事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

日本の警察~その62「教場」 長岡弘樹著 小学館

2013-10-23 | 日本の警察

51sawpcpzl_sl500_aa300_ その61「警視庁捜査一課刑事」はこちら

もしもすべての警察官が、この警察学校を卒業しているのだとすれば、わたしは警察官をめちゃめちゃ尊敬する。この苦行の6ヶ月を耐えることができるなんて!

いや冗談ではなく、彼らはこんなテストもこなしている。

【雨の日、交通量の多い道路(制限速度は時速50キロメートル)を70キロで走行していた車があり、当該車両の速度違反を追尾式レーダーによって確認した後、路肩に停止させた。この状態から、レーダーの記録を用いることなく、口頭のみによって取り締まりを行え】

素人には全然わかんないっす。

風間という白髪の教官が担任するクラスには、さまざまな動機で警察官になろうとする生徒がいる。あるものは私怨、あるものは社会の役に立ちたいと……彼らの思惑は錯綜し、衝突し、結果として退学するものも出てくる。風間はそんな彼らを糾弾し、そして救う。

実際の警察学校において、途中でリタイアするのは10%程度だとなにかの本で読んだおぼえがあるけれど、この学校に限ってはそんなレベルではない。嫉妬や憎悪がうずまいているので、勝ち残った卒業生たちは、きっと横山秀夫の作品に登場するような、立派で、しかもひねくれた警官になっていくんだろうなあ。

名探偵、というより風間はほとんど神に近く、柳広司のジョーカーシリーズの“魔王”結城中佐を思い起こさせる。そんな魔王が事件捜査の最前線になぜいないか、という謎も最後に明かされるなど、ミステリとしても上等。ぞろ目とか9で割り切れるナンバーのクルマは暴力団員のものであることが多いとか、情報小説としてもかなり面白い。情報が、ちゃんとドラマにからんでますもの。

連作だけれど、風間とともにひとりの優等生がよく登場し、こりゃあ最後にこのお兄ちゃんがなんかかますな、と予想したらそのとおり。彼がメインとなる最後の短編はすばらしい出来ですよ。警察学校が“学校”であることを痛切に思い知らせてくれます。まさか卒業文集がミステリのネタになるとは……

地元作家長岡が「傍聞き」につづいて放つ傑作。小学館が大宣伝をしかけたことにもよるだろうけれど、出版社が勝負をかけたくなる作品を書き上げた長岡弘樹はこれで第一線に躍り出た。めでたい。

その63「人質」につづく

教場 教場
価格:¥ 1,575(税込)
発売日:2013-06-19
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