話から、柚木の私生活の悩みも浮かび上がる。その後のドラマ化で、ほぼこの路線が踏襲されているのは無理のない話だと思う。

刑事の安月給では、と大所帯をささえる恋人との結婚をためらい、銭湯に婿入りする話を断れないでいる男が、最後の最後に感情を激発させたさだ子に見せる温情。いいですなぁ。

そして、そんなさだ子の憂鬱と悦楽をきっちり演じてみせた高峰秀子がすごい。やはり、天才。この課題曲を、後進の女優が彼女以上に演じるのはしんどいですわ。

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