北穂高の岩壁で、三人の男女が一本のザイルでつながっている。いちばん上にいる若い男は製薬会社に勤務する幸田(川口浩)、いちばん下の初老の男は大学助教授の滝川(小沢栄太郎)。そして男ふたりにはさまれているのは滝川の妻、彩子(若尾文子)だ。ふたりの体重をささえて幸田の腕は限界に近い。彼女は夫とつながるザイルを切り、生きのびる。
世間は騒然とする。滝川の死によって彩子は500万円の保険金を受け取ることがわかったからだ。はたして彼女は保険金と、好意を寄せる幸田の双方を手に入れるために夫を殺した悪女なのか……
裁判の行方とこれまでの彩子の過去がカットバックされる。貧しかった彼女は、ほぼ強姦されるように滝川の妻にされ、愛のない生活に疲れ果てている……
彼女の心がどのようなものだったかを、裁判とともに明らかにしていくストーリーだと思っていた。ところがところが、意外な結末が待っていて驚く。
要するにこれは監督の増村保造による、若尾文子をどう美しく(そして怖ろしく)見せるかの実験映画のようなものだったのだろう。
幸田の会社に(いくら雨が降っているとはいっても)ずぶ濡れのまま訪れ、ある行動をする彼女は、よく考えてみれば非常識きわまりない。思いつめ、身体中が濡れている彼女の姿は要するに狂気の具現化だ。
その狂気があまりに美しすぎるので、このドラマでいちばん悪いのはいったい誰なのか、観客はわけがわからなくなる。それまで、庶民のアイドルとしてしか認識されていなかった女優の、突然の変貌がなければおよそ納得できなかったかもしれない結末。若尾文子おそるべし。
増村保造はその後、“大映テレビ”のエース監督として「赤いシリーズ」「不良少女とよばれて」「スチュワーデス物語」などで活躍するんだけど、クレイジーな展開は共通でも、若尾文子の狂気とは、質も美しさも違っていたなあ……
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